マイルCSはグランアレグリアが勝利した(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
単勝8番人気以下の伏兵が上位に食い込んだ例は少ない
AIマスターM(以下、M) 先週はマイルCSが行われ、単勝オッズ1.7倍(1番人気)のグランアレグリアが優勝を果たしました。
伊吹 先週の当コラムでAiエスケープが注目馬に挙げていましたね。完璧な予想だったと言って良いのではないでしょうか。
M 断然人気でしたけどね。
伊吹 いや、そこは素直に誇って良いと思いますよ。これが2着どまりや3着どまりであったとすれば何とも言えませんが、しっかり勝ち切っているわけですし。正直なところ、私は「これで飛んだら格好悪いよ? 本当に大丈夫? 」と思っていました。
M まぁ、AIは「この馬を推してハズれたら格好悪い」とか考えませんからね。
伊吹 ……あー、言われてみればその通り。結果的に3連単5460円という堅めの決着でしたし、「無理に捻らない方が良い」という点を含め、Aiエスケープの見立てが正解だったということなのでしょう。お見事でした。
M グランアレグリアはこのレースがラストラン。しっかりと有終の美を飾りましたね。
伊吹 本当に凄い馬だと思います。GI6勝の実績も十分過ぎるほどに偉大ですが、通算の連対率は73.3%、3着内率は86.7%。キャリアの中でもっとも大きな着順を引いてしまった2019年のNHKマイルCですら、4位入線の5着降着ですからね。
M デビュー戦以外はすべて重賞だったことを考えると、驚異的な安定感です。
伊吹 個人的には、今年に入ってから大阪杯や天皇賞(秋)を使ってくれた点も高く評価しています。私には「複数カテゴリで天下を取ってこそ真のチャンピオン」という持論があり、そういうチャレンジを見るのが大好き。残念ながら芝中距離戦線のビッグタイトルは獲得できなかったものの、「もう芝短距離戦線でやり残したことはない」とばかりに別カテゴリへ挑戦したグランアレグリアの格好良さは、今後もずっと語り継いでいきたいです。
M 今週の日曜東京メインレースは、本邦の看板レースと位置付けられているジャパンC。昨年は単勝オッズ2.2倍(1番人気)のアーモンドアイが優勝を果たしました。
伊吹 同年の3歳三冠馬2頭、コントレイルとデアリングタクトを完膚なきまでに叩きのめす完勝でしたね。過去に行われた歴史的な一戦と遜色ないレベルで注目を集めたレースですし、限られた紙幅の中であれこれ語るのも野暮でしょう。令和生まれの競馬ファンと話す時が来たら「私はあれをリアルタイムで観た人間だぞ」とマウントを取るつもりです(笑)。
M 3連複の配当は300円、3連単は1340円にとどまりました。もともと、近年は堅く収まりがちですよね。
伊吹 おっしゃる通り。先週のマイルCSと同じく、人気薄の馬はあまり上位に食い込めていません。
M 単純に、上位人気の馬ほど信頼できると見て良さそうです。
伊吹 ちなみに、単勝8番人気以下の馬は2011年以降[0-0-2-92](3着内率2.1%)でした。少なくとも、極端に手を広げる必要はないと思います。
M そんなジャパンCでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、シャフリヤールです。
伊吹 おおっ、今回も人気サイドの馬ですね。
M おそらく1番人気はコントレイルだと思いますが、こちらにも相応の支持が集まりそうな雰囲気。3番人気以下にとどまる可能性は低いでしょう。
伊吹 2週連続で珍しいチョイスとなりましたが、先週はその判断が正しかったわけですし、Aiエスケープも「大きな波乱は期待できない」と見ているのかもしれませんね。ただ、人気薄の馬とは求められるものが違うでしょうし、今回もやや厳しめにジャッジしていきたいと思います。
M シャフリヤールは今年の日本ダービー馬。実績面を心配する必要はなさそうですが、いかがでしょう。
伊吹 その通りですね。過去10年のジャパンCで3着以内となった馬の大半は、既に東京や京都のビッグレースで好走したことのある馬でした。
M 実績だけでなく、高いレベルのコース適性も問われる一戦と言えそうです。
伊吹 コース適性の重要さが増しているからこそ、近年は外国調教馬の好走例が途絶えてしまっているのでしょう。まだビッグレースで上位に食い込んだことがない馬はもちろん、中山や阪神のビッグレースが合いそうなタイプも評価を下げるべきだと思います。
M シャフリヤールにとっては心強い傾向ですね。
伊吹 ちなみに「“同年4月以降、かつJRA、かつGI・GIIのレース”において4着以内となった経験がない馬」も2011年以降[0-0-1-64](3着内率1.5%)と苦戦していました。たとえ実績上位であっても、大敗が続いている馬まで高く評価する必要はありません。
M 3歳馬である点はどう見ていますか?
伊吹 まったく問題ないでしょう。むしろ、強調材料のひとつだと思います。
M ほとんど好走例がない6歳以上の馬はもちろん、4〜5歳勢と比べても好走率は優秀ですね。
伊吹 今年は高齢馬も少なくありませんし、この馬の若さはアドバンテージになるでしょう。
M ここまでのお話だと素直に信頼して良さそうですが、不安要素を挙げるとするならば、やはり前走の神戸新聞杯で4着に敗れている点かと思います。
伊吹 これをどう評価するかがポイントになりそうですね。大敗直後の馬が巻き返した例もそれなりにあるので、前走の着順自体は心配しなくて良いはず。ただし、前走がJRAGI以外、かつ少頭数のレースだった馬は、2007年以降まで集計対象を広げても苦戦していました。
M 今年の神戸新聞杯は10頭立て。今回はフルゲートなら18頭立てとなるわけですから、このギャップが不利に働くかもしれません。
伊吹 正直なところ、私はこの傾向を根拠に評価を下げるつもりでした。ただ、2走前に17頭立ての日本ダービーを勝っているわけですし、まったくの杞憂に終わる可能性もあります。Aiエスケープが高く評価していることを考えても、無理に嫌う必要はなさそうです。