いよいよ今週11日のレースを最後に、現在の名古屋競馬場が閉幕します。名古屋市内の湾岸地区に位置する名古屋競馬場はこの後、厩舎やトレーニングセンターのある弥富市に移転しリニューアルオープンを迎えるのですが、この地での歴史は実に73年。その間には数々の記録や、競馬場では前代未聞の(?)ヤギの登場など、様々な出来事がありました。
フィナーレを迎える現・名古屋競馬場にまつわる「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。
ダートグレード勝ち馬や国内初記録をマークしたジョッキー
JR名古屋駅から改札続きで乗り換えができるあおなみ線に揺られること12分。「名古屋競馬場前駅」が現・名古屋競馬場の最寄り駅です。
駅前には名古屋出入国在留管理局があることから、競馬ファンのみならず外国人の乗り降りも多い地。駅から競馬場までは徒歩5分強で、道沿いの看板には、競馬場にかつてたすきコースがあったことを示すものもあります。
▲道沿いの看板には、ハッキリとたすきコースが描かれています
この界隈には「土古(どんこ)」という地名があり、玄人ファンからは「土古競馬場」という愛称でも親しまれていました。その名古屋競馬場に移転の話が持ち上がったきっかけは、2026年に開催予定のアジア競技大会の選手村に当地を活用するというもの。大会終了後は商業施設やマンションとなる予定です。
▲名古屋競馬場は「日本一コンビニに近い競馬場」という説も。正門から横断歩道を渡るとすぐにローソンがあり、急な雨の時など便利です
さて、土古にある名古屋競馬場は数々の歴史を紡いできました。たとえば、岡部誠騎手が地方競馬史上12人目となる地方通算4000勝を達成したのもこの地。
▲2020年10月14日名古屋12レースをウォーターレラで勝ち、地方通算4000勝を達成した岡部誠騎手
名古屋初の4000勝ジョッキー誕生の瞬間でもありました。また、宮下瞳騎手が国内女性騎手初の通算1000勝を達成したのもここ。
▲女性騎手初の1000勝達成には2人の息子さんたちもお祝いに駆け付けました
競走馬では2003年名古屋大賞典JpnIIIや04年かきつばた記念JpnIIIを勝ったマルカセンリョウ、05年かきつばた記念を勝ったヨシノイチバンボシ、07年サマーチャンピオンJpnIIIを勝ったキングスゾーン、名古屋グランプリJpnII、名古屋大賞典JpnIII、白山大賞典JpnIIIなどで3着のカツゲキキトキトなど、多くのスターホースが名古屋の看板を背負って全国で戦いました。
近年の記録を振り返るだけでも、これだけのものがあります。また、若手の加藤聡一騎手にとっては、移転直前に念願の地元重賞制覇を果たせました。17年のヤングジョッキーズシリーズではファイナルラウンドに進出するなど、早くから活躍を見せ、「乗れる若手」として注目を集めていた加藤騎手。重賞初制覇は17年笠松・くろゆり賞(ヴェリイブライト)で、その後は金沢・北國王冠をアサクサポイントで勝つなど重賞5勝を挙げていましたが、地元での重賞は未勝利でした。
「みんなから『お前は地元じゃ勝たん』と言われていたので、やっと呪縛から解放された感じです」
名古屋には先述の岡部騎手だけでなく「丸野勝虎騎手も今井貴大騎手も、他にもたくさん上手いジョッキーがいます」という中で、手にしたタイトルでした。ちなみに、加藤騎手に名古屋コースの特徴を聞いてみると
「たとえば園田だと3コーナー付近に坂がありますけど、名古屋は平坦コース。無駄なことをすると、しまいに必ず影響が出るという印象があります。力関係が拮抗している条件戦では、序盤で逃げ・先行争いが激しくなれば、しまいは大体止まります」とのこと。競馬場によっては多少逃げ争いが激しくなっても残るコースもありますが、名古屋はそうとも言い切れません。
そしてもう一つ、名古屋の特徴は「ジョッキーが全員、パドックで騎乗する」ということ。JRAや他の地方競馬では連続騎乗の場合、時間の関係からパドックで騎乗できないジョッキーが多いのですが、名古屋競馬場は検量室とパドックが近いため、基本的には全員がパドックに登場。お目当てのジョッキーの写真を撮りたい方にとっては絶好のシチュエーションで、若者からご年配の方までスマホで撮影する姿をよく見かけます。
なお、馬の性格によってはあえてパドックでジョッキーが騎乗しないパターンもありますので、その場合はご了承ください。現競馬場ラスト“イヴ”となる10日にはクリンチャーなどJRA馬も参戦する名古屋大賞典JpnIIIも行われるので、レースと合わせてパドックもお楽しみいただければと思います。
ヤギがいて、お寿司とラーメンのセットメニューのある競馬場
翌11日は最終レース終了後、閉場式典が行われ、週末の12日と13日にはバックヤードツアーやパドックでの乗馬体験など多くのイベントが用意されています。さらに、各日先着で今日から11日まではオリジナルクリアファイル、12日〜13日は馬場の砂ボトルがプレゼントされます。
※詳しくは名古屋競馬公式HP内特設サイトへ この地には名古屋グルメのみそカツが楽しめる「大島屋」や、お寿司からラーメンまで幅広く選べる「あらぶ」など名物飲食店がありました。
▲スタンド1階(4コーナー側)の「あらぶ」で人気の「あらぶセット」はお寿司とラーメンという異色の内容
そして、ヤギもいるのです。
▲名古屋競馬場にいる2匹のヤギ
幼少期、「馬のいる動物園に連れて行ってあげる」と父に言われてついて行ったら、そこは競馬場だった、というエピソードを友人から聞いたことがありますが、ヤギまでいるとなれば、動物園と言っても過言でない……のかもしれません。
▲「馬のいる動物園」と言っても過言でない…?
岐阜大学で研究用に飼育されていたチップが15年夏に名古屋競馬場に引き取られ、翌年、異母兄弟の弟・ポテトもやって来たのでした。
なお、彼らの名前の由来は「ポテトチップ」。予想に没頭するおじさまたちの癒しの存在となったり、女性ファンのアイドルとなったりしています。ちなみに、このリード、意外と長くて、グイグイと近寄ってくるのでふれ合う際はお気を付けください。彼らは弥富市の新競馬場にも一緒にお引越しをするようです。
変わっていくもの、変わらないもの、人生には様々ありますが、変わることは進化だと捉えて、弥富市に移転する新競馬場も楽しみたいと思います。
現・名古屋競馬場のラストデーは今週11日、新・名古屋競馬場でのオープニングレースは4月8日の予定です。