エフフォーリア1強ならダービーに牝馬出走の可能性も
無敗で皐月賞を制覇したエフフォーリア(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規
エフフォーリア(父エピファネイア)が、前後半「60秒3-60秒3」=2分00秒6の決着になった稍重の皐月賞を正攻法で流れに乗り、3馬身差の圧勝を決めた。
渋馬場を気にする馬には苦しい芝コンディションではあったが、紛れのない総合力が問われたレースと考えるなら、これは決定的な差だった可能性がある。
グレード制が敷かれた1984年以降、無敗(4戦4勝、あるいは5戦5勝)で皐月賞を制した馬は、1984年のシンボリルドルフから、2020年のコントレイルまで過去「8頭」。無敗の3冠馬の1984年シンボリルドルフ、2005年ディープインパクト、2020年コントレイルの3頭は当然この中に入り、4戦4勝のまま引退した2001年アグネスタキオンと、2019年のサートゥルナーリア以外の6頭はすべて「2冠馬か、3冠馬」になっている。
その1984年以降、皐月賞を「3馬身差以上」で勝ったのは、1985年ミホシンザン、1994年ナリタブライアン、2011年オルフェーヴルの3頭だけ。ミホシンザンは3冠を「1着、不出走、1着」。ナリタブライアンは「1着、1着、1着」。オルフェーヴルも「1着、1着、1着」。皐月賞を3馬身差以上で勝った3頭は、決して無敗馬ではないが、出走したクラシック3冠で負けた記録がない。
皐月賞を制した横山武史騎手(22)は、父の横山典弘騎手(クラシック5勝)、祖父の横山富雄騎手(クラシック2勝)に続き、史上初の「父子3代」連続のクラシックジョッキーとなった。ビッグレースでは乗り替わりが珍しくないが、横山武史騎手はエフフォーリアのすべてのレースに騎乗して4戦4勝。乗り替わりなしで皐月賞を勝ち、日本ダービーまで進んだコンビは、1984年以降、シンボリルドルフ(岡部幸雄)のダービー1着から、2014年のイスラボニータ(蛯名正義)のダービー2着など計10頭。コンビを守ると【7-1-1-1】の良績がある。
これで最近10年、「共同通信杯から直行→皐月賞1着」を決めた馬は、エフフォーリアが5頭目となった。その2月の「共同通信杯」1800mは、前半は緩く流れたものの、後半1000mは「12秒3-11秒9-11秒5-10秒8-11秒5」=58秒0(上がり33秒8)だった。エフフォーリアはこれを2馬身半差で完勝している。良馬場の方がはるかにいい。
父エピファネイアは日本ダービー2着、その父シンボリクリスエスも日本ダービー2着、母の父ハーツクライも日本ダービー2着だが、みんな距離がこたえて負けたわけではない。父の母シーザリオはオークス1着、その父スペシャルウィークは日本ダービー1着。イトコのアドマイヤムーンは2007年のジャパンC1着。血統図には東京2400mの快走馬がズラリ並んでいる。衆目一致のダービー候補が生まれた。
2着に粘り込んだタイトルホルダー(父ドゥラメンテ)は、横山武史騎手で勝った弥生賞2000mが、前後半「62秒6-59秒4」=2分02秒0(上がり34秒5)。ちょっと流れに恵まれた印象が残ったため、今回は伏兵止まりの人気だったが、あの粘り腰は本物だった。
間隔を取りつつのスケジュールは、栗田徹調教師が、義父になる前出イスラボニータを手がけた栗田博憲(元)調教師の助言を参考にした慎重な日程だった。実際、今回は弥生賞以上にすばらしい仕上げだった。
父ドゥラメンテは2016年の春の2冠馬。5勝した母メーヴェ(その父はモンジュー産駒の英ダービー馬Motivatorモティヴェイター)は、栗田博憲厩舎の活躍馬であり、タイトルホルダーの半姉は340キロで菊花賞5着の牝馬メロディーレーン(父オルフェーヴル)。祖母の父Shirley Heightsも英ダービー馬。クラシックタイプのそろう血統背景はエフフォーリアに劣らないところがある。日本ダービーの2400mに不安はない。
インから3着に突っ込んだステラヴェローチェ(父バゴ)は、ソダシの主戦も務める吉田隼人騎手の思い切った好騎乗が大きいが、5着(0秒5差)にとどまった共同通信杯から立て直しに成功していた。共同通信杯は、不良馬場で1分39秒6も要したサウジアラビアRCのあと、7秒以上も差の生じた1分32秒4の朝日杯FSを2着、明らかにレース運びのリズムを崩したところがあった。今回のようにパワーの必要な馬場はまったく苦にしない。この馬も距離2400mに不安はない。今回の内容は十分に日本ダービーにつながる。
4着にとどまったアドマイヤハダル(父ロードカナロア)は、道中ずっとエフフォーリアの直後をキープしマークしていた。4コーナーで少し外に回ったくらいなので、まだ余力はあると思えたが、エフフォーリアに離され、先行のタイトルホルダーにも追いつけなかった。きれいなストライドなので、この稍重馬場でずっとイン追走がこたえたのはたしかだが、最後に力尽きたあたり、スタミナ面にちょっと課題はあるかもしれない。
残念だったのは、1番人気で15着に沈んだダノンザキッド(父ジャスタウェイ)。パドックで気迫満点というより、気負い過ぎに近かった。追い込みの利きにくい馬場コンディションの中、絶好のスタートを切り、こちらが外でその内がエフフォーリア。どちらかといえば外でライバルを見る位置のダノンザキッドの方が有利に映ったが、落ち着き払っていたのは勝ち馬。こちらはかかり気味というか、前半から余裕がなく、3コーナー過ぎに鞍上の手が動いたあたりからもう怪しかった。最後はあきらめたので着順はあまり関係ないが、2回連続の敗走はダノンザキッド自身の内面に大きいだろう。
2009年、1番人気で14着に凡走した皐月賞から、大きく巻き返して日本ダービーを制したロジユニヴァース(2番人気)の例はある。陣営は「もう一度、がんばりたい」と気を入れ直す構えをみせた。似ないで欲しいが、父ジャスタウェイはこの時期、「NHKマイルC6着→日本ダービー11着」。3歳春は心身ともに未完成だった。
最近10年、日本ダービーは皐月賞組が8勝、出直すスケジュールになった京都新聞杯組が2勝。エフフォーリア1強の図式なら、多くの路線で次つぎと快走の続く牝馬が回ってくるのではないか、そんなささやきもあったりする。