スマートフォン版へ

【宝塚記念】早めに外に出さず枠なりに 後続の馬たちに隙を与えなかったルメール騎手の判断

  • 2021年06月29日(火) 18時00分
哲三の眼

初コンビのクロノジェネシスとともに勝利を飾ったルメール騎手 (C)netkeiba.com


上半期のGIレースを締めくくる一戦、今年は1番人気のクロノジェネシスが制しました。今回、哲三氏は4コーナーでのルメール騎手の判断に注目しつつ、2着、3着となった坂井瑠星騎手、川田将雅騎手の騎乗も分析。自身の宝塚記念でのエピソードも明かしています。

(構成=赤見千尋)

馬場の状況をしっかり把握出来ていた


 宝塚記念は1番人気に支持されたクロノジェネシスが強い競馬を見せてくれました。鞍上のクリストフ(・ルメール騎手)は普段のレースとはまた違ったプレッシャーもあったと思いますが、今回もさすがの好騎乗でしたね。

 初コンビということで、16日の1週前追い切りで騎乗していましたが、馬の方がスピードに乗ってちょっと掛かり気味なのかなという風に目に映りました。初コンタクトでそういう印象があると、レースでは掛からないように折り合い重視で、という方向に行く人も多いかと思いますが、そこはさすがクリストフ。もちろん折り合いも気をつけていると思いますが、だからといってゲートをゆっくり出そうとか、スピードの乗りを抑えようという方向にはいかないんですよね。スタートしてから最初のうちは3番手でしたし、今回もいいポジションを取り切りました。

 そして4コーナーで早めに外に出さなかった、というところがクリストフらしいなと。俗に言う外々の競馬をしなかったですよね。レース前のイメージでは、クリストフなら枠なりに行くだろうなという風に考えていましたし、9レースの1400m戦で、1枠1番から逃げて勝っていましたから、どの辺りの馬場がどのくらいの状況かということはしっかり把握出来ていたと思います。9レースを勝った感触で、外に出さなければ伸びないという馬場ではないと判断したのではないでしょうか。そういう判断もさすがです。

 もしも4コーナーで早めに外に出したとしたら、後続にいる馬たちのジョッキーは心の中でニコッとしていたかなと。そこを枠なりのままに進んで、コーナーを回り切ってからGOサインを出したことで、後続の馬たちにも隙を与えなかった。完璧な騎乗だったと思います。

哲三の眼

口取り式でのクロノジェネシスの様子 (C)netkeiba.com


 レース後には、凱旋門賞を目指すというような話も聞こえて来ましたが、凱旋門賞へ向けてもとてもいいレースだったと思いますね。今回の競馬で早めに外に出さずに、直線まで自分の進路の中で外に出さず内を掬おうとせず、馬群の中にいるという状況から、直線しっかりと伸びて行きました。凱旋門賞の傾向では、道中馬群で我慢して最後に弾ける馬というのが好勝負している印象ですから、早めに外に出さずに勝ったというのは凱旋門賞にも活きてくるのではないかと感じます。

 いろいろな意味でクリストフは完璧に乗って勝ったと思いますが、クリストフ本人はまだまだ満足していないのではないかと。アーモンドアイなど長くコンビを組んだお手馬で、完璧にエスコートした、というフィット感とは違ったのではないかと想像しています。それでもこの内容で勝つんですから、馬自身も相当に強いですね。今回は残念ながら怪我で乗ることが出来ませんでしたが、北村(友一)君と長い時間をかけて作り上げたものがあって、それが強さに繋がっていると思います。この先もし凱旋門賞に挑戦するということになるならば、とても楽しみですね。

宝塚記念は「道中でカバー出来るコース」


 2着だったユニコーンライオンは逃げてよく粘りました。騎乗した坂井(瑠星)君はいいトライだったと思います。逃げるかどうかということは、馬場状態を見ての作戦だったのか、ゲートを切ってから決めたのか、細かい部分はわかりませんが、先に自分の取りたいポジションを取ってから、スピードを抑えていたのが上位にきた3人でした。

 このコラムでもよく話していますが、ゲートを出て最初からスピードを抑えにかかるのではなく、取りたいポジションを取ってから抑えた方が、ロスなく運べると考えていて。今回の坂井君も、とてもいい内容で惜しい競馬でした。好走したという喜びもあると思いますし、悔しさもあったと思います。そしてこれまで以上に、GIを獲りたいという目標を身近に感じられたのではないでしょうか。

 僕自身の話をすると、アーネストリーと最初に挑戦した宝塚記念で3着になり、レース後、佐々木晶三先生に「自分の腕が足りませんでした、来年勝ちます」と言ったんです。宝塚記念は枠順もありますが、道中でカバー出来るコースだと思っていて、その時のレースで足りなかったものは何なのか追い求めた結果、次の年勝つことが出来ました。

 今回とてもいいレースでしたが、勝ち切るには何が足りなかったのか追求していって欲しいですし、今後の成長を期待しています。

哲三の眼

好走した坂井瑠星騎手に「とてもいい内容で惜しい競馬」と哲三氏 (C)netkeiba.com


 3着だったレイパパレの川田(将雅)君もいいトライでした。難しい部分も多かったと思いますし、結果的には負けたわけですが、僕はいい内容だったと思います。仮にクロノジェネシスがいなかったら、クロノジェネシスに交わされていなかったら、あの2、3着の競り合いには負けなかった可能性もあると思っていて。

 これまでレイパパレは最後に抜かれたことがなく、初めて直線でビュンと抜かれたんですよね。騎乗していたわけではないからはっきりとはわかりませんが、「え?」と集中力が切れる可能性があります。それでもバタバタにならず最後まで頑張っていましたから、こうやって強い馬との戦いを経験して、どうレベルを上げて行くのか、成長を見るのも楽しみです。

 上半期の締め括りのGIで、馬券がとれなかったのは残念ですが…、いいレースを見せてもらって面白かったです。

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング