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変わり行く風景

  • 2006年03月28日(火) 23時45分
 2週間ほど前のことだが、ふと思い立って門別(現・日高町門別)まで足を運んだ。かねてより聞かされていたダーレー・ジャパンの牧場群を見て歩くためである。見て歩くとは言っても、中まで入れるわけはなく、もちろん事前に取材申し込みをしているわけでもないので、通りすがりに道路から遠望するだけのことなのだが…。



 あらかじめ地元の友人に話を聞いておいたので大体の目星はつけて走り回ったのだが、いやはや驚いた。想像していたより、ずっと多いのだ。ダーレー・ジャパンの「色」と言えば、一般的には「青」がよく知られている。しかし、日高に出現したダーレー・ジャパン・ファームは、どこも施設が「黒」で統一されている。厩舎、倉庫、住宅など、そのエリアに建つ建物はすべて「黒」なのである。

 厳密に言うならば、必ずしも「黒」ではなく、「黒系統の色」とでも表現すべきだろうが、他には例のない(と思われる)統一されたこの色は、とにかく目立つ。旧名は書かずにおくが、門別地区はずいぶんたくさんの牧場がダーレーに変わってしまったという印象なのだ。

 今の時期、北海道はまだまだ早春の風景で、山も土地も、すべてが裸木と枯草色に覆われているため、お世辞にも美しいとは言いがたいところだが、これが来月以降、徐々に緑色を増してくると、ダーレーの牧場群は、ずいぶん風景に映えることだろう。統一された色彩の施設は、ある種の機能美さえ感じる。眺めるだけならば、これは確かに「美しい」のである。



 こうした変化をどう受け止めるかは、それぞれの立場や考え方によってかなり異なるが、ただ一つだけ言えるのは、確実にダーレーの進出のおかげで「不良債権処理」が進んだという側面が否定できないことだ。

 門別に限らず、日高の各農協にとって、実は傘下の牧場が抱える負債の大きさと処理方法が、もっとも大きな問題になっている。賛否両論はあるものの、経営に行き詰まって今後の展望を見出せなくなった牧場に譲渡の話が浮上して来れば、やはりそれを「渡りに船」と感じる経営者がいるのである。「ここらで負債を償還して楽になりたい」という方向に気持ちが傾くのは無理のないところなのだ。

 ところで、今のところダーレーが進出しているのは、ある程度まとまった面積と居抜きで使用できる施設を持つ中規模牧場が多いとされており、同じ門別地区でも、家族経営主体の零細規模牧場がひしめく地域は進出の対象にはなっていないとも聞く。

 しかし、実はもっとも多くの問題を抱えるのが、こうした零細牧場である。土地面積が狭隘なために転売もままならず、かといって後継者も不在、経営主本人も高齢で、しかもある程度以上の負債を抱えている。このような事情の零細牧場は日高全体ではかなりの数に上るだろう。

 それでも「あくまでもサラブレッド生産に全身全霊を傾けて打ち込む」という固い決意を保持していれば、あるいは道も開けようが、基本的には「自己責任」の世界である。豊富な自己資金や人脈、そして技術がなければ、そもそもが生き残って行けない競争社会なのである。

 改めて、変革の波が日高西部から確実に押し寄せて来ていることを実感させられる。門別の友人がいみじくもこんなことを言っていた。「牧場地図はこれからどんどん書き替えられるだろう。毎年どころか、年に2回くらいのペースで改訂版を出さなければ、時代についていけなくなるほどの変化だと思う」と。確かにそんな勢いを肌で実感する。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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