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騎手になった娘を見守り続けた16年 別府真司調教師・別府真衣騎手

  • 2021年11月30日(火) 18時00分
国内女性騎手歴代2位の747勝を挙げる別府真衣騎手(高知)が、先週28日、高知競馬場で引退を迎えました。調教師試験に合格し、12月1日付で転身することに伴うもの。新しい門出を迎え、おめでたいことではありますが、やはり騎手引退には寂しさがつきまといます。

「真衣ちゃん」や「まいーご」の愛称で親しまれた別府騎手の16年間にわたる騎手生活をそばで見守り続けたのは、実の父でもある別府真司調教師でした。別府騎手の気さくで明るい性格は、父譲りだと感じることも多々ありますが、父親にとってジョッキーである娘の姿はどのように映っていたのでしょうか。

ジョッキーの父親側に立った「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。

デビュー戦でそわそわした別府調教師


 11月28日、高知競馬場で行われた別府真衣騎手の引退式。その壇上で、父である別府真司調教師は目に涙を浮かべながら「僕の背中を追ってきてくれたのは、真衣だけでした」という言葉をきっかけに、思い出を振り返りました。

馬ニアックな世界

▲引退式で涙を浮かべながら手紙を読んだ別府真司調教師


 別府調教師は騎手出身。引退後、別府騎手が5歳だった1993年4月に調教師としての初出走を迎えました。

 その翌年にデビューしたのが赤岡修次騎手。別府騎手は幼少期に厩舎地区を走り回ったり、何かに没頭していたのか馬道に座り込んだり、赤岡騎手とも交流があったようです。

 物心がついた頃からずっと「騎手になる!」と話していた別府騎手。別府調教師は娘の言葉に嬉しさを隠しきれず「うんうん、なったらええわ。頑張れよ」と優しく見守っていました。

 とはいえ、心の奥では「本気で騎手にはさせたくない……」と葛藤を抱えていました。

「僕自身、怪我をして騎手を辞めているので、やっぱり怖いなと思いました」

 しかし、中学生になっても別府騎手の意思は固く、それを知った別府調教師は「イカンぞ!」とすごい剣幕で怒ったといいます。

 それでも別府騎手は食い下がらず、毎日がケンカの連続。

 それを見かねた母親が別府調教師を説得したこともあり、地方競馬教養センターに一度目の不合格後は別府厩舎で厩務員として半年働いたのち、二度目の受験で合格したのでした。

 教養センター受験前は娘のことを思うあまり、激しく反対した別府調教師でしたが、いざデビューするとなると、所属厩舎として迎え入れ、しっかりサポートをしました。

 デビュー戦に用意したのはセンターカノンというアラブの馬。上級クラスで戦っていた馬が、クラス再編成によってメンバーに恵まれることを見込んで、別府調教師がデビュー戦のために温めていたのでした。

 単勝は1.4倍の1番人気。こういったシチュエーションは、デビューを迎える本人以上に、送り出す側の方が緊張するのかもしれません。別府調教師も例に漏れず落ち着かない様子でそわそわして、椅子に座ったり立ったりの繰り返し。

「それを見て、私も余計にドキドキしてきました(笑)」と別府騎手は振り返ります。

 レースでは逃げて、8馬身差で勝利。幸先いい騎手人生のスタートを切り、「初騎乗初勝利をしたことは今でも忘れられません」と別府調教師は言います。

 それからは、親子ではなく師弟関係として、時に厳しくあたったこともあったと思います。それでも、「馬へのあたりが柔らかくて、姿勢が綺麗」と娘を認め、16年間、歩んできました。

 各地の競馬場で別府調教師に会うと

「お元気ですか? また高知にも遊びに来てくださいよ!」

 と大きな笑顔で接してくれ、高知競馬場に行くと今度は別府騎手が明るい笑顔で迎えてくれる、という明るい親子でした。

 冒頭の涙なみだの引退式の後でさえ別府調教師は

「手紙の字が見えづらかったらアカンと思って、引退式の前に目薬をたっくさん差していったんですよ。もしかしたらもしかして、それがちょっと溢れてしまったのかもしれませんね(笑)」

 と笑いに変えましたが、きっと誰よりも寂しく感じていることでしょうし、大怪我なく引退できたことに胸をなでおろしていることでしょう。

馬ニアックな世界

▲引退レースの直後、寂しさと安堵を滲ませる別府真司調教師


師匠でもある父からの開業祝いは軽トラ


 引退レースとなった11月28日高知7レースを別府厩舎のダノンチャンスで勝ち、見事有終の美を飾ったとともに、初勝利も最後の勝利も親子でのものとなりました。

馬ニアックな世界

▲引退レースをダノンチャンスで勝って戻ってくる別府騎手を出迎える父・別府調教師


馬ニアックな世界

▲親子である以上に、この16年間は師弟関係だった二人。引退レースを勝ち、握手を交わしました


 12月1日からは調教師になる別府騎手。騎手時代は旧姓の「別府」の登録名のままでしたが、宮川実騎手(高知)と結婚し、現在は「宮川」姓のため、「宮川真衣調教師」としてスタートを切ります。

 厩舎を開業後も管理馬の調教には乗りたいと考えているようですが調教師という立場に変わることで、どこに厩舎を構えるのか、スタッフはどうするのか、馬具や備品の準備と、やるべきことはたくさんあります。

 そんな中、別府調教師からは開業祝いとして軽トラックと馬具一式が贈られました。

 厩舎には必需品の軽トラ。これからは馬だけでなく、軽トラもカッコよく乗り回すであろう宮川調教師の未来がキラッキラに輝きますように。

馬ニアックな世界

▲引退レースを終えて、父・別府真司調教師(左)、夫・宮川実騎手(右)とともに笑顔で記念撮影。16年間、高知競馬の顔として様々な活躍、本当にお疲れ様でした!

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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