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“牧場は観光施設ではない” 牧場見学のマナーについて

  • 2021年08月10日(火) 18時00分
第二のストーリー

レックススタッドで暮らすスノードラゴン(ユーザー提供:エリーさん)


マナーを守って気持ち良く牧場見学を


 例年であれば、馬産地には名馬見学に訪れるファンが増える時期だ。だが新型コロナウイルス感染拡大の影響で、昨年に引き続き見学不可の牧場が大多数となっている。その中でも新ひだか町のアロースタッド(ロジャーバローズ、エポカドーロ、ディーマジェスティほか)、レックススタッド(エイシンフラッシュ、ゴールドドリーム、スクリーンヒーロー、スノードラゴンほか)など見学できるスタリオンや、うらかわ優駿ビレッジAERU(ウイニングチケット、スズカフェニックス、タイムパラドックス)などの施設もあり、9月10日からは浦河町のイーストスタッド(エイシンヒカリ、スピルバーグ、ディープスカイ、メイショウサムソンほか)でも見学が開始される予定だ。筆者が現在暮らす新冠町の道の駅にも、キャンピングカーやレンタカーをはじめ、観光とおぼしき車が8月に入ってから多くなったように見受けられる。

 かつて応援した名馬たちを間近に感じ、競馬場や競馬中継を通して見た競走馬時代とは異なる姿を目にすることができる。それが牧場見学の良さでもある。今年はまだ限られた牧場だけの見学にはなりそうだが、大ブームとなっている「ウマ娘」の影響で、そのモデルとなった馬に実際に会いたい、あるいはその馬が亡くなっているのであれば墓参りをしたいという「ウマ娘」ユーザーもいるようだ。そのような新たなファンを含め牧場を訪れる方々が、見学の際に注意してほしい点など、競走馬のふるさと案内所・日高案内所の河村伸一所長の話を交えてお伝えする。

 競走馬ふるさと案内所は日本軽種馬協会が運営しており、牧場見学をしたいファンと牧場を繋ぐ重要な役割を果たしている。牧場は生き物を扱うという仕事柄、早朝から人々が働いており、不規則でもある。電話に出にくい時間帯があったり、逆に訪問を希望するファンが常識外の時間に電話を鳴らすトラブルもあるという。そこで競走馬ふるさと案内所が間に入り、牧場見学の際のアポイントメントがスムーズにいくよう取り計らっている。競走馬のふるさと案内所は日高案内所を含め全国6か所(十勝連絡センター、胆振連絡センター、東北連絡センター、千葉連絡センター、南九州連絡センター)にある。

「ただ日高案内所以外は土日が休みとなっていますので、日高管内以外の牧場や施設についても、日高案内所に問い合わせをしていただいて大丈夫です」

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競走馬のふるさと 日高案内所(提供:競走馬のふるさと案内所)


 牧場見学におけるよくあるトラブルとして、河村所長が挙げたのが次の2つだ。

「訪れた方が馬に食べ物を与えてしまった例がよく報告されます。高齢になると歯の悪い馬もいますので、人参をまるごと与えてしまいますと、うまく噛み砕けなくて喉を詰まらせるという危険性もありますし、腐った人参が落ちていたという話も聞きました」

 複数の馬たちがいる放牧地で人参を差し出すと、人参欲しさに馬同士が喧嘩をして怪我に繋がるケースもあれば、日頃から人参などのおやつ類を与えない方針の牧場もある。蹄や体調に問題があったりと、糖質の摂取を控えているため、人参やリンゴのおやつ類を与えていない馬もいる。牧場ごと、馬ごとに事情が違うことをご理解いただきたい。

「馬に触ってしまうというのもよく聞く話ですね」

 噛み癖のある馬もいるし、向こうは遊びのつもりでも、あの大きさの動物に噛まれればかなり痛い。ましてや本気で噛まれたら大怪我をしてもおかしくない。そのようなトラブルを未然に防ぐ意味でも、馬に触れてみたいという気持ちをグッとおさえて、適度な距離を取って見学をしよう。

 上記を含めた「訪れる前に知っておきたい 牧場見学の9箇条」は、「競走馬ふるさと案内所」のHP内にあるので、牧場見学や墓参をされる前に必ず目を通し、それに沿って見学手続きを進め、牧場を訪問し、マナーを守って気持ち良く牧場を後にしてほしい。(牧場見学の9箇条※外部サイトに移動します)

「マナーを守っていただけませんと、せっかく見学させてくださっていた牧場さんが、見学中止にしてしまうことも考えられます」

 スタリオンや生産牧場は観光施設ではない。あくまで牧場側のご厚意で見学をさせてもらっているということを忘れてはいけない。

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うらかわ優駿ビレッジAERUのウイニングチケット(ユーザー提供:こりんごさん)


 昨年、今年は生産牧場にいる繁殖牝馬の見学ができる牧場はほぼないに等しいが、もしできるようになっても見学期間が限定されていることも知っておいてほしい。(競走馬のふるさと案内所に各牧場の見学期間や見学時間が記載されている)

 なぜ限定されるかというと、流産を引き起こす馬鼻肺炎(ERV)の感染の恐れがあるからだ。このウイルスに感染し発病すると、妊娠9か月以降の妊娠後期、いわば出産間近に突発的に流産してしまう。飛沫や人、器具を介した接触が感染経路として挙げられており、このウイルスが牧場に持ち込まれないように、妊娠後期に入るより前から外部の人の牧場訪問は好ましくないとされている。繁殖になる予定の引退競走馬から感染する可能性もあり、その場合は妊娠馬のいない分場で繫養したり、他の牧場に一時的に預託することもある。馬鼻肺炎をはじめとする感染症に馬たちがかからないように、厩舎内の見学を禁止している牧場もあるので、そのあたりも理解していただければと思う。

「緊急事態宣言が発令されている地域の方の見学をお断りしている牧場もありますので、私どものHPか電話で確認していただければと思います」

 このようにコロナ禍においては見学条件や見学の可否が突如変わることも予測される。牧場見学や名馬のお墓参りについて知りたいことがあったら、牧場や施設にではなく、まずは競走馬のふるさと案内所に問い合わせをお願いしたい。


▽ 競走馬のふるさと案内所
https://uma-furusato.com/

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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