馬場馬術オリンピック代表の林伸伍選手(写真提供:林伸伍選手)
今回、netkeibaがお届けするのは『競馬』ではなく『馬術』。開催が迫る東京オリンピックを前に、総合馬術、馬場馬術、障害馬術競技に出場する代表選手に直撃インタビューを実施!
選手ご本人から馬術の魅力やそれぞれの競技の見どころをご紹介して頂きます。そして二人三脚で歩んできた“愛馬”たちとの軌跡、これまでの苦悩や様々なエピソードを大舞台を前に改めて振り返って頂きました。
今回登場するのは、馬場馬術競技に出場する林伸伍選手。小さい頃から競馬が好きな林選手が、競馬ファン目線で馬場馬術の見どころをわかりやすく紹介してくれました。
(取材・構成=赤見千尋)
※このインタビューは電話取材で行いました
競馬とは“真逆”のことが求められる、馬場馬術の面白さ
──馬場馬術で東京オリンピック出場決定、おめでとうございます!
林伸伍選手(以下、林) ありがとうございます。いよいよ近づいて来たという感じで、今は楽しみな気持ちが大きいですね。
──林選手は競馬がお好きだと伺いました。
林 はい、僕はnetkeibaのスーパープレミアム会員です(笑)。小学生のころから競馬をよく見ていて、最初に好きになった馬はタイキブリザード。緑のシャドーロールがカッコ良くて、今でも実家には人形がありますよ。今はドイツと日本の半々の生活なのですが、日本にいる時には馬券も買いますし、シルクの会員なので一口馬主もしています。
──netkeibaユーザーの方々にとってかなり親近感が湧くと思います。競馬と馬場馬術というのは同じ『馬に乗る』といってもまったく違うイメージがありますが、いかがですか?
林 3つの馬術競技の中でも特に馬場馬術に関しては、競馬とは真逆のことを馬に求めることになります。馬場馬術は例えるならフィギュアスケートのような感じで、繊細な動きで演技をしますから、ゆっくりとダイナミックに動くことが重要です。
僕は日本にいる時は、御殿場のアイリッシュアラン乗馬学校でインストラクターをしていて、引退した競走馬を馬場馬術用に再調教することもあります。いかに速く走るかということを訓練されて来た競走馬にとって、馬場馬術はそれを我慢することが必要なので、最初は混乱する馬もいますね。
馬場馬術は例えるなら“フィギュアスケート”のようなイメージ(写真提供:林伸伍選手)
繊細さとダイナミックに動く演技が求められる(写真提供:林伸伍選手)
──競馬を中心に馬を見て来たので、馬場馬術の動画を見ると、「馬がこんな脚の運び方をするのか!」と驚きます。スキップしたり、まるでダンスを踊っているようですね。
林 馬場馬術が得意な種類の馬でも、いきなりは出来ないですから、トレーニングしていく中で技を磨き上げていきます。これはもう日々の積み重ねしかないですし、何か教えるにしても馬がイヤになってしまったらそこで終わりになる場合もありますから、馬がイヤにならないよう気を使いながら、少しずつ積み上げていって、時には後退することもあります。それを日々繰り返しながら馬との信頼感を高めて行きます。
マイペースだけど本番に強い!2年前に出会った新しいパートナー
──馬術競技の中で、なぜ馬場馬術を極めようと思ったんですか?
林 子供の頃はずっと障害をやっていたんです。大学に入るまでは、実はあんまり馬場馬術が好きじゃなくて、やりたくないなと思っていました(苦笑)。でも大学に入って、馬場馬術、障害馬術、総合馬術という3種目をやってみて、そこで馬場馬術のすごい馬と出会ったんです。その馬と競技会に出場して、それまで感じたことのない一体感、楽しさを感じました。こういう世界もあるんだなって、大学時代に目覚めたんです。
──前回のリオデジャネイロオリンピックはリザーブだったと伺いました。
林 悔しかったですね。オリンピックを目指すにあたっていろいろな人にお世話になって、応援してもらったのに、期待に応えられず残念でした。リオの次の開催は東京と決まっていたので、この悔しい気持ちを忘れずに、東京へ向けて頑張ろうと思ってここまで来ました。
リオデジャネイロでの悔しい気持ちを忘れずに(写真提供:林伸伍選手)
──1年延期が決まった時はどんな心境でしたか?
林 まさかこんなことが起きると思っていなかったですし、1年延期といっても確実に1年後に開催出来るかもわからなかったですから、先が見えなくて複雑な気持ちでした。この先どうなるかわからないという不安がずっと付きまとっていましたが、競技会がなくても馬は毎日一緒にいるわけで、それが救いでしたね。
──コンビを組むのはどんな馬ですか?
林 スコラリ4という名前で、ハノーファという種類の馬です。東京オリンピックを目指すにあたって、その前にパートナーを組んでいた馬が20歳を越えて高齢だったので、新しいパートナーを探そうと色々な馬を試しながら探していました。2年前の夏に出会ったんですけど、買う前に1度試し乗りをして、フィーリングが良くて、性格的にも僕と合っているかなと感じて決めました。僕は日本でも仕事があるので、ドイツと日本を行ったり来たりの生活ですが、ドイツに来た時にトレーニングしながら競技会に出るということを積み重ねて来ました。
性格は、普段はあんまり真面目に練習してくれないんです(笑)。競走馬にもいますよね?調教では全然走らないけどレースに行くと真面目に走るタイプ。スコラリはそんな感じです。普段の練習は本当に大変で、こんな状況で競技会に行って大丈夫かと思うくらい動いてくれないんですけど、本番に行くと別の馬みたいに頑張ってくれるんです。こちらとしては家でももう少し頑張って欲しいですけど、オンとオフがしっかりしている性格で、それが彼のペースなのかなと。
スコラリの性格はマイペースで、本番に強いタイプ!(写真提供:林伸伍選手)
──スコラリは日本に来るのは初ですか?
林 初です。そこは正直不安ではありますね。普段はボーッとしているけれど、スイッチが入ると繊細なところもありますから。長距離の飛行機移動自体が初めてで、東京の暑さはヨーロッパと違う環境なので、いつも以上にしっかりとケアをしていきたいと考えています。
ただ、おそらくですが今回のオリンピックに出場する馬で、日本に来たことがある馬は1頭もいないんじゃないでしょうか。だから条件はみんな同じだと思いますし、僕は日本でも馬に乗って競技会にも出ているので、日本の暑さがどのくらい馬にとって大変かわかっているのは自国開催の強みだと思います。
強豪のヨーロッパ勢を打ち破り、決勝で自由演技を届けたい
──馬場馬術には、規定演技と、自由演技があると伺いました。自由演技はフィギュアスケートのように音楽を流しながら競技するそうで、今から拝見するのが楽しみです。
林 自由演技でどんなことをするかはもう決めていますが、そこまでいけるかどうかがわからないんです。というのも、自由演技は個人戦の決勝なので。今までオリンピックに出場した馬場馬術の日本選手で、そこまでいった人はまだいないと思います。だからこそ、決勝に行ってぜひ自由演技を皆さんに見ていただきたいです。
──やはりヨーロッパ勢が相当強いでしょうか。
林 乗用馬の馬産体制を見ても、マーケットがかなり大きいですし、正直差はあるなと。でも日本のレベルもどんどん上がっていますから、この大会をきっかけに追いつけ追い越せで頑張りたいです。
──では、東京オリンピックに向けて意気込みをお願いします。
林 初めてオリンピックに出場する喜びも大きいですが、やはり結果を求められていると思いますので、少しでもいい結果を残したいです。そしてそれが馬術に注目してもらえるきっかけになれば嬉しいです。
「少しでもいい結果を残し、馬術に注目してもらえるきっかけになれば嬉しいです」(写真提供:林伸伍選手)
(文中敬称略)
(明日はJRA職員、総合馬術の戸本一真選手が登場します!)