▲14日に調教復帰を果たした伊藤工真騎手 (C)netkeiba.com
今年4月に落馬負傷し、長らく休養していた伊藤工真騎手が今週14日から調教に復帰しました。障害レースで着地時にバランスを崩し、頭から地面に叩きつけられたシーンはあまりに衝撃的でしたが、幸い神経などに損傷はなかったとのこと。
休養期間中も伊藤騎手を気にかける声は聞かれ、8月にnetkeibaのインタビューにご登場いただいた林徹調教師も「昨年の神戸新聞杯ではロバートソンキーで完璧に乗ってくれて、『菊花賞に出られる!』と(うれしさで)頭が真っ白になりました」「伊藤騎手はいま、復帰に向けてがんばっているようです」と、常に伊藤騎手を気遣っていらっしゃいます。
大怪我から調教復帰までの過程、そしてレース復帰の予定を伺いました。
(取材・構成=大恵陽子)
※このインタビューは電話取材で行いました
首の骨折、3カ月に及ぶ入院生活
――今日14日に調教復帰をされました。おめでとうございます。
伊藤 ありがとうございます。今朝は自厩舎の馬3頭に乗せていただきました。仕事復帰初日ということで、所属する金成貴史厩舎のスタッフさんが気を利かせてくださいました。
厩舎スタッフさんにも迷惑をかけていたので、できれば早く戻らなきゃという気持ちがあったのですが、金成先生から「いつまででも待つから、しっかり治してから戻ってきてね」と言っていただき、本当に感謝しています。
――長期間、仕事を休むことには申し訳なさなども感じそうですが、その言葉で心が楽になったでしょうね。久しぶりに味わう馬の上はどうでしたか?
伊藤 競走馬だと動きも敏感なところがあるので、こちらも気を付けながら乗ったんですけど、馬の動きにうまくついていけなかったり、以前のような感覚では乗れていないと感じました。2頭目に乗った時にはいくらか慣れも出てきて、少しずつ感覚を取り戻していく感じになるのかなと思います。
――トレセンでは周りの方々から何か声をかけられましたか?
伊藤 「大変な怪我だったね」や「半年で戻ってこられてよかったね」と言っていただきました。
――落馬したのが今年4月4日の中山・障害未勝利戦。最終障害の着地でバランスを崩し、ちょうど馬が頭を上げた時に空中の伊藤騎手に当たって、大きく跳ね上げられながら頭から落馬したように見えました。かなり不安になる落ち方だったので、ご無事で本当に何よりです。
伊藤 馬自身にも余力がありましたので、「これなら最終障害も飛び越えられる」という感触を得ていました。少し遠めから踏み切る形になって「ちょっと嫌なところから飛んだな。うまく対処できればいいな」と思ったんですけど、着地のタイミングで投げ出されるようになりました。
自分としては、直接馬場に叩きつけられたのかなという印象だったんですけど、映像を見ると一回転しながら馬場に落とされるような形で、それは把握できていませんでした。落ちた後は後続馬に轢かれないように、ラチの内側に移動するのが精一杯でした。
――かなり体に衝撃があったかと思うのですが、動けたんですね。
伊藤 はい、その時も意識がありました。
――怪我の詳細を教えてください。
伊藤 第2、3頚椎椎体骨折と言われました。場所的に神経を損傷していると、手足が動かなくなるようですが、落馬後に診ていただいた結果では、神経に影響が出る箇所ではないとのことで、まずはひと安心しました。
――頭に近い部分の骨折となると、骨がくっつくのを待つという感じでしょうか?
伊藤 そうですね、手術をするとかえって神経を傷つける恐れがあるので、手術をせずに保存療法の方がいいとの判断で、6月30日まで約3か月間入院していました。
――コロナの影響で、家族でさえも面会の規制があったのではないですか?
伊藤 面会が禁止されていて、一切会うことができませんでした。そんな中、電話やメールなどでみなさんから励ましの言葉をいただけて、すごく嬉しかったです。
――復帰までのリハビリなど取り組みを教えてください。
伊藤 骨がくっつくまでは手足の運動の制限もあって軽く動かす程度しかできませんでしたが、6月半ば頃からようやく負荷をかけていけるようになりました。
▲リハビリ中の様子 (提供:伊藤工真騎手)
6月末の退院の時点で骨はくっつき始めていたんですけど、ずっとコルセットをつけていた影響で首の筋肉が硬くなってしまって、動かすと痛みが出る状態だったので、改善するために理学療法士さんに見ていただきながらリハビリに取り組みました。
――実はこのインタビューは当初調教復帰を予定されていた8月末に行う予定でしたが、目前にしてトレーニング中に腰を痛めてしまい、復帰が2週遅れるということがありました。復帰目前で、焦りませんでしたか?
伊藤 今まで腰を痛めたことがなくて初めてのことだったのでビックリはしたんですけど、病院で診ていただいたら「2〜3週間で痛みが取れます」とのことで、そう長くかかるわけではなくてホッとしました。
ロバートソンキーの走りに「僕もがんばらなきゃ」
――今回は障害レース中の落馬負傷ではありましたが、障害レースに乗ることで得られることもあるのではないでしょうか。
伊藤 レースだけではなく調教から馬とコンタクトを取って、馬に教えていく内容が平地よりも多いです。
真っ直ぐ飛ばさなきゃいけないのはもちろんですし、障害でブレーキをかけすぎてもよくないし、逆に飛びつきすぎるとその後のリカバリーが上手くいかないこともあります。細かな部分に気を付けてやっていかないといけなくて、本当に勉強になります。
――デビューからちょうど10年の2018年から障害に乗り始め、障害初勝利は翌年のスリーコーズライン。同馬とは中山大障害にも出走しましたね。
伊藤 中山大障害では馬も未勝利を勝ったばかりでしたし、僕も馬も初めての経験だったので、最善を尽くすレースができたらいいなと思いながら挑みました。無事に完走できた時はホッとしました。
――平地で伊藤騎手とのコンビで印象が強いのが、ロバートソンキー。1勝馬が神戸新聞杯3着で菊花賞への出走権を手にし、本番でも内から伸びて6着と見せ場たっぷりでした。先週12日には中京・長久手特別(騎乗は福永祐一騎手)を完勝しましたね。
▲お手馬ロバートソンキー、12日に中京・長久手特別を勝利 (C)netkeiba.com
伊藤 管理する林調教師からは、連絡を取らせていただくたびに「復帰に向けてがんばって」と言葉をかけ続けていただいていました。ロバートソンキーも長期の休み明けでしたけど、いい走りを見せてくれて、僕もがんばらなきゃと励みになりました。
――伊藤騎手はレースへの復帰予定などは決まっていますか?
伊藤 早くレースに乗りたい気持ちはあるんですけど、中途半端な状態では乗せていただいた方に迷惑もかかってしまうので、騎乗した時の感覚が戻って「これならしっかり乗れるな」と思えた段階で復帰したいと思っています。
――11月には地元・福島で開催もあります。
伊藤 秋は新潟、福島と続いていますので、地元でいい騎乗が見せられたらいいなとも思っています。
――最後に、心配されていたファンの方々へメッセージをお願いします。
伊藤 休んでいる期間、「以前よりもいい騎乗ができるように」とがんばってきました。復帰した際には引き続き応援よろしくお願いします。