今週の月曜日と火曜日、北海道苫小牧市のノーザンホースパークで「セレクトセール2023」が行われた。
初日の1歳セールが133億6500万円、2日目の当歳セールが147億8000万円。2日間の合計281億4500万円は、過去最高だった昨年の257億6250万円を大きく上回る、史上最高額となった(価格は税抜き、以下同)。
サイバーエージェント代表の藤田晋オーナーが2日間で23億6900万円を投入したこともニュースになった。セレクトセールに初参戦した一昨年が23億6200万円、昨年が22億2600万円。「爆買い」と報じられたが、金額がほぼ揃っていることから、細かく計算されたうえでの投資なのだろう。
このところのセレクトセールの売上げアップは、藤田オーナーが加わったことももちろん大きいが、それ以上に、すべてのオーナーの投じる額が増えつづけていることの結果である。
以前は、高額落札馬として1億円以上の値がついた馬のリストがスポーツ紙に掲載されていたが、今年はそれが2億円以上になっている。
1歳セールで2億円以上の馬は11頭いて、最高額はインクルードベティの2022(父キタサンブラック)とパレスルーマーの2022(父シルバーステート)の3億1000万円。当歳セールでは15頭いて、最高額はコンヴィクションIIの2023(父コントレイル)の5億2000万円。
後者は、日本の競走馬セール史上3番目の高額落札馬となった。落札したのはコントレイルを生産した(株)ノースヒルズで、前田幸治代表から、来年開業する予定の福永祐一調教師への開業祝いだという。コントレイルを管理した矢作芳人調教師の管理馬として、同代表の弟で、コントレイルの馬主だった前田晋二氏が、バイバイベイビーの2023を3億3000万円で落札している。
こうして、かつての主戦騎手と管理調教師に最高の産駒をプレゼントするあたりは、いかにも前田代表らしい。
今年のセレクトセールは、ディープインパクト、キングカメハメハ、ハーツクライといった大種牡馬の産駒が不在のなか、どんな種牡馬の仔が評価されるか、ということも注目ポイントになっていた。
結果を見ると、1歳セールにおいて、3頭以上産駒が上場された種牡馬で産駒の平均価格が高かったのは、キタサンブラック(1億7911万円、千円以下切り捨て、以下同)、シルバーステート(1億5033万円)、ドゥラメンテ(1億1526万円)、ロードカナロア(9435万円)、エピファネイア(9383万円)の順。以下、キズナ、レイデオロ、モーリス、ブリックスアンドモルタル、サートゥルナーリアとつづく。シルバーステート産駒の上場は3頭だけで、パレスルーマーの2022の3億1000万円が平均を引き上げている。
当歳セールでは、エピファネイア(1億8278万円)、コントレイル(1億4146万円)、キタサンブラック(1億3926万円)、ハービンジャー(1億670万円)、ブリックスアンドモルタル(8983万円)、以下、キズナ、ロードカナロア、リオンディーズ、サトノダイヤモンド、サートゥルナーリアとなっている。
また、高額落札馬の生産者を見ると、5年前の2018年は、2億円以上の値がついた1歳馬4頭と当歳馬1頭の計5頭、そして翌19年の1歳馬9頭と当歳馬7頭の計16頭の生産者は、すべてノーザンファームだった。以降、ノーザンファーム以外で2億円以上に食い込んでいたのは社台ファームのみ。それが今年は、1歳馬11頭のうち、ノーザンファーム6頭、社台ファーム3頭、白老ファームと追分ファームが1頭と、ノーザンファーム以外の牧場の健闘が目立つ。当歳馬では、前述した、前田晋二オーナーが落札したバイバイベイビーの2023(3億3000万円)の生産者は新ひだか町のグランド牧場である。同牧場の繁殖牝馬に対する投資などが実を結び、日本最大のセールに新風を巻き起こすことになった──。
億単位のことばかり書いているうちに、腹が減ってきた。最近、仕事場から徒歩7、8分のところに見つけた(というか、存在に気づいた)そば屋の日替わりメニューの、茶そばとミニかつ丼セット(850円)が、食いたい。2億円を超える夢もあれば、千円を切る幸せもある。
私が好きな言葉に、「若いうちに最低の貧乏と最高の贅沢の両方を経験すれば、感覚が豊かになる」というのがある。何しろ30年以上前に聞いた言葉なので、細かいところは違っているかもしれないし、今回のテーマとは若干ズレており、私は若くないが、ともかく、いろいろな世界の存在を知ることは楽しい。
若駒たちの今後に期待しながら、茶そばを美味しくいただくことにする。