▲川田騎手を支える日々のメンテナンスとは…。(撮影:桂伸也)
オフシーズンが存在しない日本のジョッキーは、文字通り「一年中馬に乗っている」状態。そうなれば当然体へのダメージは大きく、日々のメンテナンスに如何に取り組むかが競馬での結果につながります。
“川田騎手のメンテナンス”と聞くと、ストイックな姿を思い浮かべると思います。しかし、その実態は競馬場での姿からは想像できないようなものでした。「お願いやから、もう少し優しくしてください」そう懇願してしまうほどの施術…。川田騎手を支える日々のメンテナンスが明らかになります。
(取材・構成=不破由妃子)
拷問のような施術に「2時間ひたすら叫びっぱなし」
昨年、ブリーダーズカップから帰国したあと、10日間の自己隔離期間がありました。たとえ騎乗停止になったとしても、調教では馬に乗っていますから、ケガによる休養以外で10日間も馬に乗らない時間を過ごしたのは、デビュー以来初めてのこと。
そして、隔離期間を終えたとき、自分の体に驚くべき変化が…。ふと気づいたら、どこも痛いところがないんです。「そんなの普通では?」と思うかもしれませんが、僕にとっては常にどこかが痛いのが当たり前。痛いところがない日なんて、ありませんでした。そして、その痛みが抜け切る感覚は、香港後の14日間の隔離後にさらに強く感じました。
そのときに思ったのは、「これだけ馬に乗らないと、痛いところってなくなるんだ」ということ。その状態で競馬に復帰したら、今度は「俺の身体ってこんなに動くんだ」と、びっくりするほど動きが違い、そこでも新鮮な気づきがありました。
もともと僕の体作りはメンテナンスが中心です。ご存じの通り、僕ら日本のジョッキーにはオフがない。よく「一年中、馬に乗っている」と表現しますが、一年どころの話ではなく、競馬学校時代を含めれば、もう20年以上馬に乗り続けているわけです。
オフシーズンのないメジャーなプロスポーツを僕は知りません。競馬もメジャーな国々にはオフシーズンがあります。そのオフがない日本の競馬においてジョッキーとして大事なことは、常にニュートラルな状態に戻すことだと思っていて、平日にメンテナンスをして体を整え、毎週末、同じ状態で開催日を迎える。そうやって自分の体を調整していたわけですが、強制的に馬に乗らない時間を過ごしたことで、ちょっとずつ溜まり続けた疲労が抜け切れず、そのリカバリーが間に合っていなかったことに気づくことができました。
振り返れば、若い頃は効率的な体の使い方ができず、ひたすら不器用にガッシガシに追っていたので、腰に激痛が走る日も多々。大学病院をはじめ、3カ所の病院で精密検査を受けたこともあります。ふくらはぎも撫でただけで悲鳴を上げるような状態で、月曜日から金曜日まで、回復のためにただ寝ているだけのような生活をしていた時期も。我ながら、いったいどれほど下手な体の使い方をしていたのかとも思いますが、そういう時期があったからこそ、より自分の身体と向き合い、今があるのも確かです。
現在は、主に4名の方に体をケアしていただいています。水曜日と金曜日にやっていただく方がメインで、土曜日は別の方に競馬場にきていただき、レース後の身体のケアをしていただいてます。2人とも長きにわたり僕の身体を診てくれていて、僕より僕の身体を理解してくれている。抜群の安心感があります。
また、東京では同じ施設で2人の方にメンテナンスをしていただいているのですが、それがもうね、痛いなんてもんじゃなく、僕にとっては拷問のような時間で(苦笑)