シラユキヒメ、ユキチャン、ブチコ、ソダシと年々、活躍が目立つようになった白毛。近年、JRAで増えた白毛は地方競馬にも登場し、かつて漫画「たいようのマキバオー」で白毛のヒノデマキバオーが活躍した高知競馬場では、今年のお正月に初めて白毛馬がレースに出走しました。
その馬は、デルマイダテン。前述の白毛一族とは別の家系に生まれ、デビュー2年目の井上瑛太騎手と一緒に歩み、ついに1月26日に初勝利を手にしました。
「僕にとって相棒で、同級生みたいな存在」と話す井上騎手とイダテンの「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。
高知初の白毛馬勝利の陰に、兄弟子からのアドバイス
2022年1月1日、高知1レース。新年最初の競走に、神々しささえ感じる白い体の1頭の馬が出走しました。
その名は、デルマイダテン。
▲母マダムブランシェ、父ジョーカプチーノの4歳牡馬のデルマイダテン。(提供:打越勇児厩舎)
JRAでデビューして2戦を走ったのち、1年近くの休養を経て、高知競馬の打越勇児厩舎に移籍してきました。
デルマイダテンはシラユキヒメ-ブチコ-ソダシとつながる血筋とは別家系で、母マダムブランシェが突然変異の白毛。父にジョーカプチーノを迎え、母の白毛のDNAを受け継ぎました。
▲シャワー後は肌が薄ピンクに染まり、胸前のブチがクッキリと浮かび上がります。(提供:打越勇児厩舎)
「移籍初戦はパドックですごくたくさんのカメラを向けられました」と驚いた表情を見せるのは、騎乗した井上瑛太騎手。
デビュー2年目の、デルマイダテンと同じ打越厩舎所属の若手です。
「騎手デビューした日以降、こんなに注目されるのは初めてで、みんな馬を撮っているはずなのに、僕が恥ずかしくなりました(笑)」と照れ笑いを浮かべます。
▲レース用の真っ白なメンコをつけておめかしをするデルマイダテン。担当するのは、馬と鳥が大好きな女性厩務員。(提供:打越勇児厩舎)
レースは中団から運び、3着。一見、スタートから行き脚がつかなかったように感じたのですが、そこには理由がありました。
「能検※のスタートで躓いたので、打越先生から『ゲートだけ気を付けて』と言われ、とにかく安全に出しました」
※能力検査。移籍馬や長期休養明けの馬などに課される模擬レースのようなもの
1戦目のスタートは問題がなかったことから、2戦目では「仕掛けて前につけられました」と4番手で先行して2着。そして1月26日に迎えた高知3戦目、2番手から3コーナー手前で早め先頭に躍り出ると、待望の初勝利を決めました。
▲2馬身半差をつけて初勝利を挙げたデルマイダテン。井上瑛太騎手にとっても2022年初勝利となりました。(提供:高知県競馬組合)
もちろんこれは高知での白毛馬初勝利。
かつて漫画「たいようのマキバオー」の主人公ヒノデマキバオーは高知競馬所属で、その姿と重ねるファンもいたことでしょう。
▲ピンクの鼻とクリクリの目が可愛いデルマイダテン。(提供:打越勇児厩舎)
井上騎手は「メンバーにも恵まれました」と言いつつも、すっかり目尻を下げて嬉しい様子。
「自厩舎で唯一、日々の調教もレースもずっと一緒に歩んでいる馬で、相棒です。仲も良くて、同級生みたいな感じです」
▲▼仲良しのデルマイダテンと井上瑛太騎手。でも、撫でていると甘噛みしてくることもあるとか(笑)。「勝利を挙げてから、馬場ではやんちゃなところが出てきました」(提供:打越勇児厩舎)
元騎手の祖父が打越厩舎で厩務員をしていたことから、中学生の頃から夏休みになると祖父母の家に泊まり、寝藁上げなどを手伝っていたという井上騎手。
デルマイダテンとの“友達感”が伝わってきますし、撮影した担当厩務員さんの優しいまなざしも伝わってくる気がします。
そんな風にほっこりしていると「実は、たったひと言で変わったコトがあるんです」と、井上騎手が切り出しました。
それは、自身が騎手を目指すきっかけにもなった兄弟子の宮川実騎手からかけられた言葉でした。
「能検で道中、他馬に置いていかれたことを話したら、『調教から気合いをつけた方がいい』と教えてくださいました。
僕は普段、大人しい馬に乗る時はムチをズボンに差して乗っているんですけど、このアドバイスをもらってからはハミを掛けて、出だしからムチを入れるようにしました。そしたらハミを取るようになって、移籍初戦は能検とは全然違ってグイグイ進んで行きました。
(宮川)実さんからのアドバイスがなかったら、まだ勝てていなかったかもしれません」
昨年のNARグランプリ最優秀勝率騎手賞に輝いた兄弟子からのひと言は、技術を身に着けている最中の若手騎手にとって、大きなきっかけとなりました。
高知のアイドルになってほしい
高知初の白毛馬による勝利を挙げられて喜ぶ井上騎手を師匠の打越調教師はどう見ているのでしょうか。
「注目されますし、勝てて喜んでいると思います」
デビュー時には「兄弟子の宮川騎手をいつか追い越し、リーディングを獲ってください」とエールを送った打越調教師。
「でもね、甘ったれていますよ」と厳しい言葉をかけますが、師匠だからこそ強化すべき点を見つけ、本人に口酸っぱく言っているのでしょう。
大人になればなるほど、自分のことを注意してくれる人は減り、成長の機会は失われていきます。しかし、競馬の世界は古き良き職人の世界が残っていて、取材をしていると、時にうらやましくなるほど。これほどまでに自分のことを親身に考えてアドバイスしてくれる他人って、なかなか貴重な存在だよね、と思うのです。
井上騎手自身は、まだまだ成長途上で辛くて苦しいことも多いかもしれませんが、グッと踏ん張って、いつか兄弟子のように輝いてほしいなと願います。
さて、デルマイダテンですが、ここまで1300m、1600m、1300mと走ってきました。
1300mと1600mはたった300mの違いのようにも思えますが、前者はスタンド前からスタート、後者は3コーナー奥の引き込み線からスタートしてすぐにコーナーを迎えるという、特色が異なるコースです。
デルマイダテンにとって、適距離はどのあたりなのでしょうか?
「お父さんがジョーカプチーノで、血統的には短距離なのかな? とも思いますが、1600mで長くゆったり走った方がいいのかな? と現時点では思っています。とはいえ、まだレース数をこなしていないので分からないですけどね」と打越調教師。
JRAでは馬に合った距離やコースを選んでレースに出走させますが、高知競馬の場合は「C3クラスは今日は1300mのみです」という風にその日によって距離が決められており、JRAのように自由に決めることが難しいです。
だからこそ馬券妙味も生じますし、キャリアや年齢を重ねていくことで適性が変わる馬だと新たな一面が見られるケースもあります。
デルマイダテンの次走は、初勝利を挙げた時と同じ1300mで、明日9日高知3R(16時35分発走)に出走予定。
「前走よりちょっとメンバーが強くなっていますが、とても良くしていただいているオーナーの馬で、まずは無事に走ってきてくれればと思います。高知競馬のアイドルのようになれればなぁ、とも思います」と、打越調教師。
そして、主戦の井上騎手は「可愛くて、一生懸命走る姿を見てほしいです。勝ち上がっていって、ナイターの時間帯に走りたいです。暗い中、1頭だけ白い馬って、綺麗だと思うんです」と、コンビで2勝、3勝と挙げた先の未来を描きます。
始まったばかりのデルマイダテン物語。
白毛馬と若手騎手は、師匠に見守られながらどんな道を歩んでいくのでしょうか。
▲白毛馬と若手騎手のデルマイダテン物語は始まったばかり(提供:打越勇児厩舎)