大逃げを打ったパンサラッサが勝利(撮影:小金井邦祥)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
堅かった年も荒れた年もそれぞれ少なくない
AIマスターM(以下、M) 先週は中山記念が行われ、単勝オッズ4.4倍(2番人気)のパンサラッサが優勝を果たしました。
伊吹 お見事と言うほかありません。好スタートで先手を奪い、序盤の1000mを57.6秒で通過。3〜4コーナーでさらに後続との差を広げ、セーフティリードを保ったまま逃げ切りました。展開に恵まれたわけではなく、自ら動いてこの展開に持ち込んだわけですから、非常に価値のある勝利と言えるでしょう。
M パンサラッサはこれで重賞2勝目。ここ4戦で3勝をマークしています。
伊吹 私は単勝オッズ10.9倍(5番人気)にとどまっていた昨秋のオクトーバーS(1着)でこの馬に◎を打っており、当時は「良いタイミングで狙えたな」と満足していたのですが、正直なところ次の狙い時はもう少し先になるのではないかと考えていました。今回の中山記念はもちろん、3走前の福島記念も、後続が手も足も出せない完璧な競馬。私の想像を上回る早さで力強さを増していますね。
M 完全に勝ちパターンを確立させた今なら、大舞台でも楽しみです。
伊吹 ビッグタイトルを獲得する可能性も十分にあると思います。少なくとも、展開の鍵を握ることになるのは間違いありませんから、今のうちにここ数戦のレースぶりをじっくり分析し、今後の付き合い方をイメージしておくべきでしょう。
M 今週の日曜中山メインレースは、皐月賞トライアルの弥生賞。昨年は単勝オッズ17.9倍(4番人気)のタイトルホルダーが優勝を果たしました。もっとも、単勝1〜2番人気の2頭が2〜3着を確保したこともあり、3連単の配当は2万3580円どまり。どちらかと言えば堅く収まりがちな印象のあるレースです。
伊吹 過去10年の弥生賞を振り返ってみると、3連単の配当が百倍を下回ったのは2014年・2016年・2018年・2020年の4回。しかしその一方で、2012年・2013年・2015年・2019年には一千倍を超える配当が飛び出しています。単勝人気順別成績を見ても、人気薄の伏兵が上位に食い込んだ例は決して少なくありません。
M 上位人気馬の好走率も、高く評価すべきかどうか微妙なところですね。
伊吹 極端な低額配当で決着する可能性がある点を頭に入れつつ、「そうなったら仕方ない」と割り切って穴をねらうのもひとつの手でしょう。
M そんな弥生賞でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ボーンディスウェイです。
伊吹 面白いところを挙げてきましたね。上位人気に推される可能性は低いでしょうし、おそらく魅力的なオッズがつくのではないかと思います。
M 前走のホープフルSでは、勝ったキラーアビリティから0.5秒差の5着に健闘。ただ、まだ重賞やオープン特別で馬券に絡んだことはない馬ですし、今回は朝日杯FSを制したドウデュースらが出走してくることもあり、人気の盲点になりそうな雰囲気です。
伊吹 荒れると踏むならばこのくらいの伏兵を狙いたいところですよね。Aiエスケープの評価を踏まえつつ、この馬のプロフィールと過去の弥生賞で好走した馬の特徴を見比べていきたいと思います。
M まず、ホープフルSから直行してきた点はどう評価するべきでしょうか。
伊吹 強調材料と考えて良さそうです。過去10年の弥生賞を見ると、前走がGI競走だった馬は3着内率が7割を超えていました。
M 連対を果たした馬はそれほど多くありませんが、人気薄の該当馬を狙う分には心強い数字ですね。
伊吹 ちなみに、前走の条件がGI以外、かつ父がディープインパクト・ハーツクライ以外の種牡馬だった馬は2012年以降[3-3-1-64](3着内率9.9%)、2016年以降[0-1-1-35](3着内率5.4%)。このレースと相性が良いディープインパクトやハーツクライの直仔を除くと、GI以外のレースを経由してきた馬は強調できません。
M 奇しくもボーンディスウェイはハーツクライ産駒。さらに期待が高まりますね。
伊吹 父にハーツクライを持つ馬は2012年以降[0-4-0-4](3着内率50.0%)ですからね。ただ、残念ながらボーンディスウェイには不安要素もいくつかあります。そのひとつがキャリア5戦である点。2016年以降の3着以内馬18頭中16頭は、出走数が2〜4戦でした。
M 新馬を勝ち上がった直後の馬だけでなく、キャリアが豊富過ぎる馬も苦戦していますね。
伊吹 条件クラスを勝ち上がるのに時間がかかったケースなど、弥生賞出走までに多くのレースを使わざるを得なかった馬は割り引きが必要です。
M ボーンディスウェイはデビュー3戦目でようやく勝ち上がりを果たした馬。確かに、デビュー直後から順調に収得賞金を積み重ねてきた馬よりは不利な立場かもしれません。
伊吹 あとは先行力の高さを活かしたいタイプである点も気掛かり。2016年以降の3着以内馬18頭中16頭は、前走のコースがJRA、かつ前走の上がり3ハロンタイム順位が4位以内でした。
M 2021年はタイトルホルダーの逃げ切り勝ちでしたが、基本的には末脚を重視した方が良さそうですね。
伊吹 ボーンディスウェイは前走の上がり3ハロンタイム順位が11位タイ。2走前の葉牡丹賞を勝った時も8位タイどまりでしたし、末脚勝負となった場合は分が悪いのではないかと思います。
M Aiエスケープが高く評価している一方、レースの傾向からはあまり強調できないという結論になりました。
伊吹 難しいところですね。人気サイドの馬を信頼するのならば、このあたりの伏兵を思い切って軽視しないと十分な利益が出せません。ただ、ボーンディスウェイ自身の実力や予想されるオッズを考えたら、一票を投じる価値は十分あるようにも思えます。最後の最後まで扱いに悩みそうな一頭です。