発売中の「優駿」5月号で、ドバイワールドカップデー詳報の執筆を担当した。その詳報には、ウシュバテソーロでドバイワールドカップを制した川田将雅騎手のインタビューも掲載されている。
そう、3週間前の当欄に記した、栗東トレセンで初めて一対一で話を聞かせてもらった騎手というのは川田騎手だったのである。netkeiba.comの彼のコラム「VOICE」はいつも見ているし、あれだけの騎手なので、どんな人物かわかっているつもりではあったが、念のため、彼の近著『頂への挑戦』(KADOKAWA)を読んでからインタビューした。
結論から言うと、読んでよかった。意外な一面を知ることもできたし、私と共通する考えもあれば、まったく異なる思考法もあったりと、とても面白かった。
特に、ハープスターに乗っていたころ、重圧と責任感と喜びなど様々な思いや感情を抱き、あまり笑わなくなっていた、というあたりなどは読み応えがある。
同期の藤岡佑介騎手の著書『ジョッキー×ジョッキー』(イースト・プレス)所収の対談に出てきた「自分ルール」に通じる、川田騎手らしい、ビシッと芯の通った強さの背景に触れることができ、興味深い。
それまでも、レース後の川田騎手への囲み取材には何度も参加していた。要は、「多対一」の取材である。しかし、そういうときの川田騎手は、きわめて慎重に言葉を選び、12〜13字詰めの新聞だとしても数行程度の分量しか話さないことが多い。どう使われてもいいように、というか、それ以上取材者が変えようがない最低限の言葉に、意識してとどめているようだ。
テレビカメラに対して話すときもそれに近く、ドバイワールドカップ直後にカメラに向かって言った、ウシュバテソーロの「我の強さ」とはどういうものなのかについても、今回のインタビューで説明してもらった。内容がすべて伝わるように話すと数分、もしくは10分以上になってしまうので、便宜上、レース直後は「我の強さ」という表現にした、ということがよくわかった。「優駿」の誌面においては、「我の強さ」の説明に、17字×20行ほどを要した。
それほど、人に何かを伝えるのは難しい。その難しさを理解したうえで、伝えることの大切さも意識しているからこそ、川田騎手は、囲み取材と一対一の取材での言葉を使い分けているのだろう。
彼のように、理路整然と順序立てて話す人のコメントを紹介するには、前後のつながりをきちんと書かなくてはならないので、短くまとめるのは難しい。まあ、そこが書き手の腕の見せ所でもあるのだが、文字数の自由な単行本やネットでこそ、「らしさ」を伝えやすいアスリートのように感じた。
今週と来週は、スポーツ誌の競馬特集の取材で、宮城と北海道に行く。
コロナ禍になってプラスになったことのひとつに、リモートでのコミュニケーションが一般化したことがある。初めて仕事をする編集者と、何年も前から知っているデスクとの3人での打ち合わせもズームで済ませた。対面より若干タイムラグはあるが、すぐ慣れるし、互いに表情を見ながら話せるメリットは大きい。本稿がアップされる日には、最年少ダービージョッキー・前田長吉について、新聞社からズームで取材を受ける。
長めの〆切もいくつか抱えているので、対面ならとてもじゃないがこなせない打ち合わせや取材も、リモートならどうにかできてしまう。おかげで、ますます貧乏暇なし、である。
さて、2週間前の当欄に、「美味くてビックリする店に出会ったのは、札幌の手稲にあるルーカレーの店『和(なごみ)』に初めて行った2019年以来かもしれない」と書いた。すると、それを読んだ人が「和」に来てくれた、と、「和」のママさんからメッセージが来た。
読んでくれたことも、足を運んでくれたことも、嬉しかった。
以前は私もしょっちゅう「和」に行っていたのだが、札幌の実家を売ってからは、ほとんど行けずにいる。来週の北海道取材で、時間があれば、久しぶりに「和」に行き、道産ロースカツと自家製ザンギ(「唐揚げ」の北海道弁)とウインナーの乗った「わがままカレー」を食べたいものだ。まろやかなルーを口に入れたときの幸福感を思い出すと、涎が出そうになる。私はいつも間違えて「よくばりカレー」と言ってしまい、券売機で探すのに苦労するのだが、ともかく、美味い。
安平の社台スタリオンステーションやノーザンファームには去年も何度か行ったが、日高の馬産地に行くのは、考えてみたら3年ぶりになる。取材対象は私と同い年の牧場主である。いろいろなところでニアミスはしていたのだが、膝を突き合わせて話すのは初めてなので、楽しみだ。