2番人気ソールオリエンスが勝利を果たした皐月賞(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
単勝1番人気馬があまり信頼できない点に注意したい
AIマスターM(以下、M) 先週は皐月賞が行われ、単勝オッズ5.2倍(2番人気)のソールオリエンスが優勝を果たしました。
伊吹 恐れ入りましたというほかありません。決して悪いスタートではなかったものの、積極的に出していった馬が多かったこともあって、道中は後方を追走。もっとも、1コーナーまでに最内枠から馬群の外めへと移動していましたから、この時点でもう横山武史騎手は小細工無用と腹を決めていたのでしょう。4コーナーでは17番手までポジションを下げていましたが、ためらうことなく大外へ持ち出し、先行した各馬を猛追。先に抜け出したタスティエーラ(2着)をゴールの手前で捕らえ、最後は逆に1馬身あまりの差をつけています。上がり3ハロンタイムは35.5秒で、2位タイのファントムシーフ(3着)らがマークした36秒4を大きく上回る断然のトップ。見た目はもちろん、数字の面でもインパクトのある勝利です。
M ソールオリエンスはデビュー戦から3連勝でGI制覇。キャリアの浅さを不安視する向きもありましたが、まったくの杞憂でしたね。
伊吹 デビュー戦も前走の京成杯も9頭立ての少頭数でしたし、その京成杯も粗削りな勝ち方でしたから、18頭立てである点や最内枠である点はどうしても不安視せざるを得ませんよね。私自身、レースの傾向からは強調すべき一頭であるとわかっていたにもかかわらず、最終的な評価は4番手どまり。本命のタスティエーラと対抗格のファントムシーフが頑張ってくれたおかげで何とか馬券は当たったものの、この馬の潜在能力を過小評価してしまった点は反省しています。
M おそらく今後は日本ダービーを目標に調整されるはず。相当な注目を集めることになるでしょう。
伊吹 キタサンブラック産駒は中山よりも東京の方が好成績ですし、こういう脚質の馬ですから、コース替わりはプラスに働くと考えている方が多いかもしれません。ただ、中山芝2000m内と東京芝2400mではレースの流れも変わってくるので、末脚を活かせるかどうかは状況次第。素直に中心視する可能性もありますが、人気が集中することだけは確定的なので、枠順やメンバー構成も踏まえつつ慎重に評価するつもりです。
M 今週の日曜東京メインレースは、1、2着馬に優先出走権が付与されるオークストライアルのフローラS。昨年は単勝オッズ13.6倍(5番人気)のエリカヴィータが優勝を果たしました。なお、その2022年は2着に単勝オッズ7.0倍(4番人気)のパーソナルハイが、3着に単勝オッズ33.1倍(9番人気)のシンシアウィッシュが食い込み、3連単25万8710円の好配当決着となっています。
伊吹 過去10年の単勝1番人気馬10頭中、馬券に絡んだ馬は3頭だけ。波乱の決着となる可能性がそれなりに高いレースと見るべきでしょう。ただ、上位人気グループの成績が極端に悪いわけではありません。
M 単勝2〜3番人気馬や単勝4〜6番人気馬の好走率はそれなりの水準ですね。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝2〜5番人気の馬は2013年以降[7-5-5-23](3着内率42.5%)、単勝6〜14番人気の馬は2013年以降[1-4-5-80](3着内率11.1%)、単勝15番人気以下の馬は2013年以降[0-0-0-32](3着内率0.0%)となっていました。上位人気グループの馬たちを大胆に絞り込んで、超人気薄の馬を手広く押さえるのもひとつの手だと思います。
M そんなフローラSでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、イングランドアイズです。
伊吹 おおっ。伏兵ではなく、人気の中心となりそうな馬を挙げてきましたか。
M イングランドアイズはキャリア2戦。前走のクイーンCでは勝ったハーパーから0.1秒差の4着に健闘しています。母のヌーヴォレコルトは2014年のオークス馬。実績面はもちろん、血統背景からも注目が集まるのではないでしょうか。
伊吹 阪神芝2000m内のデビュー戦でハーパーを2着に下していますし、距離が延びる点も歓迎と見ている方が多いはず。単勝1番人気か、それに近い支持が集まるかもしれません。Aiエスケープが高く評価している点を踏まえたうえで、私はレースの傾向からこの馬の信頼度を測っていきたいと思います。
M 明暗を分けそうなポイントはどのあたりでしょうか。
伊吹 臨戦過程ですね。近年のフローラSは、前走も重賞のレースだった馬が比較的優秀な成績を収めていました。
M これはわかりやすい。条件クラスやオープン特別のレースを経由してきた馬は強調できませんね。
伊吹 なお、前走の条件が重賞以外だったにもかかわらず3着以内となった4頭のうち3頭は、前走の着順が1着、かつ前走の2位入線馬とのタイム差が0.2秒以上。前走が重賞だった馬と、前走を完勝した馬に注目するべきレースと言えます。
M クイーンCから直行してきたイングランドアイズにとっては心強い傾向です。
伊吹 もうひとつ臨戦過程に関して言うと、前走の距離も影響が大きいファクターのひとつ。2019年以降の3着以内馬12頭中11頭は、前走で2000m未満のレースを使っていた馬でした。
M 前走が2000m以上のレースだった馬は3着内率が4.5%どまり。こちらはちょっと意外に感じる方も多いのではないでしょうか。
伊吹 フローラSより前に施行されるJRA、かつ2000m以上、かつ2〜3歳牝馬限定、かつオープンクラスのレースは、オープン特別の忘れな草賞だけ。桜花賞までは1マイル前後のレースを中心とした番組体系になっていますから、新馬・未勝利や1勝クラスのレースを含め、中距離戦はハイレベルなメンバー構成になりにくいのだと思います。
M なるほど。逆に言うと、イングランドアイズのような臨戦過程の馬は素直に信頼してよさそうですね。
伊吹 あとは実績面をどう評価するかがカギ。同じく2019年以降の3着以内馬12頭中9頭は“JRA、かつ1勝クラス以上のレース”において3着以内となった経験がある馬でした。
M 新馬・未勝利のレースでしか馬券に絡んだことがない馬は不振、と。
伊吹 ちなみに “JRA、かつ1勝クラス以上のレース”において3着以内となった経験がなかったにもかかわらず3着以内となった3頭は、ノーザンファームとレイクヴィラファームの生産馬。伸びしろがありそうなノーザンファーム勢でない限り、該当馬は思い切って評価を下げるべきだと思います。
M イングランドアイズは厳密に言うとこの条件をクリアしていませんが……。
伊吹 まぁ、クイーンCの4着馬を実績不足とみなすのはさすがに無理筋でしょうね。私は他に狙いたい馬がいるので、◎を打つつもりはないものの、2〜3番手評価のポジションに据える予定。Aiエスケープも有力と見ているのであれば心強い限りです。不安要素がある他の人気馬を嫌い、伏兵の台頭にも対応できるような買い目を組みたいと思います。