ゲートインのファンファーレでは拍手も
ダービーシリーズの最終戦、6月20日の高知優駿を現地観戦した。
コロナ以降は、身近にある南関東の競馬場ですら、さまざまな状況を考えて現地取材は自粛しているのだが、一方で地方都市の競馬場は長距離移動のリスクはあるものの人はそれほど多くはなく、ようやく機会を見て現地取材にうかがえるようになった。
高知競馬場の訪問は、コロナ以降では初めて。調べてみたところ2019年9月16日の西日本ダービー以来だった。
入場時には当然のことながら検温と手指の消毒があり、場内には至るところに消毒液が設置され、そのための人員も配置されている。高知競馬は馬券の売上が回復という以上に上昇を続けていて、それゆえそうしたところにも人手や予算をまわすことができるが、コロナ禍のタイミングが何年かずれていて、売上がどん底の時代だったら、果たしてそういう対応ができたかどうか、と考えてしまった。
好天に恵まれたこともあって、競馬場は予想していた以上に賑わっていた。入場者は869名だったという。コロナ以前、2018年度の高知競馬場の1日平均入場者が656名だから、コロナ以前の日常より多くの人が来場していたことになる。
コロナ対策がされた状況でも盛り上がった高知優駿当日の高知競馬場
高知優駿の当日ともなれば、コロナでなければ、何かしらのイベントが行われたり、臨時の飲食店を展開したりということがあったのだろうが、さすがに現状ではそういうわけにもいかず、飲食店も常設店舗のみ。本来であれば、多くのファンに競馬場でレースを見て欲しいというのが関係者の思いであろうが、今は積極的に来場を呼びかけるわけにはいかず、そうした苦悩もわかるようだった。
高知優駿当日だからなのか、この日はそれ以外の番組も充実していて、今年最初の2歳新馬戦が第1レースに組まれていた。その1着賞金は、なんと220万円!
高知競馬では売上が落ち込んでいた時期には2歳馬の入厩がほとんどなく、2歳戦が行われない時期が何年も続いた。それでも売上が上昇に転じて数年後に復活した2歳戦は、新馬戦の1着賞金が50万円。当時はまだ最下級条件の1着賞金が10万円で、50万円でも「高額賞金の新馬戦」として盛り上がったことが懐かしい。なにしろ、JpnIIIの黒船賞を別にすれば、高知県知事賞が150万円、それ以外の重賞1着賞金が60〜100万円という時代だから、新馬戦の50万円は“高額”だった。
昨年の2歳新馬戦は100万円。それが今年は一気に220万円に跳ね上がった。門別で年間数レース組まれる高額賞金のJRA認定スーパーフレッシュチャレンジが300万円で、通常のJRA認定フレッシュチャレンジが200万円、南関東の2歳新馬戦が270〜290万円だから、高知の220万円は、もはやそれらに近いレベルにあるというのも驚きだ。
その新馬戦を勝ったのは、単勝1.1倍の断然人気に支持されたアグネスデジタル産駒の牡馬、サンロングビューだった。
メインの高知優駿については6月1日付の
本コラムでも触れたとおり、1着賞金は1000万円。地方全国交流で、その高額賞金ゆえ他地区の出走枠4頭には多数の登録馬があり、各地の有力馬が選定された。
ゲートインのファンファーレでは拍手が起こった。高知競馬のある職員が「高知で拍手が起こるなんて初めてかもしれない」と言っていた。コロナで声を出しての応援が制限される状況にあっては、中央競馬でも限られた入場者から拍手が起こるような場面が何度かあったが、そうした応援が定着したのだろうか。一冠目の黒潮皐月賞を制していた地元期待のハルノインパクトが直線で完全に抜け出したところでも、また拍手が起こった。
高知競馬名物ファイナルレースのひとつ前にはA-1特別戦が組まれ、高知の現役最強スペルマロンが出走。1頭だけ最高重量の別定58kgも問題にせず、3コーナーで先頭に立つと2着に3馬身差をつけてまったくの楽勝だった。
高知競馬は売上が落ち込んでいたとき、打開策のひとつとして2009年7月から通年ナイターにかじを切った。ネット発売での売上に期待してのことだが、当時はまだ売上全体に占めるネット(電話)の割合が、高知競馬で20%程度、地方競馬全体でも25%程度しかなかった時代。それは最終手段ともいえる大きな“賭け”だった。
その3年後、2012年にJRA-IPATで地方競馬の馬券発売が始まったという、タイミング的にもその先見性がうまく機能し、高知競馬の売上はV字急回復を遂げた。
高知優駿当日の競馬場の賑わいは、『一発逆転ファイナルレース』などがネットを通じて注目されたことで、競馬場にもファンが戻って来たということではないか。コロナを気にすることなく自由に人が動けるような状況になったとき、ネット発売だけではない高知競馬のさらなる盛り上がりが見られるかもしれない。