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NARグランプリ雑感

  • 2022年01月18日(火) 18時00分

唯一意見が割れた部門も結果的にはバランスのとれた形に


 NARグランプリ2021の表彰馬・表彰者が17日に発表された。念のため、ぼくは選定には何も関係していないので、ここではあくまでも私見ということでの感想を述べさせていただく。

 ちなみにNARグランプリの『表彰馬』の選定は、有識者と関係団体代表で構成される14名の優秀馬選定委員会で意見を交換したうえで、多数決によって決定される。その選定経過と結果については、NAR地方競馬全国協会の公式サイト『おしらせ』にあるリンクからも見ることができるので、興味のある方はご覧いただきたい。

 今回はほとんどの部門で表彰馬がすんなりと決まったようだが、唯一意見が割れたのは、ある程度予想されたとおり『4歳以上最優秀牡馬』の部門。NARグランプリの表彰馬は、ほとんどの部門でまずダートグレード競走や中央・海外の重賞タイトルが重視され、当然のことながらGI/JpnIのタイトルがあれば、まずそれが決め手となる。

 4歳以上最優秀牡馬の部門では、川崎記念、かしわ記念を制したカジノフォンテンと、JBCクラシックを制したミューチャリーの争いとなったわけだが、通常であればJpnI・2勝のカジノフォンテンとなりそうだが、JBCはそのレースの成り立ちや意義から、地方競馬の中では“スーパーJpnI”的な位置づけであり、しかもJBCクラシックは21年の歴史で地方所属馬の初勝利というプレミアム感から意見が割れ、実際に選定経過にも「最も議論が白熱した」「大激論の末」と書かれている。

 結果、ミューチャリー8票、カジノフォンテン6票で、JBCクラシックのタイトルが評価されたミューチャリーが選定された。具体的にどんな“大激論”だったのかまでは公表されていないが、どちらに重きを置くかは、もはや考え方の違いでしかない。

 そして年度代表馬については、ほかにキャッスルトップがJpnIのジャパンダートダービーを勝っていたが、実績的にはやはりミューチャリーかカジノフォンテンかとなるところ、「各部門最優秀馬の中から1頭を選定」という規定から、全会一致でミューチャリーとなった。

 そしてNARグランプリには、『ダートグレード競走特別賞馬』という表彰があり、これは「地方競馬で実施されたダート交流重賞競走において最も優れた成績をおさめた馬を選定」するというもの。中央所属馬や外国調教馬も対象になるが、この年、地方のGI/JpnIを複数制したのはカジノフォンテンだけで、オメガパフュームやテーオーケインズにも票が入ったが、14票中10票の得票でカジノフォンテンが選出された。この表彰は2008年に始まったが、地方馬が受賞するのは初めてのこと。

 結果的には、ミューチャリー、カジノフォンテン、両馬とも表彰されるバランスのとれる形になった。仮にカジノフォンテンが4歳以上最優秀牡馬に選定されていれば、ミューチャリーは無冠となってしまっただけに、もしそうなっていればミューチャリーには特別に何か賞がつくられたのかどうか。

 そして興味深いのは、マルシュロレーヌが『特別表彰馬』に選定されたこと。マルシュロレーヌといえば、ブリーダーズCディスタフ制覇という歴史的快挙とも言われる勝利を挙げたにもかかわらず、JRA賞では無冠だったことがさまざまに意見されているが、NARグランプリで表彰を受けることになった。

 ちなみにこの『特別表彰馬』は、当該年だけの活躍で表彰されるものではない。「地方競馬の発展に顕著な功績があったと認められる馬や、その他特に顕彰に値する馬があった場合に選定され、表彰の対象には繁殖馬等も含まれます」とあり、過去の表彰馬を見ると、サウスヴィグラス、アジュディケーティング、ブライアンズタイムなど種牡馬や、ハイセイコー、イナリワン、ライデンリーダーなど地方出身の歴史的活躍馬も表彰されている。

 マルシュロレーヌの重賞タイトルは、BCディスタフ以前は、地方競馬の牝馬限定のダートグレードでの4勝。BCを勝ったことによって、「日本のダート競走の地位を高めたことなど」として表彰対象となった。たしかに、BCの公式プログラムのマルシュロレーヌの成績欄を見ると、「Ladies Prelude」「TCK JO O Hai」「Empress Hai」「Breeders Gold Cup」などが並んでいて、地方競馬にとっては誇らしく感じられる。ちなみに“Jpn”はローカルグレードなので、そこにグレード表記は付いていない。

 表彰者については、ひとりだけ触れておきたい。騎手・調教師の勝利数・賞金・勝率の表彰は、欠格事項などがなければもっとも高い数字を残した騎手・調教師がほぼ自動的に表彰されるのだが、先週の本欄で取り上げた宮川実騎手が、NARグランプリのタイトル(最優秀勝率騎手賞)で表彰されたのはすばらしい。ほんとうによかった。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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