「50代でGI優勝騎手」の仲間入りを果たした名手・内田博幸
シャンパンカラーが優勝(撮影:下野雄規)
雨の稍重馬場。一段と混戦ムードとなった中、鮮やかな差し切りを決めたのはベテラン内田博幸騎手の9番人気の牡馬シャンパンカラー(父ドゥラメンテ)だった。
有力な前哨戦の「ニュージーランドT」の小差3着馬であり、2着に突っ込んだ牝馬ウンブライル(父ロードカナロア)も同じレースの2着馬。3着オオバンブルマイ(父ディスクリートキャット)は、もうひとつの前哨戦「アーリントンC」の勝ち馬。実際は波乱ではなかったのだろう。
JRAに移籍する前年に内田博幸騎手(当時は大井所属)が、テン乗りで大波乱の主役として追い込み勝ち決めた牝馬ピンクカメオ(17番人気)ほどの穴馬ではなく、勝たれてみればシャンパンカラーはこれで東京の芝1600m【3-0-0-0】。2着馬も、3着馬も有力候補であって不思議はないが、とくに1-2着馬は大混戦がささやかれた中、なんとなく主軸にはしにくい候補だったのかもしれない。
レース全体の流れは、前後半「46秒3-(1000m通過58秒4)-47秒5」=1分33秒8(上がり35秒4)。先行タイプが総崩れになるほどのハイペースではないが、降り続いた雨の影響は大きく、進路選択のむずかしい芝コンディションだった。
シャンパンカラーはスタートで少し立ち遅れている。2着ウンブライルもダッシュ一歩で前半は最後方近く。だが、内田博幸騎手も、横山武史騎手も慌てることなく後方で我慢したのが大正解。好スタートだったオオバンブルマイ(武豊騎手)もいつのまにか後方3-4番手まで下げている。その少し前にいたのが横山典弘騎手の6着モリアーナ(父エピファネイア)。「難しい馬場コンディションのときは、経験豊富なベテラン騎手の馬を買え」という金言(?)があったりするが、キャリアの浅い3歳馬同士の東京のマイル戦、まして渋馬場、ベテラン騎手はそろって最後の直線勝負になることを読んでいた。
勝った内田騎手は、この勝利で2018年のフェブラリーS以来のGI勝利。50代でGIを勝ったときの騎手の年齢順は「武豊、岡部幸雄、内田博幸、安藤勝己、横山典弘」。見事にグレード制導入後「50代でGI優勝騎手」の仲間入りを果たした。現役のジョッキーはあまりうれしくないだろうが、実際はなにより輝かしい勲章である。ベテラン内田博幸騎手らしい勝利騎手インタビューも良かったが、雨の中、伏兵馬が勝ったレースとは思えないほど勝った人馬を称えるファンの拍手と声援は大きかった。
輸入された3代母バルドウィナから発展するファミリーは、シャンパンカラーと同じ青山オーナーのワンカラット、ジュエラーなど、どちらかといえば牝馬に活躍馬が多かったが、シャンパンカラーだけでなく、同じ3歳のワンダイレクト(父ハービンジャー)、さらにはアラタ(父キングカメハメハ)など、近年は牡馬の活躍馬が増えている。
2着に上がり最速の34秒0で突っ込んだウンブライルは、2018年のマイルCSなどの勝ち馬ステルヴィオの全妹。シンボリルドルフの一族でもある。前走からのブリンカー装着で追っての鋭さが一変した。まだパドックの仕草など若い印象を与え、レース前のロスがあるはずだが、今回の強烈な追い込みは馬場や展開が味方したものではない。大きく成長するだろう。このGI、この10年で牝馬が7頭も1-2着したことになった。
3着オオバンブルマイは勝ったとみえたシーンもあったが、残念ながらあまりに反応が良すぎて最後に鈍ってしまった。1400-1600mなら今後も崩れない。
1番人気のカルロヴェローチェ(父シルバーステート)は、13着に沈んだセッション(父シルバーステート)とともに重心の低いパンチあふれる好馬体だが、道中で首を振るなど無駄な動きがあったように映った。セッションもそうだが、まだ最初から行きたがる若さがあり、無理なく折り合ってレースの流れに乗れる落ち着きが欲しい。
2番人気のエエヤンもシルバーステート産駒。こちらも気が良すぎるのか、道中の折り合い一歩の印象が残った。内枠が災いし、やむなく直線でもインを狙ったが、勝負どころで狭くなって他馬と接触してしまった。