大阪杯を制したジャックドール(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
上位人気グループの馬はそれなりに信頼して良さそう
AIマスターM(以下、M) 先週は大阪杯が行われ、単勝オッズ3.6倍(2番人気)のジャックドールが優勝を果たしました。
伊吹 武豊騎手とジャックドールの持ち味が完璧に噛み合っての勝利ですね。積極的に出していったわけではありませんが、スタートが良かった分のアドバンテージもあって難なく先行争いを制し、1コーナーを単独先頭で通過。2番手を追走したノースザワールド(15着)に対して1馬身ほどのリードをキープしたままレースを進め、さらにじわっと差を広げながら4コーナーを通過しています。先団からしぶとく伸びたダノンザキッド(3着)、後方から伸びてきたスターズオンアース(2着)がゴールの直前で迫ったものの、最後の最後まで逆転を許すことなく入線。陣営としても会心の勝利だったに違いありません。
M ジャックドールはGI初制覇。2022年にGIIの金鯱賞と札幌記念を勝っていますが、GI級のレースはこれまでのところ2022年天皇賞(秋)の4着が最高でした。
伊吹 今回はJRAGIで連対経験のある馬が8頭もいる豪華なメンバー構成。オッズを見て「さすがに期待され過ぎだろう」と思った方も多かったのではないでしょうか。かく言う私もそのひとりで、この馬の強みが活きない展開を想定した買い目に振り切ってしまいましたから、お恥ずかしい限りです。
M ビッグタイトルを獲得したことで、今後はさらに注目度が高まるのではないかと思います。
伊吹 5歳とはいえまだキャリア14戦ですし、伸びしろはまだまだあるはず。これからもGI戦線を盛り上げてくれるでしょう。ただ、今のところまだ2000mのレースしか使っていない点は少々気掛かり。ご存じの通り、古馬が出走できる2000mのJRAGIは大阪杯と天皇賞(秋)しかありません。もし異なる距離のビッグレースを使ってきたら、相当に悩ましい存在となりそう。また、このまま2000mのレースを使い続けるとしても、こういう脚質の馬ですから、よりマークがきつい状況への対応が課題となります。もちろん、こうした懸念がまったくの杞憂に終わりそうなくらいのポテンシャルを感じるのもまた事実。いろいろな意味で今後が楽しみです。
M 今週の日曜阪神メインレースは、3歳牝馬による世代チャンピオン決定戦の桜花賞。昨年は単勝オッズ14.5倍(7番人気)のスターズオンアースが優勝を果たしました。大きな波乱は起きづらいイメージですが、実際のところはいかがでしょうか?
伊吹 単勝1番人気馬の成績を振り返ってみると、勝ち切ったのは現在のところ2014年のハープスターが最後。過去10年の3着内率も50.0%どまりと、決して高くはありません。
M ただ、単勝2〜3番人気の馬はそれなりに健闘していますね。
伊吹 単勝4〜6番人気の馬も苦戦しているように見えますが、より実態に即した区切り方をすると、単勝4〜8番人気の馬は2013年以降[4-2-5-39](3着内率22.0%)、単勝9番人気以下の馬は2013年以降[0-0-2-96](3着内率2.0%)でした。超人気薄が馬券に絡んだ例は多くありませんし、基本的には上位人気の馬ほど信頼できるレースと言って良いでしょう。
M そんな桜花賞でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ドゥアイズです。
伊吹 話の流れからすると、ちょうど良い塩梅の人気になりそうな馬を挙げてきましたね。リバティアイランドらにはそれなりの差をつけられそうですが、さすがに単勝9番人気以下ということはないはず。
M ドゥアイズは昨年末の阪神JFで3着に食い込んだ馬。前走のクイーンCや3走前の札幌2歳Sでも2着に健闘しています。まだ2勝目をマークできていないとはいえ、能力の高さは折り紙付き。戦績の安定感を高く評価している方も多いのではないでしょうか。
伊吹 単勝はともかく、連勝式ならそれなりの支持が集まるかもしれませんね。いずれにせよ、買い目作りのポイントになりそうな一頭です。Aiエスケープが高く評価している点を踏まえたうえで、私はレースの傾向からこの馬の好走確率を見積もっていきたいと思います。
M 明暗を分けそうなポイントはどのあたりでしょうか。
伊吹 右回りや1600mのレースにおける実績ですね。2018年以降の3着以内馬15頭中13頭は“JRA、かつ右回り、かつ今回と同じ距離、かつ重賞のレース”において3着以内となった経験がある馬でした。
M 重賞で上位に食い込んだことのない馬はもちろん、左回りや1600m以外の重賞でしか好走したことがない馬も割り引き、と。
伊吹 阪神芝1600m外のレースなので、当然と言えば当然の傾向ですが、やはりコース適性に不安がある馬は疑ってかかるべきだと思います。
M 阪神JFで健闘したドゥアイズにとっては、強調材料のひとつと言えるのではないでしょうか。
伊吹 右回りのレースに関係する傾向をもう一つ紹介しておくと、同じく2018年以降の3着以内馬15頭中14頭は“JRA、かつ右回り、かつ重賞以外のレース”において2着以下となった経験がなかった馬。重賞を除く右回りのレースで一度でも敗れたことのある馬は強調できません。
M なるほど。単純な実績だけでなく、相手関係が比較的楽な右回りのレースで崩れていないかどうかも重要なんですね。
伊吹 どうしても重賞での走りにイメージを引っ張られてしまうと思うのですが、重賞挑戦前の戦績も踏まえたうえで、右回りのレースに対する適性を見極めるべきでしょう。
M 残念ながら、ドゥアイズはデビュー2戦目のコスモス賞で2着に敗れています。
伊吹 大目に見て良さそうな気もしますが、私としてはやや気掛かりです。さらに、近年の桜花賞は小柄な馬が期待を裏切りがちでした。
M ドゥアイズは前走の馬体重が446kg。過信禁物と見ておいた方が良いのでしょうか。
伊吹 ちなみに、前走の馬体重が450kg未満、かつ馬番が5〜18番の馬は2018年以降[0-0-0-26](3着内率0.0%)とまったく上位に食い込めていません。好枠を引いた馬は無理に嫌わなくて良いと思いますが、基本的には疑ってかかるべきだと思います。
M 今回はAiエスケープと伊吹さんの見解が割れましたね。
伊吹 とはいえ、これだけの実績がある馬ですし、他ならぬAiエスケープが有力視しているわけですから、よほど人気が集まってしまわない限りは素直に押さえるつもりですよ。さらに大きな不安要素を抱えた実績馬もいるので、それなりに妙味ある配当の決着を期待しても良いのではないでしょうか。