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【福永祐一騎手の変化と進化(1)】川田将雅騎手の証言「わからない人は何度見てもわからないくらいの緻密な計算」

  • 2022年05月23日(月) 18時02分
ノンフィクションファイル

▲川田将雅騎手が証言する「福永祐一騎手の変化と進化」 (撮影:福井麻衣子)


2018年にワグネリアンで初めてダービーを勝ったあと、「自分に欠けていた大事なピース、それがダービーだった」と語った福永祐一騎手。以降、福永騎手の勢いは増し、わずか4年間でダービー3勝、コントレイルで牡馬三冠も達成しました。

今春もジオグリフで皐月賞を制するなど、ファンの方にとっても厩舎関係者にとっても、これまで以上に信頼度の高いジョッキーに。そこで、福永騎手をよく知る関係者の方々にご登場いただき、「福永祐一騎手の変化と進化」を第三者目線で詳らかにしていこうという企画。

最初に登場するのは、プライベートでも親交が深く、もっとも近くで見ている川田将雅騎手。同じレースで戦う際の福永騎手にはどういった怖さがあるのでしょうか?

(取材・構成=不破由妃子)

↓掲載スケジュール↓
5/23(月)川田将雅騎手
5/24(火)四位洋文調教師
5/25(水)友道康夫調教師

自信がさらにいい結果を呼び込んでいる


──ご自身のコラム(「VOICE」隔週木曜18時掲載)で「多大なる影響を受けた人物」として、松田博資元調教師、藤岡佑介騎手とともに、その名前が挙がったのが福永祐一騎手。今回は、その福永騎手の『変化と進化』を第三者目線で詳らかにしていこうという企画なのですが、プライベートでも親交が深く、もっとも近くで見ている川田騎手にとって、同じレースで戦う際の福永騎手にはどういった怖さがありますか?

川田 いい意味で、祐一さんに怖さはないです。というのも、祐一さんのなかでちゃんと理論立てて競馬に乗っていますから、競馬の組み立てに関しても、なぜそういうレースをするのかという理論が確実にあるので。

 ということは、その理論を推測すれば、「今回はこういうレースをしてくるだろうな」というのがだいたいわかるんです。それを的確に推測するのは難しく、また、推測できるジョッキーがそもそも少なく、さらにそれを実行することはとても難しい。でも、祐一さんはしっかり実行してくる。皐月賞のジオグリフもそうでした。

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▲皐月賞でしのぎを削ったジオグリフとダノンベルーガ (撮影:下野雄規)


──道中はかなり長い時間、福永騎手のジオグリフと川田騎手のダノンベルーガが中団のポケットで併走していましたよね。

川田 ふたりとも同じようなポジションを取りたかった、そして祐一さんのほうがベストなポジションを実際に取った、というレースでした。あのレースの予想し得る流れのなかで勝つためには、あのポジションが一番いいと思えるポジションでしたから。だから、あのときも「やっぱりな、祐一さんならここにくるよね」と思いました。

──泰然自若という感じでサラッとやってのけているように見えますが、誰もができることではないと。

川田 もちろんです。確たる理論をもとに、しっかりと考え抜かれた競馬をされるのが祐一さんです。なんとなく乗っているというレースはひとつもない。自分の馬の力を把握しているのは当然として、ほかの馬がどういう馬で、誰が乗っているからどんな競馬をしてくるかも頭に入っている。

 その膨大な情報量を使って競馬を組み立てていらっしゃいますから。たぶん、わからない人は何度見てもわからない。それくらい、緻密な計算の上に成り立っている競馬です。

──なるほど。怖さというより、分析力からくる凄味のような。

川田 それは感じますね。高いレベルで論理的に乗っているからこそ、見えてくるものがあるんだと思います。

──2018年にワグネリアンでダービーを勝ったあと、勝ってから気づいたこととして、「自分に欠けていた大事なピース、それがダービーだった」とおっしゃっていました。そのピースが埋まって以降の福永騎手の変化について、なにか感じるところはありますか?

川田 重荷が取れたのではないかなと思います。後輩の僕が言うのもなんですが、より自信を持って乗ってらっしゃる。その自信がさらにいい結果を呼び込み、加えて技術への自信もありますから、ブレることはないですよね。祐一さんにとって、今が一番楽しいと思いますよ。

──ジョッキーとしての欲が、いくつ勝ちたいとか、あのレースを勝ちたいといった自分自身の栄誉ではなく、もっと競走馬という生き物を知りたいといった探求心に向いている。近年の福永騎手からは、そんな印象を受けます。

川田 「こういう馬ならこういう走りをする」「こういう調教、こういうレースをしていったほうがいい」など、馬ごとにアプローチの仕方をすごく考えていらっしゃいますよね。自分自身への欲がないというか、「勝たなければ!」みたいな切迫感がないからこそ、難しいことを“普通に”やってくるというかね。なんせもう調教師目線で競馬に乗ってますから
(笑) 。

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▲「難しいことを“普通に”やってくる」そこが福永騎手の魅力 (撮影:下野雄規)


これからの福永騎手に期待することは「早く調教師に」


──川田騎手は、プライベートでももっとも近しいひとりだと思いますが、プライベートでの福永騎手に変化はありますか?

川田 本当に家庭人になりましたから、ここ数年はプライベートで同じ時間を過ごすことはほとんどないですね。コロナの影響もあり、気軽にご飯を食べに行けなくなったこともとても大きいですが。ただ、変化という意味では、結婚されて、お子さんが生まれて、本当にガラッと変わりましたよ。

──「昔はパリピだった」というご本人の発言も(笑)。

川田 今思えば…。それはまぁ、常に一緒にいて可愛がってもらっていた僕もですけど(苦笑)。

──最後になりますが、同じ舞台で戦うジョッキーとして、そして先輩として、これからの福永騎手に期待すること、どういった存在でいてほしいなど望むことはありますか?

川田 早く調教師になってほしいです(笑)。

──なるほど。俺を乗せろと(笑)。

川田 まったく意味が違います(笑)。ジョッキーとしても人間としても祐一さんに影響を受けてきたなかで、馬に対する考え方も、祐一さんから教えてもらって積み重ねてきたことがたくさんあります。だからこそ、早くチームとして祐一さんと仕事がしたいなと。

 今はお互いにジョッキーで、結果として数を競う立場ですが、そうではなく、トレーナーとジョッキーという間柄で同じ方向を向いて仕事がしたい。なので、早く調教師になってほしい。それが僕の望みです。

(文中敬称略、次回へつづく)

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