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トレーニングセールがまた一歩前進

  • 2021年05月12日(水) 18時00分

今後のセリを占う“ハイブリット方式”に好感触


 5月11日(火)、札幌競馬場を会場に、2019年以来2年ぶりとなる「北海道トレーニングセール」が開催された。主催はHBA日高軽種馬農協。

 新型コロナウイルスの変異種が猛威を振るうさなかとあって、オンラインによるネット入札と現場での通常形式でのセリとの併用で実施された。会場では、入場時に検温と手指の消毒を義務付け、場内の飲料水の自販機を利用不可(不特定多数が間接的に接する可能性がある)としたり、昼食は食券との交換でお弁当を各自座席に持ち帰って済ませること、などのルールが決められていた。

生産地便り

会場入り口では検温と手指の消毒を義務付けられていた


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コロナ禍における様々な制限の中で行われたトレーニングセール


 セリに先立ち、前日の10日(月)は、午前10時よりダートコースを使用しての公開調教が実施された。前日までは比較的暖かな気候に恵まれた札幌だが、この日は一転してどんよりと曇り、しかも終始霧雨で気温が低く、北寄りの風が冷たく感じるあいにくのコンディションであった。

 上場頭数の少ない今年は、公開調教もゆったりとしたスケジュールで行われ、4つのクルーに分割し、各クルー16組〜17組が1組ごとに併走でコースを駆け抜ける。4コーナーに立つ残り400mのハロン棒から計時される。

 一昨年までは公開調教クルー表に騎乗者名が表記されていたが、今年はホッカイドウ競馬所属の騎手たちが新型コロナウイルスの感染リスクを回避するため、トレーニングセールでの騎乗を見合わせることになったらしく、そのため上場馬を抱える各育成牧場は騎乗者の確保に頭を痛めることになったという。そのせいか、今年は騎乗者の平均斤量がやや重い印象で、65キロ〜70キロくらいの騎乗者が多く、50キロ台は稀であった。

 調教タイム最速は、2ハロン合計、1ハロンのみのいずれも第1クルーから出た。2ハロン合計の最速は、第2組に登場した103番ヘイハニーの2019(牝、父トゥザワールド)で、11秒26、11秒21の計22秒47。また、1ハロンのみでは、やはり第1クルー第4組に登場した28番カシマフラワーの2019(牝、父モーリス)の10秒98が最速であった。後述するが、因みにこのカシマフラワーの2019は、翌日のセリでも最高価格馬となった。

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2ハロン合計の最速を記録したヘイハニーの2019


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1ハロンのみの最速はカシマフラワーの2019


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カシマフラワーの2019は翌日のセリでは最高価格馬となった


 騎乗者の斤量に原因があるのか、または馬場状態の影響でもあるのか、全体的に、調教タイムは従来よりも遅めであった。かつては1ハロン10秒台が続出していたが、今年に限っては、11秒台止まりの馬が多く、仕上がりもややばらつきが目についた。

 落馬こそ1頭いたものの、骨折などのアクシデントはなく、全体としては平穏に公開調教を終えた印象だ。ただし、例年にも増して寒く、2階スタンドのカメラマンブースに陣取っていると、体の芯から冷えてきた。真冬の服装でなければとても耐えられないくらいの条件であった。

 公開調教には124頭が登場し、午後2時半過ぎには全て終了した。一昨年と比較すると約半数で、頭数が少ないのがむしろ助かった印象である。

 翌11日は、午前10時のセリ開始である。結果はすでに報じられている通り、124頭(牡71頭、牝53頭)が上場され、83頭(牡46頭、牝37頭)が落札された。売り上げ合計は6億5131万円(税込み)。平均価格は、784万7108円(牡810万4130円、牝752万7568円)。中間価格は638万円(牡665万5000円、牝594万円)。売却率は66.94%。

 最高価格は前述した通り、28番カシマフラワーの2019(牝、父モーリス、母の父ヘクタープロテクター)で3300万円(税込み)。生産者・販売者は(有)北島牧場。飼養者はエイトステーブル。落札者は山本益臣氏。

 次点は87番ピーチドラフトの2019(牝、父ドレフォン、母の父サクラバクシンオー)の2035万円。生産者は芳住鉄兵氏、販売者・飼養者は(株)山崎STABLE。落札者はノーザンファーム。

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2番目の価格で取引されたピーチドラフトの2019


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前日に行われた公開調教では2F23.87のタイムで走破


 牡馬では、138番モアスマイルの2019(父カレンブラックヒル、母の父ホワイトマズル)の1705万円が最高価格であった。生産者は(有)千代田牧場、販売者・飼養者は(株)門別牧場。落札者は井山登氏。

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全体で3番目、牡馬では最高価格となったモアスマイルの2019


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公開調教では2F合計における全体順位で8位と好タイムをマーク


 セール終了後、日高軽種馬農協の木村貢組合長は「ほぼ自分たちが予想していた範囲の結果が出たと思っています。一ヵ月前くらいに北海道農政部と打ち合わせをしまして、こういう感染拡大の中でも、競走馬市場というのは、他のイベントとは異なり、生産者や育成者の生活のための通常のせりであり、一般の畜産物と同等であるとの判断を頂き、開催することができました。

 ブリーズアップセールである程度の手応えを得られましたので、ハイブリッドによるオンラインと通常セールとの両方による市場開催ができたと思います。昨年の1歳市場での好調な売れ行きから今回のトレーニングセールは150頭前後であろうと予想していましたので、ほぼその通りの結果になりました。売却率は3%ほど下落しましたが、平均価格はアップしておりますので、引き続き、購買者の方々の購買意欲は依然としてあると考えております」と総括していた。

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ハイブリッド方式での開催に手応えを示した木村貢組合長


 今後は7月のセレクションセールから10月のオータムセールまで1歳市場が続く。さらに言葉を続けて木村組合長は「(日高地方は)田舎ですし、宿泊場所の確保の問題もあります。コロナ以外でも自然災害による影響などもあり、今後はこうしたオンラインでのセリ参加も取り入れながら開催する予定で、昨年のように市場開催中止することにはならないと思います。

 考え方としては、通常開催、オンラインと並行でのハイブリット方式、そして完全な無観客によるオンライン市場と三通りあるわけですが、今回の結果で購買者、販売者のコンセンサスはある程度得られたものと考えております」とコメント。

 今後、新型コロナウイルスの変異種がどこまで感染拡大するものかまったく予断を許さないが、少なくとも競馬はほぼ開催を続行できており、今年の1歳市場も無事に予定通りの日程で開催できるよう願うばかりである。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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