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【応援!東京五輪】小牧太騎手の長男・加矢太さんが伝えたい、馬術の妙技「競技者にとって緊迫の15分」

  • 2021年07月23日(金) 18時02分
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▲小牧太さんの長男で、全日本優勝経験を持つ小牧加矢太さん (撮影:桂伸也)


本日23日(金)に開会式を迎える東京オリンピック・パラリンピック。「netkeiba」では馬術競技に出場する4名の選手のインタビューをお届けしてきました。

最後に登場するのはJRAジョッキー・小牧太さんの長男で、全日本障害飛越選手権の優勝経験を持つ小牧加矢太さん。競技経験者の目線で、今大会の見どころを教えていただきます!

(取材・構成=不破由妃子)

競走馬のピークは4〜5歳、馬術の馬は9〜11歳


──現在、JRAの障害専門ジョッキーを目指し、日々受験勉強に取り組んでいる加矢太さんですが、もともとは全日本障害飛越選手権優勝という輝かしいキャリアを持つ馬術選手。そこで、24日(土)から始まるオリンピックの馬術競技(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)について、その魅力や見どころをわかりやすく解説していただければと思っています。

加矢太 よろしくお願いします。

──こちらこそ、よろしくお願いします。受験勉強の真っ最中にすみません。

加矢太 いえいえ(笑)。毎日頑張っているので大丈夫です。

──さて、競馬と馬術に共通する見どころといえば、やはり人馬一体の姿。まずは競馬との違いも含め、馬術の世界で活躍する人馬の特徴や魅力を教えてください。

加矢太 前回のリオデジャネイロの障害馬術競技(個人)では、イギリスのニック・スケルトンという選手が金メダルを獲ったのですが、確か58歳の方で(馬術史上最年長となる金メダリスト)。老若男女が楽しめる競技ではありますが、経験豊富なベテラン世代がめちゃめちゃ強いんですよ。

──日本人でも、71歳でロンドンオリンピック(2012年)に出場(馬場馬術)した法華津寛さんが話題になりましたね。そういった熟練の技もひとつの見どころであると。

加矢太 そうですね。もちろん、若い世代からもどんどん優秀な選手が出てきているので、さまざまな世代の選手が競い合うというのも見どころのひとつだと思います。

 馬も競走馬とはピークが違って、競走馬のピークが4〜5歳あたりだとすると、馬術の馬は9〜11歳あたり。もともと障害馬術は9歳以上、馬場馬術と総合馬術は8歳以上という出場規定があって、14歳や15歳で頑張っている馬たちもたくさんいます。

──その割には、どの馬もものすごく張りのある美しい馬体で。いくつか動画を見たのですが、思わず見惚れてしまいした。

加矢太 そこも魅力ですよね。サラブレッドに比べると、一回り、二回りは大きくて、ヨーロッパの馬などは普通に600キロ以上あります。競馬を目の前で観ると「馬ってこんなに速いんだな」と速さに目を奪われますが、馬術はその迫力に圧倒されると思いますよ。今回は無観客なのが残念ですが、テレビ越しでも十分伝わると思います。

──競馬も馬術も、人馬のコンタクトが肝になると思いますが、馬術競技の場合、どのくらいの時間を掛けて関係性を築いていくものなのですか?

加矢太 自分が全日本を勝った馬は、コンビを組んで3年目でした。5年以上、ずっと同じ馬とコンビを組んでいる人もいますし、1年くらいの場合もありますが、やはり何年かかけて信頼関係を築き上げていくのが普通ですね。なにしろ少しのミスが減点につながって、順位を大きく左右する競技ですから。

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▲馬との関係性を築くのに、数年という長い年月をかけるという (撮影:桂伸也)


600キロ以上ある馬をミリ単位で操縦


──かつて加矢太さんが主戦場としていたのが障害馬術。その見どころを教えてください。

加矢太 障害馬術はシンプルで、12とか13の障害を飛ぶんですけど、バーを落としたり、障害物の前で止まったり、障害物を避けたりしたら減点です。そのわかりやすさが魅力のひとつかなと思います。

──オリンピックに出場するような人馬でも、そういったミスは頻発するものですか?

加矢太 馬がケガをしないよう、脚が当たれば簡単に落ちるようになっているので、オリンピックでもミスはしょっちゅうあります。タイムオーバーもありますし、飛ぶことを拒否する馬、止まってしまう馬など、けっこういるんですよ。

──何年もかけて訓練を積み、どんなに深い信頼関係が築かれていても、そこはやはり生き物なんですね。

加矢太 そうですね。そこがおもしろさであり、難しさであり。オリンピックということで、人間側が緊張すると、馬は敏感に感じ取りますからね。

 あとは、苦手な障害物があったり、その馬にとって入る角度が難しい障害があったりしたら、止まってしまうケースもあります。なにしろ、その日のコースのデザインが公開されるのは15分前ですから。

──それまでコースのレイアウトがわからないんですか?

加矢太 そうなんですよ。競技が始まる15分前にコースがオープンになって、選手だけが競技場に入って下見をするんです。ここは6歩で行こう、ここは7歩で行こうとか、その15分ですべて作戦を立てる。

 もちろんいろんなパターンを想定して準備をしていくんですけど、オリンピックともなると、高さ160cmの障害物とか、信じられないほど幅がある障害物も出てくるので。

──競技者にとって、まさに緊迫の15分…。考えるだけで緊張してきます。

加矢太 ものすごく頭を捻りますし、めちゃめちゃ緊張する時間です。なかには感覚でこなしてしまう選手もいると思いますが、自分が現役の頃は事細かに作戦を立てて、それがハマらないと成功しないタイプでした。

──突拍子もないレイアウトだったりすることもあるんですか?

加矢太 あります。コースデザイナーといわれる方がデザインするんですけど、その方の“色”みたいなものもあって。国際免許を持っている世界でもトップクラスのコースデザイナーが組むんですけど、そのクラスのコースを走ったことがない選手であれば、たぶん難しすぎて、満点で帰ってくるのは難しいんじゃないかなと思います。

──どの競技にもいえることですが、どれだけ準備をしてきたかが問われる舞台ということですね。

加矢太 そうですね。障害にも種類があって、それぞれ飛ばせ方が違うので、そういうこともすべて計算して。その計算には当然、自分の馬の向き不向きなども入ってきます。それらをすべて頭に入れた上で、馬をコントロールしながら飛んでいくのが障害馬術です。ヨーロッパの選手たちはすごく高い技術を持っているので、おそらくミリ単位で計算してくると思いますよ。

──600キロ以上ある馬をミリ単位で操るなんて、スタートからゴールまで見どころの連続ですね。

加矢太 はい。バーを落とさずに、いかに速くゴールするか。ぜひミリ単位の技術をドキドキしながら観てください。

(明日公開の後半へつづく)

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