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【大山ヒルズ】コントレイルのラスト飛行――「私たちの夢と希望」三冠馬を支えた陣営の願い

  • 2021年11月21日(日) 18時01分
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▲ジャパンCがラストラン、無敗の三冠馬コントレイル (C)netkeiba.com


無敗の三冠馬に輝いたコントレイルが、ジャパンCでラストランを迎えます。この1年半以上、新型コロナウイルス感染拡大でこれまでとは180度違う生活を余儀なくされた中で誕生した歴史的名馬。昨年のジャパンCでは3頭の三冠馬対決が実現し、ワクワクさせてくれました。

そんなコントレイルを育成牧場という立場から支えたのが鳥取県にある大山ヒルズ。ラスト飛行を前に、齋藤慎ゼネラルマネージャーに「私たちの夢と希望」というコントレイルの素顔を伺いました。

(取材・構成=大恵陽子)

※この取材は電話で行いました

名馬の誕生は地元・鳥取県の地域貢献にも


――コントレイルは1歳9月から大山ヒルズで過ごしたそうですが、第一印象はいかがでしたか?

齋藤慎ゼネラルマネージャー(以下、齋藤GM) ディープインパクト産駒で、「小柄だけど綺麗な馬」と思いました。ただ、何頭か入厩するディープインパクト産駒のうちの1頭という感じで、キズナが来た時の衝撃に比べるとそこまで目立つ馬ではなかったのが正直なところです。

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▲齋藤慎ゼネラルマネージャー (C)netkeiba.com


――その後、球節炎で約半年、調教ができない期間があったと聞きます。古馬でも半年のブランクがあるとそこから立ち上げるのが大変そうですが、いかがでしたか?

齋藤GM 順調に馴致が終わって同世代の他馬達と一緒に調教をしていた1歳12月に球節にむくみが出てきました。まだ1歳なので無理をすることはないだろうという判断でしたが、他馬が乗っている期間半年も休むなんてかなりの遠回りで、普通に考えたら2歳暮れから3歳でのデビューになるんじゃないか、というくらいのブランクですよね。

――それが2歳9月にデビューできた理由というのは何でしょうか?

齋藤GM 私達も驚いたのですが、2歳6月くらいから調教を再開して、普通キャンターをするようになると「あれ? ずっと乗っていた馬と体力も心臓の感じも変わらないな」と思いました。この時点で「相当な器だな」と、なんとなくは分かりました。

 実はPOGの取材があった3〜4月頃は全く乗っていなくて、取材陣にお話しするリストに入れようか迷っていたのですが、入れていてよかったです。危うく三冠馬が未掲載になるところでした(苦笑)。

――現場の専門家をも驚かせる変化を見せたんですね。

齋藤GM 「走る馬なら、半年休んでも関係ないんだ」と、とても勉強になりました。もし他の馬主さんからお預かりしている馬だと半年休ませることには勇気がいりますが、私たちはオーナーブリーダーで、代表の前田から任せてもらえているということが大きかったです。

――焦らずに調教を進めた甲斐もあり、デビューから3連勝でGI・ホープフルSを制覇しました。スタンド前では力む面が見られましたが、皐月賞は一転、後方からのレースとなりました。

齋藤GM 担当の矢作芳人厩舎・金羅隆調教助手や福永祐一騎手がレースで力む面をしっかり抑えてくれました。コントレイルが「超一流馬だ」と感じたのは皐月賞の時で、それまではすんなり先行して抜け出す競馬しかしていなかったのが、揉まれる競馬になっても平気で、向正面ではいつの間にか外に出して勝つことができました。

「瞬発力」と言うと、直線でどれだけ末脚が切れるかということを想像する人も多いかと思いますが、道中で僅かに空いたスペースにスッと入ることができる瞬発力というのもあると思います。それは競馬ではとても大切で、皐月賞の向正面でカメラが切り替わるともう外に出していたんですよね。

――無敗で日本ダービーを迎えるお気持ちはいかがでしたか?

齋藤GM レースを終えるたびに大山ヒルズに帰ってきていましたし、無敗というのはプレッシャーもありました。しかし、キズナやワンアンドオンリーといったダービー馬が大きな経験になっていたので、自然体で向かうことができました。

「ダービーだからいつもより乗り運動の時間を10分長くしよう」など、つい余計なことをしてしまいたくなるのですが、一流馬は馬が自ら成長しますから、邪魔をしないようにするだけです。矢作調教師も福永騎手も、既にダービー優勝されていましたから、関係者全員に心の余裕が少しはあったと思います。

――最高のチームだったんですね。そして、ついに菊花賞も制覇し、無敗の三冠馬に輝きました。大山ヒルズでも盛り上がったのではないですか?

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▲2020年の菊花賞、無敗の三冠達成の瞬間 (C)netkeiba.com


齋藤GM この時が一番盛り上がったと思います。私は現地に行っていましたが、レースの時間には地元のテレビ局や新聞社も取材に来て、翌日の朝刊にはみんなでバンザイしている写真が載っていました。

 コントレイルの生まれは北海道ですけど、鳥取県育ちということで、平井伸治鳥取県知事からも定例会見でお言葉をいただき、地域貢献が少しはできたのかなと思うと、嬉しいです。

――名馬が誕生すると、スタッフのモチベーションも上がるのではないですか?

齋藤GM はい、もちろんそうですね。また、業界として乗り手不足の昨今ですが、活躍馬が出てくれると私たちの牧場に興味を持って「就職したい」という人も増えます。実際にキズナが活躍した時もたくさん就職希望の方がいて、その時からずっと働いているスタッフも多くいます。

――キズナのレースに感動して入社した方が、今ではキズナの産駒に携わっているんですね。先日のエリザベス女王杯ではアカイイトがキズナ産駒初となるGI制覇を果たしました。おめでとうございます。

齋藤GM アカイイトも大山ヒルズで育成し、レース後にはここで過ごしていますから、スタッフ全員で大喜びしました。

スタッフの多くがコントレイルに騎乗経験あり


――さて、三冠馬となった後のコントレイルはジャパンCでアーモンドアイ、デアリングタクトと歴史的レースを繰り広げました。新型コロナウイルスの影響で様々な楽しみが失われた中、競馬ファンにとっては胸躍る対決でした。

齋藤GM ファンを盛り上げるというのはオーナーブリーダーの役目でもあると考えています。回避するのは簡単ですけど、日本が盛り上がってくれるのなら、そこに持って行くのが私たちの仕事だとプライドを持っています。

 正直、菊花賞で3000mを走って帰ってきた時は「ジャパンCに向けてどうかな?」という印象はありましたけど、コントレイルはレース後にすごくカイバを食べるんです。だから、3〜4日すると体が戻ってきて、矢作調教師が来場された時に代表の前田と相談し、出走が決まりました。

――歴史的レースの裏に、オーナーブリーダーとしての矜持があったのですね。2着だったもののコントレイルも強さを見せました。古馬になっての2戦は大阪杯3着、天皇賞・秋2着で、強さを感じる内容の一方、これだけの馬ですから悔しさや歯がゆさも感じてらっしゃるのではないでしょうか?

齋藤GM それは当然ありますけど、先もある馬ですから、「スタートからゴールまで無事に」という思いです。もちろん勝つのが一番ですし、そういう努力はし続けています。

 大阪杯の前には、体重もかなり増えてトモがパンとして本格化してきたなと感じていました。ところが、大阪杯は昼から酷い雨で、上滑りするような馬場。「得意じゃないだろうな」と感じました。

 レース後の状態を見て、無理せず天皇賞・秋に切り替えてひと息入れることができたので、馬もまた成長したと思います。とはいえ、天皇賞・秋は7か月ぶりで、そんなに甘くなかったですね。

――古馬になって大山ヒルズとしての取り組みや、育成でのポリシーを教えてください。

齋藤GM ルーティンがある馬なので、鍛えるのではなく「調整」をしています。もちろん、速い時計も出しますけど、当たり前に走れるように調整するだけです。

 どの馬も育成では「馬の邪魔をしないこと」を心がけています。調教でも不必要に引っ張らず、追わず、馬なりが基本です。頭が高い馬や、巻き込んで走る馬もいますが、それは個性だと思って矯正しようと思いません。

 キズナもキャンターでは頭が高いのですが、追い出すとグーっと首が下がりました。馬自身がのびのびと走る中で、首を使えるようになったんじゃないかと思います。

――馬自身が走りやすいフォームを見つけていくんですね。大山ヒルズではコントレイルはどんな風に過ごしていますか?

齋藤GM 自然と人だかりができています(笑)。特別扱いはしていないとはいえ、やっぱり三冠馬がいるわけですからね。コントレイルもそれに慣れているので、我関せずです。それと、よく寝ます。馬房にいる時間のうち半分くらいは寝ているんじゃないかというくらいです。

 先ほどもお話ししたように、多くの馬とは逆でレース後にカイバをしっかり食べるので、そこで体力を回復して元気いっぱいになるんじゃないかと思います。

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▲▼大山ヒルズでのんびりと過ごすコントレイル (提供:大山ヒルズ)


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――みなさんにとってコントレイルはどんな存在ですか?

齋藤GM 夢と希望を与えてくれた馬です。大山ヒルズには多くの馬が在厩していますが、1歳馬にはいろんな人が乗るようにしているので、8割ほどのスタッフが乗ったことがありますし、ほとんどのスタッフも触ったことがあります。

 家族や友達に「乗ったことがあるんだよ」「触ったことがある」と自慢になるでしょうし、騎乗者としての自信や一生の宝物になると思います。それはオーナーブリーダーだからできることでしょうし、代表の前田が我々を信頼してくれているおかげだと思います。

――齋藤マネージャーご自身はいまどんなお気持ちですか?

齋藤GM あと1回、無事に走ってほしいですし、コントレイルが引退したら区切りがついて「また一から頑張ろう」と思う気がします。第二のコントレイルをつくる道が、彼が引退した時から始まりますね。

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▲▼大山を望む雄大なロケーション、ディープボンドもリラックスしているそう (提供:大山ヒルズ)


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(了)

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