元競走馬のアヴニールマルシェ(提供:一般社団法人西町ホースパーク)
素直で優しいアヴニールマルシェ
西町ホースパークには、賢くて自分をしっかり持っているウインクリューガーの他に、元競走馬のアヴニールマルシェがいる。
アヴニールマルシェは、2012年2月4日に、北海道安平町のノーザンファームで生まれた。父はディープインパクト、母がヴィートマルシェ、その父フレンチデピュティという血統だ。
藤沢和雄厩舎の管理馬となった同馬は、デビュー前から評判となっており、2014年6月の東京芝1800mの新馬戦で1番人気に応えて見事初戦を飾った。2戦目の新潟2歳S(GIII)では、ミュゼスルタンのハナ差の2着、3戦目の東京スポーツ杯2歳Sではサトノクラウンのクビ差2着と、いずれも1番人気に推されながら惜敗している。3歳になってからは、共同通信杯(GIII)5着、NHKマイルC(GI)4着と好走していたが、その後は勝ち星からすっかり見放されて時が流れた。2勝目を挙げたのは2018年7月の新潟の障害未勝利戦。障害転向初戦を白星で飾っている。だが障害2戦目の障害オープン6着ののち、残念ながら屈腱炎を発症。通算18戦2勝の成績で競走馬登録を抹消されて、第二の馬生を送るために西町ホースパークへとやって来た。
デビュー戦でのアヴニールマルシェ。鞍上は北村宏司騎手(撮影:下野雄規)
アヴニールマルシェは、西町ホースパークの代表の言葉を借りれば「ビビりやさん」で、怖がりな面がある。種牡馬気質を残しているウインクリューガーとはタイプが違い、さほど馬に慣れていない人でも扱えるような、素直でとても優しい馬だそうだ。野馬追にはまだ参加の経験はないが、いずれは出場する予定だという。
元競走馬2頭の他に、ユニコーンという馬名の馬がいる。とある施設で過ごしていたが、西町ホースパークで余生を過ごすために移動してきた。ベルギー産の中間種ということもあり、体は大柄、蹄鉄のサイズもサラブレッドに比べるとかなり大きい。けれども子供が曳いて歩けるし、乗っても大人しく安定感がある。600キロは超えていると思われるが、乗馬用に生産されただけあって、精神的にも落ち着きがあり、サラブレッドとは全く違うと感じるそうだ。
ユニコーンはホースパークに来て3年目になるが、こちらもまだ野馬追未経験。アヴニールマルシェ同様、いずれ野馬追に参加する予定だ。
ベルギーうまれのユニコーン(提供:一般社団法人西町ホースパーク)
馬との1日はあっという間!
西町ホースパークの1日は、朝4時から始まる。馬たちを放牧して馬房掃除をする。その後、経営するコンビニエンスストアの仕事をこなし、合間に馬たちに日々の運動をさせる。運動は西町ホースパークの敷地内で、速歩、駈歩を行っており、相馬農業高校の馬場で障害を飛ばせてもいる。高校は近所なので馬に跨って通っている。
「ウインクリューガーやアヴニールマルシェは競走馬時代に障害を飛んでいましたしね。ユニコーンも(障害を)飛びますよ」(西町ホースパーク代表)
手伝いに来てくれる人がいる時は、3頭連れ立って高校に向かう時もあるが、基本的に乗るのも、手入れするのも、馬房の掃除をするのも代表1人なので、障害を飛ばすために高校の馬場に行くのは、今日はウインクリューガー、明日はアヴニールマルシェというように、1日1頭のみだ。ひと通り日課を説明してくれた代表は「1日はあっという間に終わります」と明るい口調で話した。
今回は知人から送られてきたウインクリューガーの画像が取材のきっかけになったわけだが、その画像には「手入れがすごくされていて、21歳とは思えないくらいツヤツヤです」という言葉が添えられていた。確かに毛ヅヤの良さが画像からも伝わってきて、運動や手入れなど手をかけて大切にされていると感じた。ただ高校時代から自分の馬を持って世話を続けてきた人にとって、馬に手をかけて大切にするのは、ごく当たり前のことなのかもしれない。
ウインクリューガー、21歳とは思えないくらいツヤツヤ!(提供:Y.Hさん)
昨年の相馬野馬追は無観客で神社敷地内の神事のみと規模を縮小して行われ、今年は本祭りの雲雀ケ原祭場地は無観客で行われると発表があったが、西町ホースパークはコロナ禍の状況を考慮し、相馬野馬追への参加を見合わせる意向だ。脈々と伝承されてきた相馬野馬追。東日本大震災や今回の新型コロナ感染症の流行など、幾多の困難を乗り越えながらもその歴史はこれからも受け継がれていく。来年こそは祭りに賑わいが戻り、ウインクリューガーら西町ホースパークの馬たちも祭りに参加できる日が来るよう、祈りたい。
(了)
▽ 競走馬のふるさと案内所(ウインクリューガー)
https://uma-furusato.com/search_horse/0000708926.html※事前連絡なしの急な訪問等はお控えください。