牡馬相手に鮮やかに重賞制覇
ディープ産駒最終世代のライトクオンタムが勝利(C)netkeiba.com
シンザンを称えるこのレースは、調整の難しい冬場でもあり、春を展望する馬のスケジュールに入れにくいマイル戦だった。だが、クラシックに向かうレースを絞る手法が主流になり、近年は同じ1600mの桜花賞を展望する牝馬の重要なレースになった。
2012年には、三冠牝馬となるジェンティルドンナが勝った。2016年には2着馬ジュエラーが桜花賞馬となり、さらに2018年には三冠牝馬アーモンドアイがここを快勝した。
今年も中京での開催。珍しく7頭立てとなったが、ディープインパクトの最終世代の牝馬ライトクオンタムが出走して注目レースとなると、そのライトクオンタムが牡馬相手に鮮やかに重賞制覇を達成した。
ディープインパクト産駒は初年度2008年生まれから2020年生まれの現3歳世代まで、海外所属馬11頭を含めると出走した13世代の産駒からすべて、すでにGIを制した馬が出現する快挙を達成している。ライトクオンタムの視界は広がった。
3歳世代の牝馬は、阪神JFを制したリバティアイランド(父ドゥラメンテ)が一歩抜け出した形だったが、シンザン記念のライトクオンタム(父ディープインパクト)の出現によって、一気に厚みを増すことになった。
デビュー戦は、C.ルメール騎手にしては珍しい新馬逃げ切り勝ちだったが、2戦目の今回から乗り替わった武豊騎手は、たとえ出負けしなくても先を考えて差す形を取る予定だったと思える。
幸運なことに、外国産馬ペースセッティング(父Showcasingショーケーシング)が先手を主張したペースは、2番手のクファシル(父モーリス)がかかり気味に追走したため、前後半「46秒3-(1000m通過58秒1)-47秒4」=1分33秒7(上がり35秒6)のきびしいペースだった。
中位より後方に控え、直線は外から34秒6の末脚を発揮したライトクオンタムに願ってもない差し馬向きの流れになっている。少々恵まれた展開になったとはいえ、牡馬相手に1分33秒7で差し切ったこの牝馬の能力は、今回が2戦目であることを考えると価値絶大だった。
同じ中京だった2020年、3戦目のピクシーナイト(のちのスプリンターズS勝ち馬)が逃げ切った流れは1000m通過58秒1は同じで、微妙な馬場差はあるが1分33秒3。咋2022年の勝ち馬マテンロウオリオン(NHKマイルCをクビ差2着)が1分34秒1(レース全体は59秒0-35秒1)だったことを考慮すると、ライトクオンタムも十分にGIレベルであることを示している。
カギは今回も428キロの小型馬だったこと。ディープインパクト産駒の桜花賞馬は「マルセリーナ452キロ、ジェンティルドンナ456キロ、アユサン484キロ、ハープスター478キロ、グランアレグリア476キロ」。実は小型馬はいない。この点が小さな死角か。
ペースセッティング以下が前半飛ばす理想的な展開で、鮮やかに差し切ることができたが、スケールで圧倒というほどのインパクトはなかった印象もある。
だが、ライトクオンタムの母イルミナント(米)は、芝9FのG1勝ち馬。その父クオリティロードは北米のG1を4勝馬。ファミリーのタフな活力には問題はない。
2着ペースセッティングは、つつかれながらハイペースでもバテずに1分33秒8。寸前まで粘ったから立派。父だけでなく、祖父Oasis Dreamオアシスドリーム、3代父Green Desertグリーンデザートも、Danzigダンチヒ系のスプリンターだったので、マイル路線に進むと思える。初の1600mを強気に行ってこの時計で粘ったから展望は開けた。
1番人気で7着に沈んだクファシルは、父モーリスも2戦目にR.ムーア騎乗で激しく行きたがって1番人気で6着に沈んでいる。海外の短期免許の騎手には、当然「結果を出して欲しい」から依頼する。ただ、クファシルは調教駆けするように、行きたがる面のある気性。父モーリスの成長過程を重ね合わせるとき、「あまり行かないで欲しい」と、あえて指示(注文)をした方が良かったのではないか、とも思えた。