ふつうならタスティエーラの完勝だった
ソールオリエンスが優勝(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規
「桜花賞」のリバティアイランドも強烈だったが、ソールオリエンス(父キタサンブラック)の皐月賞は、場内にリプレイ画像が流れると驚きのどよめきがさらに大きなどよめきを呼ぶ衝撃の勝ち方だった。
直線「大外一気」と形容される追い込みは、馬群の一番外という程度の意味で、実際には馬場の中ほどだったりするが、ソールオリエンス(横山武史騎手)の通ったコースはたしかに馬場の外側だった。
中位に近い位置で流れに乗り、4コーナーでは馬群から離して大事に外に持ち出し、残り1ハロン標では確勝とみえたのはタスティエーラ(父サトノクラウン)。鞍上松山弘平騎手の非の打ちどころなしの好騎乗で、ふつうならタスティエーラの完勝だったろう。
タスティエーラの2着候補を探すように「外からファントムシーフ(父ハービンジャー)!」の実況が聞こえた残り1ハロンでは、ソールオリエンスは先頭からまだ5-6馬身は差のある中位の外。ところが、そこからあっというまに猛然と伸びたのである。記録された最後の1ハロンのラップは「12秒0」。あの馬場で、ソールオリエンス自身の最終1ハロンは11秒1-2に達していたことになる。
ソールオリエンスの1番枠は、キャリア2戦の差し馬には大きな死角と思えた。実際に出足一歩。そこで無理に追走せず、一転、後方4番手に控える策に出た。リプレイをみると残り3ハロンまで横山武史騎手はソールオリエンスのリズムに合わせ、少しも動いていない。4コーナー手前から、ふくれたのかとみえるほど大胆に1番外へ出した。届くかどうか計算できる馬場でも相手でもない。だから必殺ではないが、これが直線強襲策の極意だろう。会心の追い込み勝ちを決めた横山武史騎手の喜びは、レース後の表彰式で多くのファンに伝わった。
2戦だけのキャリアでの皐月賞を制したのは、2歳戦が行われるようになった翌春の1947年以降初めて。昨年も戦歴2戦のイクイノックスが2着したばかり。牝馬もそうだが、3歳春のクラシックに挑戦のスケジュールは大きく変化している。まだ消耗はない。そこで手塚貴久調教師は「今後に向けて上積みしかありません。日本ダービーに向け、いっそう期待を持ってしっかり仕上げたい」と頂点のレースを展望した。
重馬場のため、レース全体は「前半58秒5-後半62秒1」=2分00秒6。前後半の差が3秒6も生じたきびしい内容で、先行タイプは壊滅。レース上がり37秒2だった。後方一気がはまったとはいえ、ソールオリエンスの上がりはただ1頭35秒台の35秒5。
ここまで混戦とされたが、日本ダービーはソールオリエンスを中心に展開されることになった。種牡馬キタサンブラックは、初年度にイクイノックスを送り、2世代目にソールオリエンスを輩出したからすごい。これまでの種付け頭数は2022年の178頭が最多だったが、今春以降、トップに躍り出そうである。
1番人気のファントムシーフ(父ハービンジャー)は、ソールオリエンスと同じように直線は外に出して伸びたが、「向正面で後ろの脚を落鉄して、この馬場で走りにくかったと思います(C.ルメール騎手)」。評価は下がらない。
3番人気のベラジオオペラ(父ロードカナロア)は外枠から好位で流れに乗ったが、結果的に先行策を取った馬にはペースがきびしくなりすぎてしまった。
キャリア2戦のタッチウッド(父ドゥラメンテ)はスタート直後から行きたがっている。懸命になだめたが、この馬場で折り合いを欠いては苦しかった。