▲岩田望来騎手とのコンビで有馬記念に出走するメロディーレーン (C)netkeiba.com
“小さな馬”で話題のメロディーレーンと、菊花賞を逃げ切り勝ちしたタイトルホルダー。無尽蔵のスタミナを武器に中長距離で活躍するこの2頭は姉弟で、北海道新ひだか町にある岡田スタッドで生まれました。
生まれた時、あまりの小ささに「競走馬になれない」と思われたメロディーレーンは2歳になると不思議と体幹の強さを見せ、半弟タイトルホルダーは早くから「菊花賞を!」と期待を抱かせた馬だったといいます。そんな2頭に共通するのは「過酷な襟裳の地で挫折しなかった」という若駒時代でした。
岡田スタッドグループ代表・岡田牧雄氏のお話を、前編メロディーレーン、後編タイトルホルダーの2回に分けてお届けします。
(取材・構成=大恵陽子)
※このインタビューは電話取材で行いました
2〜3割の馬が挫折する環境を耐え抜いた強さ
――年末のグランプリ・有馬記念にメロディーレーンとタイトルホルダーの姉弟が出走します。まずは、メロディーレーンの牧場時代の様子から教えていただけますか?
岡田 メロディーレーンが生まれた時は本当に小さくて、「競走馬になれない」ということが真っ先に頭に浮かぶくらいでした。ずっと「競走馬になれるかどうか」を第一に考えながら育てていました。すると、体は小さいんだけども、2歳1〜2月頃に坂路で15-15(200mを15秒で走る調教)をやる頃には、なんとも力強いんですよね。「もしかしたら、競走馬になるかな」と感じました。
――小さな体に不安を抱えながらも、望みを託しつづけたのにはどんな理由があったのですか?
岡田 体幹が強くて、中期育成のえりも分場では20時間の昼夜放牧でも一度も挫折することなく丈夫でした。環境の厳しい場所で、2〜3割の馬は挫折して、一度、本場に戻すなり治療するなりしてまた再開するような所なんです。
――えりも分場は襟裳岬に近く強風が吹き、鹿や熊といった野生動物も出現する自然環境だと聞いたことがあります。
岡田 元々はえりも農場があった土地で、これまでにも多くの活躍馬が出ました。馬の改良やいろいろな投資もしていて、えりも分場だけが要因ではありませんが、ここを使うようになってからうちの牧場の馬が活躍するようになりました。
――具体的に、どういった点が違うのでしょうか。
岡田 アメリカやヨーロッパで修行をした時期があり、日本の生産と何が違うのかを考えたのですが、欧米とは放牧地1区画あたりの面積が違い過ぎるな、と感じました。そこで、えりも分場ができる前に1区画10町(1町=約109m)の放牧地を10カ所作ってみたのですが、それでもなかなか馬が丈夫になりませんでした。
えりも分場では、元々8〜9つに分かれていた放牧地を4カ所にまとめて、1区画を30町ほどの広さにしました。日高で言えば、1つの牧場に匹敵する広さです。夜間放牧では昼間の7倍の運動量があるという統計がありますが、えりも分場の場合だと野生動物が出てくるので夜じゅう歩いていて、10倍以上の違いがあるんじゃないかと思います。
――そうすると、基礎体力がしっかりつく、と。
岡田 ものすごく筋肉質になって、体重も増えて見た目から丈夫になります。生産馬の1頭あたりの出走回数を見るとかなり多いと思います。それだけ丈夫に走っているということですね。ただ、鹿の角で刺されて馬が怪我をすることも頻繁にあって危険なので、「どうしても」という方の馬をお預かりしたことはありますが、基本的には自分たちの馬だけでやっています。
――そんな過酷な環境で、メロディーレーンは基礎体力をつけたんですね。
岡田 それでも、オーナーズ(共有馬主)で使うのは難しいと思い、募集するつもりはなかったんですけど、お母さんのメーヴェを共有していた馬主さんから「初仔はどうですか? 競走馬になるのであれば、共有したいです」と言っていただき、メーヴェを共有していた馬主さん限定で募集しました。みなさん見に来てくださったんですけど、1人の方はさすがに小さいので、「私はいいです」とおっしゃいました。デビューしてからは成績が示す通りです。
「やっぱりメーヴェの子」母から受け継ぐ力
――有馬記念に向けては、メロディーレーンは早くから出走の意思を公言されていましたね。
岡田 前走の古都ステークス(10月31日、阪神芝3000m、3勝クラス)を勝った後に、「次はステイヤーズステークスに行きましょう」と伝えると、森田直行調教師が「とにかく有馬記念は使わせてください」と言うんです。何が何でも有馬記念へ、という彼の熱意に負けちゃいました。
菊花賞も、牝馬の2勝馬だったので私の中ではレース選択にはなかったのですが、彼から「使わせてください」と言われ、上がり3ハロン最速タイで0.4秒差の5着にきました。
▲前走の古都ステークス優勝時 (C)netkeiba.com
▲この時の出走体重は、宝塚記念から+10も354キロ! (C)netkeiba.com
――森田調教師のメロディーレーンへの熱意はInstagramなどからも伝わってきます。
岡田 メロディーレーンが休養でこちらに来ている時、森田調教師が会いに来たのですが、200mくらい先にメロディーレーンが見えると「レーンちゃ〜ん!」と言って走っていったんですよ(笑)。好きで好きでたまらないんでしょうね。
――その姿を想像して、外見とのギャップに思わず笑ってしまいました。それだけ愛情もお持ちなんですね。岡田氏にとってはメロディーレーンのレースで最も興奮したレースは何ですか?
岡田 未勝利戦を勝つ1つ前のレースで3着に来て、「未勝利を勝てるな」と思ったレースが印象に残っています。それと、1勝クラス(阪神・芝2600m)をレコード勝ち(当時)したのには驚きましたね。やっぱりメーヴェの子だな、長距離馬としてある程度上に行ってもやれるんじゃないか、とすごく嬉しかったです。それも、338kgで自身が持つJRA最少馬体重優勝記録を更新しての勝利でしたからね。
――お母さんのメーヴェも芝2600mでオープン勝ちするなどJRA5勝。とても活躍しました。初仔のメロディーレーンが、有馬記念に出走する日が近づいてきましたね。
岡田 賞金順位で出走できるわけではなくて、ファン投票で選んでいただいて出走できます。ファンが望むことをするべきだと思っていますし、ファン投票の結果は嬉しいなと思います。
中山の芝2500mはトリッキーなコースで、直線の急坂を上ることなども考えると、京都芝3000mと同じくらいタフなコースだと思っています。一線級のこのメンバー相手にどうか、という点はありますが、タフな競馬はメロディーレーンにとってはいい方に向くと思っています。
(文中敬称略、後編へつづく)