いつの時代も痛感する原石発掘の難しさ
今週初め、スポーツ各紙が、ホッカイドウ競馬の調騎会会長の要職を務めていた林和弘調教師の逝去を一斉に報じていた。享年57歳。師は、今年のホッカイドウ競馬にて三冠馬となったラッキードリームの管理調教師としても知られる。去る7月22日に、門別競馬場で管理馬の三冠達成を見届けたばかりであった。年齢的には今後の活躍がまだまだ期待される方だっただけに、惜しむ声が各方面から聞こえてくる。残念でならない。
ラッキードリーム三冠達成時の林和弘調教師(c)netkeiba.com、撮影:田中哲実
師の管理馬ラッキードリームは、2019年のサマーセール取引馬だ。同馬は父シニスターミニスター、母サクラスリール、母の父ファンタスティックライトという血統の牡鹿毛馬で新ひだか町の(有)谷岡牧場から上場され、831万6000円(本体価格770万円)で林正夫氏によって落札された。
父シニスターミニスターはこのところ日高の市場では高い人気を博しており、この年のサマーセールでも、29頭中28頭が落札されていた。種牡馬別の成績は、総額でサウスヴィグラスに続く2番目の成績で、2億930万4000円を売り上げていた。1頭平均は747万5142円。ラッキードリームはシニスターミニスター産駒としては平均価格より少し高い程度の、至って普通の評価であった。
それが、デビュー後は、2歳時にJBC2歳優駿、サッポロクラシックC、そして今年になってからの三冠路線完全制覇と、まさしくホッカイドウ競馬の代表的な活躍馬として急成長した。通算成績は10戦7勝。獲得賞金は5820万円。さらに王冠賞を制した7月22日には、レース後の表彰式において、2000万円の「三冠ボーナス」が贈られていた。
北斗盃H2を勝利時のラッキードリーム(c)netkeiba.com、撮影:田中哲実
この2019年のサマーセールは、全体では1197頭が上場され、859頭が落札された。それらは今年3歳世代として、中央地方を問わず、すでに多くが各地で出走している。JBISのデータを使い、この現3歳サマーセール取引馬の“その後”を少し調べてみることにする。
この世代の稼ぎ頭は、アランバローズだ。船橋・林正人厩舎所属で、8戦6勝、2歳時の全日本2歳優駿を始め、東京ダービー、ハイセイコー記念、ゴールドジュニアと、重賞勝ちは4つに上る。賞金水準の高い南関が主戦場のため、ラッキードリームより少ない4重賞でも、アランバローズの獲得賞金は1億4365万円と、倍以上の金額に達している。
因みに、サマーセールでのアランバローズの落札価格は918万円(本体価格850万円)。
父へニーヒューズ、母カサロサーダ、母の父ステイゴールドという血統の牡鹿毛で新冠・大狩部牧場生産馬。馬主はバローズの猪熊広次氏。
次に成績を挙げているのはメイショウムラクモである。父ネオユニヴァース、母ノースパストラル、母の父キングヘイローという血統の牡鹿毛。去る8月8日には新潟のレパードステークスを制し、初重賞制覇となった。これまでで8戦4勝、2着1回3着1回の成績を残している。獲得賞金は7923万9000円。美浦・和田勇介厩舎の管理馬で、馬主は松本好雄氏。2019年のサマーセール時には356万4000円(本体価格330万円)というお買い得の落札価格であった。生産は浦河・(有)高昭牧場。3番目に位置するのが前記ラッキードリームである。
ただ、走る馬もいれば、走らない馬もまた数多い。JBISには、2019年サマーセール取引馬のすべてが、獲得賞金順に並べられており、それを見ていくと、まさしくピンキリである。競馬なので、1レースにつき勝馬は1頭、賞金にありつけるのは一応5着までということになっている。それで、キリの方に目を転じると、3歳9月8日の現時点でも、獲得賞金がゼロという取引馬が167頭いる。中には未出走、あるいは調教の段階で故障し競走名を付けるまで至らなかったと思しき取引馬もいるが、とにかく823頭中167頭が未だ1円の賞金も稼げていない。
さらに範囲を広げて、現時点で獲得賞金が100万円以下というくくりで見ていくと、全取引馬823頭中327頭がこれに該当する。一方で、獲得賞金がすでに1000万円を超えている取引馬も現時点で計81頭いる。
まさに当たりはずれの落差が大きく、いつの時代になっても、走る馬を発掘することの難しさを思わずにはいられない。相馬眼を持つプロが多数集まる場として知られるサマーセールでも、多くの上場馬の中から、磨けば光る宝石の原石を見つけ出すのは本当に至難の業ということなのだ。