▲担当厩務員・川越靖幸氏がゼンノロブロイとの思い出を綴る(撮影:下野雄規)
今月の初め、ゼンノロブロイが天国へ旅立ちました。現役時代は4歳時に『秋古馬三冠』を達成し同年の年度代表馬に選ばれるなど、輝かしい成績を残しました。そんなゼンノロブロイを管理した藤沢和雄厩舎で当時担当厩務員としてロブロイを支え続けた川越靖幸氏に現役当時の思い出を振り返っていただきました。
他の馬とは違う雰囲気を感じたという初対面時の記憶から、半馬身差で敗れたダービー、秋古馬三冠、イギリス遠征まで。現役時代に一番近くで世話をした川越氏だから語れる裏話を交え、相棒が旅立った今の想いも語っていただきます。
(取材・構成:佐々木祥恵)
今でも思い返すロブロイと過ごした日々
ゼンノロブロイと初めて会ったのは、検疫厩舎だった。そこにはひときわ目を引く馬がいた。それがロブロイだった。
「馬自身が自分はここにいると主張している、僕を呼んでいるというふうに感じました」
馬が自分を呼んでいると感じたのは、ロブロイとマチカネキンノホシだけだった。
「マチカネキンノホシは初めて会った気がしなかった。一方ロブロイは会うべくして会ったという感じでした」
現役時代のロブロイは、素直で手がかからない馬だった。
「でも時折見せる一瞬の仕草から、元々は気の強い馬なのだなとわかりました。検疫厩舎から出たり、初めての出張先に行った時などに立ち上がったりして暴れて発散することがあったのですが、そんな時にこの馬の爆発力は相当なものだなと思いました。普段は滅多にそういう仕草はしない。厩舎の中や馬運車に閉じ込められていたから、そこから解放されて嬉しいのもあって暴れたりしたのでしょう」
そしてその爆発力を最も発揮したのは、レースだった。
3歳の2月とデビューは遅かった。
「いかにもサラブレッドという感じの細くて美しい品があって、見るからに丈夫ですという感じの馬ではなかったですね。ただ近年稀に見る良い馬でした。ロブロイのような馬には、それまで出会ったことがなかったです」
▲「ロブロイのような馬には、それまで出会ったことがなかった」(撮影:下野雄規)
立ち振る舞いも垢抜けていて、そこにも品を感じた。
「人の手をわずらわせず言うことをよく聞く。そのあたりにも品の良さを感じました」
ただ放牧先では、かなりヤンチャな面を見せていたという。