宮下瞳騎手×佐々木世麗騎手の特別対談をお届け!(C)netkeiba.com
史上初の女性騎手による通算1000勝を宮下瞳騎手(名古屋)が達成し、新人騎手では佐々木世麗騎手(園田・姫路)が新人女性騎手の最多勝記録を塗り替えるなど、女性騎手の活躍が目立った昨年。
netkeibaではそのお二人をリモートで繋いで、新春特別対談を開催! 記録やお互いに対する思いから、競馬場のトイレ事情(!)まで、女性騎手を取材し続けてきた大恵陽子さんをMCに迎えたガールズトークが盛り上がりました。netkeibaTVで公開中の動画のダイジェスト版をお届けします。
1000勝達成に「ママ、お花いっぱいもらえてよかったね」
宮下 あけましておめでとうございます。名古屋競馬場の宮下瞳です。
佐々木 あけましておめでとうございます。園田競馬場の佐々木世麗です。
大恵 みなさん、あけましておめでとうございます。競馬リポーターの大恵陽子です。今回は、「新春特別対談」ということで、2021年の競馬界を盛り上げていただいたお二人に集まっていただいて、いろいろと振り返りたいと思います。まずは何と言っても、宮下騎手、地方通算1000勝おめでとうございました!
宮下 ありがとうございます。ホッとした気持ちが一番で、その後にはすごく嬉しさが込み上げてきました。
佐々木 すごいですよね。毎日「あと何勝だ!」と見ていました。宮下さんがいてくれたから、「頑張って騎手を続けたら女性でも1000勝ができるんだ」というのが分かって、最初に立てた目標が1000勝です。
宮下 1000勝が目標はすごい! 私は最初は100勝くらいが夢でした。
大恵 翌日のセレモニーには2人の息子さんも来てくれましたね。
宮下 「ママ、よかったね」と言ってくれました。上のお兄ちゃんは小学4年生なので、最近照れが入っちゃって、みんなの前ではツンとしているんですけど、家に帰ると「お花いっぱいもらえたね。あ、ママの色だね。どこに飾る?」って一緒に喜んでくれて嬉しかったです。
宮下騎手、地方通算1000勝セレモニーにて(撮影:谷口浩)
佐々木 泣けますね。私自身がまだ子供ですけど、親だったら感動すると思います。
宮下 息子たちの喜ぶ顔が見たくて復帰したので、「復帰してよかったな、1000勝達成してよかったな」って改めて思いました。子供たちの笑顔は何にも代えられないくらいすごいパワーを持っています。
大恵 一方で、佐々木騎手はデビューから1年間の女性騎手最多勝記録を更新しました。
宮下 おめでとうございます。カッコいい!
佐々木 ありがとうございます。私も実感がないですけど、一つ一つ勝っていけるのは嬉しかったです。記者の人たちから兵庫県の新人最多勝記録や新人女性騎手最多勝記録が迫ると「あとちょっとだね」と言われていて、少し意識はしていました。
宮下 園田って上手い騎手が多いので、新人さんが活躍できるスペースがなかなかないイメージですけど、たくさん乗せてもらえること自体がすごいと思います。所属先の新子(雅司)先生のバックアップももちろんあるとは思うんですけど、佐々木さんの努力だとも思います。
女性騎手最多勝記録達成時の佐々木騎手(撮影:稲葉訓也)
大恵 宮下騎手がデビューした頃は、新人騎手を取り巻く環境はどうでしたか?
宮下 ものすごく厳しかったです。名古屋の騎手はいまは20人くらいなんですけど、デビューした頃は60人近くいたので、レースどころか調教に乗せてもらうことができませんでした。頑張って早起きして、1頭でも多く調教をしてレースで乗せてもらえるように頑張ったんですけど、それでもなかなかチャンスが巡ってこなくて、レースは1日1頭乗れたらいいかな、という感じでした。
佐々木 園田も昔は騎手が多くて、(新子)先生の時代も「乗れなかった」とよく聞きます。私は同期3人で園田でデビューしたんですけど(佐々木騎手のほかに大山龍太郎騎手と長尾翼玖騎手)、3人ともたくさん乗り馬を用意してもらって、競馬場全体が「新人を育てよう」という感じになっています。経験をたくさんできるからこそ、勝てる確率も高くなるので、昔とは比にならないですよね。
宮下 調教とレースではやっぱり違うんですよね。たくさんレースに乗って、レース感覚や馬の癖を身につけていくしか騎手は上手くなる方法はないのかなと思います。レースは10頭の馬がいて、10人の騎手がいるので、騎手がどういう行動を取るかはその時にならないと分からないですからね。
佐々木 たしかに騎手によって癖がありますよね。レースを見ていて「この人はここで右ムチに必ず持ち替えるな」とか「この人はここで外に張る」というのは感じますが、私はまだ全騎手の癖を把握していないですし、自分が乗ることで精いっぱいです。
「“たくさんレースに乗る”しか、うまくなる方法はないのかなと」(撮影:谷口浩)
斤量が2kg減か1kg減かで、スタートが大きく変わる
大恵 女性騎手は男性騎手とは別の減量ルールがあって、デビュー時に4kg減からスタートし、101勝を挙げて以降も永年2kg減で騎乗できます。
宮下 手で鉛を2kgとか3kg持つと、重いんですよ。それが馬の背中からなくなるので、馬にとっては負担が軽くなってスタートにはすごく関係しているんじゃないかなと個人的には思っています。
佐々木 私もそれはめちゃくちゃ思います。いま、ゲートを一つの武器にしていて、斤量が軽いから馬も前に行きやすくて、ゲートを出た1歩目がすごく速いと思うんです。でも、4kg減から3kg減に変わった時は「どうなんだろう? 前に行けなくなるのかな?」とすごく不安でした。
宮下 ドキドキしちゃうよね。
佐々木 「3kg減から2kg減」と、「2kg減から1kg減」って結構違いがありましたか?
宮下 私は「2kg減と1kg減」の違いが実感があったかな。今までずっと1kg減でやっていたのが、2年前に永年2kg減に変わった時に「あれ! スタート速くない?」という馬が増えました。だから、2kg減が関係しているんじゃないかなと思っています。
「“2kg減と1kg減”の違いが実感があったかな」(撮影:稲葉訓也)
女性ならではの困りごと
大恵 今日は女性3人ということで、個人的に気になっているのが、園田競馬場の検量室周りに女子トイレがないことです。
佐々木 困ってます! めちゃくちゃ困っています。人がいない時に男子トイレに入っています。人が来たら出るのを待つか、連続騎乗で時間がない時は「すみません、います!」と宣言して出てもらっています。
宮下 名古屋競馬場もそうなんですよね。パドックには1つしかないですし、検量室のある建物は1階から3階の各階にトイレがあるんですけど男女共用で、2階は一応女性専用にはなっているんですけど、ほとんど一緒で、ちょっと気は遣います。
大恵 宮下騎手や私のような30〜40代の世代は男女活躍の過渡期で、「女性も活躍を!」という一方、「女性は家事が完璧にできて当たり前」という風潮もあったように感じます。
宮下 そういう目で見られることがすごくありますよね。「女性は家でご飯つくってお風呂沸かして、子供の世話をして、それでいいじゃん。なんで仕事しているの?」みたいな。私も子育てに追われている時はあまり思わなかったですけど、子どもたちが保育園や小学校に行くようになって空き時間ができると、家の中でじっとしていられませんでした。
大恵 佐々木騎手は平成生まれですけど、どうですか?
佐々木 「男の人が働いているから偉い」という考えは古いなと思って育ちました。政界にも女性がどんどん進出したり、育休制度が整備されたりと、変わりはじめた世代だと思います。
生存確認されるほど爆睡
大恵 オフの時間があれば何をしていますか?
宮下 基本、子どもと遊んでいます。上の子どもが映画が好きなので見に行ったり、住宅の目の前に小さな公園があるんですけど、そこでバドミントンをしています。
佐々木 服を見るのが好きなので、買い物に行ったり、寝ています。以前、夕方から丸2日寝ていたことがありました。
宮下 えー! すごい。
佐々木 親も心配して鼻に手を当てて、息をしているか確認していたみたいです(笑)。
大恵 疲れが溜まっていたんですね。さて、最後に2022年の目標を教えていただけますか?
宮下 まずは怪我しないように無事に1年を過ごせたらいいと思います。2020年に年間100勝を達成したんですけど、それを目標にまた頑張っていけたらいいなと思います。今年も一生懸命がんばりますので、応援よろしくお願いします!
佐々木 去年1年間の自分の勝利数を毎年更新できるように、今年も頑張りたいと思います。今年も応援してもらえるようなジョッキーになれるようにがんばりますので、よろしくお願いします!
(文中敬称略)