▲種牡馬生活を送るキセキのいま(c)netkeiba.com
2017年の菊花賞馬キセキ。その菊花賞以降は勝ち星に恵まれなかったものの、GIで4度の2着に凱旋門賞への挑戦など、5年間に渡る充実した競走馬生活は“無事是名馬”を体現し、昨年の有馬記念で多くのファンに惜しまれながら引退しました。
キセキは引退後ブリーダーズスタリオンステーションで種牡馬入り。初年度である今年は79頭に種付けをし、第二の馬生をスタートさせています。そんな2年目の種付けシーズンへ向け英気を養うキセキのいまを取材しました。
(取材・文=佐々木祥恵)
人懐っこく、放牧地で眺めているだけで可愛いタイプ
昨年の有馬記念を最後にターフに別れを告げたキセキ。現在は北海道日高町のブリーダーズスタリオンステーションで、種牡馬として第二の馬生を送っている。
キセキを生産した下河辺牧場の下河辺行雄さんは、ブリーダーズスタリオンステーションを運営する株式会社サラブレッドブリーダーズクラブの代表取締役でもある。それもあってブリーダーズスタリオンステーションの坂本教文さんは、キセキは意識する存在だった。
「先に引退したおじにあたるグレーターロンドンが種牡馬になってこちらにいましたし、レースは注目していました」
下河辺牧場が送り出した名牝ロンドンブリッジ(祖母)の血を引くキセキは、デビュー時から素質の片鱗はのぞかせていたが、3歳秋に菊花賞を制してクラシック最後の一冠を手にしてその才能を開花させた。
▲不良馬場で行われた2017年菊花賞を制覇(c)netkeiba.com
だがその後、善戦はするものの勝ち星に恵まれず、歯がゆい戦いが続いていた。
「強い相手が周りにいて2着、3着が多かった印象でしたね。競走馬時代はここで種牡馬になるイメージはなかったのですが、ずっと頑張れ頑張れと応援していました」
7歳まで走って33戦4勝。GIでは4歳時にはアーモンドアイが制したジャパンC(2018年)2着、6歳の宝塚記念(2020年)ではクロノジェネシスの2着と奮戦。海外にも2019年にフランスのフォワ賞(3着)、凱旋門賞(7着)の2戦を、2017年の3歳暮れ(香港ヴァーズ・9着)と2021年の7歳時(クイーンエリザベス2世C・4着)には香港遠征も経験している。生涯4勝と勝利数は少ないが、数々のレースでキセキらしい走りを披露し、多くのファンの声援を獲得。記憶に残る名馬の1頭と言ってもいいだろう。
▲昨年の有馬記念で多くのファンに惜しまれつつ引退(撮影:下野雄規)
デビューから引退まで注目して応援してきたキセキは、スタッドイン当初から落ち着きがあった。
「ファンの方も覚えていらっしゃると思うのですが、すごい気合乗りでパドックを歩いていたんですよね。それを見て大人しい方ではないなという印象がありました。休養で下河辺牧場で放牧されている時に会いにいったのですが、牧場スタッフが大人しいと言うんですよね。見るだけで世話をしていたわけではないので、その言葉を今ひとつ信じていなかったのですが(笑)、実際に接してみると本当に大人しくてすごく頭の良い馬でした」