▲ラストランを見届けた北村友一騎手が、今の気持ちを語ります (C)netkeiba.com
本日行われた有馬記念がラストランとなったクロノジェネシス。今秋は凱旋門賞に挑戦し、今回は海外帰りという一戦。結果は3着ではありましたが、GI馬の強さを最後まで見せてくれました。
そしてこの有馬記念には、現在落馬休養中の北村友一騎手も現地に。競走馬としての最後の姿を、目の前で見届けました。久しぶりに会えた喜びをかみしめながら、主戦として共に戦った日々を振り返ります。
(構成=不破由妃子)
今日、12月26日。有馬記念が行われた中山競馬場にて、クロノジェネシスの最後の走りを見届けてきました。レースに先立ち、装鞍所で久々にクロノに会えたのですが、その姿を見たときは、なんだかホッとしました。引退する前にもう一度会えて本当によかった。結果は3着でしたが、頑張りましたよね。最後まであきらめない走りからは、大きな元気をもらいました。
今でも覚えていますが、小倉の新馬戦を勝ったあと、僕は斉藤(崇史調教師)先生に「この馬にはどこにでも乗りに行きます!」と宣言。そうアピールしたくなるほど、2歳の頃から抜群のセンスを感じさせる馬でした。
その新馬戦を含めて14戦。2年半もの長い時間を一緒に戦ってきたんですね。うれしかったこと、悔しかったこと、ビックリしたこと──その走りを通して、数え切れないほどの思い出を作ってくれました。
一番悔いが残るのは、間違いなく阪神ジュベナイルフィリーズです。ダノンファンタジーから半馬身差の2着に敗れたレースですが、出遅れてしまったのは仕方がないとはいえ、仕掛けのタイミングやコース選択など、僕のなかには大きな悔いが…。自分自身への悔しさを、後々まで引きずってしまったレースでした。
▲「一番悔いが残る」という阪神ジュベナイルフィリーズ (C)netkeiba.com
そんな思いを晴らしてくれたのが秋華賞。勝つためのレース、勝ちに行くレースに徹し、実際に結果を残せた。最後の一冠でしたからね、ここは勝たなければいけないという強い覚悟を持って臨んだレースでした。そこでしっかり結果を出せたという意味で、僕とクロノジェネシスのベストパフォーマンスだったんじゃないかなと自分では思っています。
▲桜花賞・オークス3着、最後の一冠は譲れなかった (C)netkeiba.com
▲「ここは勝たなければいけない」――強い覚悟が実った (C)netkeiba.com
そのあとの宝塚記念や有馬記念ももちろん強かったのですが、「馬が強かったなぁ」というのが僕の正直な気持ちで。でも、のちに男馬相手に強い競馬ができたのも、きっとあの秋華賞があったからじゃないかと思うんです。あの秋華賞こそが、僕とクロノジェネシスの分岐点。振り返ると、そんな気がしてなりません。
それにしても、去年の宝塚記念は強かったですよねぇ。こんな言い方をするのもなんですが、僕からするとGIなのにGIじゃないような、とっても楽なレースで(笑)。それだけクロノジェネシスが強かったということですが、あの着差を見たときの驚きは、たぶん僕もファンのみなさんと同じだったと思います。
3歳の頃は、グランプリを連覇するような馬になるとは、正直思っていませんでした。ただひとつ言えるのは、放牧から帰ってくるたびに確かな成長を感じさせてくれたこと。着実によくなっていくのを目の当たりにして、「馬ってここまで成長するんだなぁ」と、キャリア15年の僕が驚いたほどです。この並外れた成長力こそが、その後のGI制覇につながったのは間違いありません。
もうひとつ、クロノジェネシスから教えられたのは、馬を信じることの大切さです。馬を信じることで、馬もその気持ちに応えてくれるんですよね。馬を信じて乗ることがいかに大切か、ジョッキーとしてすごく大事なことを学ばせてもらいました。
レース以外で思い出すのは、今年の3月に行ったドバイでの時間です。僕にとっては初めての海外遠征だったわけですが、クロノジェネシスのおかげですごく楽しかった。というのも、僕はレースまであまりやることがなくて、馬房のなかにいる素のクロノとずっと遊んでいたんです。よく触れ合ったし、とにかく長い時間を一緒に過ごしました。可愛かったなぁ。
▲ドバイシーマクラシックで、人馬共に海外初挑戦 (C)netkeiba.com
それから1カ月と少しあと。あの落馬事故がありました。自分の状況を把握したとき、まず思ったのは、もうクロノジェネシスには乗れないだろうなということ。無念でしたし、当初は多少焦りもありましたが、焦ったところで骨がすぐにくっつくわけではないし、半年後の有馬記念でクロノに乗れるわけでもない。
怠けるのも簡単、腐るのも簡単です。不貞腐れて、一日中寝てることだってできました。でも、僕はそんな無駄な時間を過ごしたくはなかった。
今もそうですが、そう思わせてくれたのは、やっぱりクロノジェネシスなんですよね。たとえもう乗れなくても、クロノから学んだことを早く次につなげたいし、またクロノのような馬にも出会いたい。最後まで乗れなかったという悔しさも力に変えて、ずっとリハビリにぶつけてきました。
クロノジェネシスという存在こそが、復帰に向けた僕のモチベーション。この約7カ月間、それはずっと変わりません。だからこそ、ケガをした直後は1年後、今は半年後の復帰を目指し、僕の毎日は進んでいます。
しっかりと先を見据えているので、焦りはまったくありません。クロノから学んだこと、クロノで味わった悔しさをその先につなげていくためには、ケガをする前よりさらにいいコンディションで復帰したい。今はその一心で、リハビリに励んでいます。
最後に、クロノジェネシスへ──騎手としていろいろな経験をさせてくれてありがとう。僕は今日、あなたにもらった元気を原動力に変えて、明日からもリハビリに励み、復帰を目指していきます。本当にお疲れさまでした。いいお母さんになってくれることを願っています。
▲「今日、あなたにもらった元気を原動力に変えて……」 (C)netkeiba.com
JRAジョッキー 北村友一