
▲小牧太騎手から読者の皆さまへご報告(撮影:桂伸也)
「僕から報告したいことがあって…」と、小牧騎手の言葉からスタートした今回の『太論』。
近年は騎乗馬の確保が難しくなり、今年も後半戦に入ったところでいまだ未勝利という状況で、百戦錬磨のベテランが“ある決断”をしました。
これ以上はネタバレになってしまうので…、さっそく本編をご覧ください!
(取材・文=不破由妃子)
失うものはなにもない──小牧太の最後の挑戦が始まる!
小牧 今日はね、最初に僕のほうから報告したいことがあって。今年いっぱいで引退しようかと……
──えーーーーーーーッ!!
小牧 いやいや、最後まで聞いて(苦笑)。
──あ、すみません…。
小牧 今年いっぱいで引退しようかと思っててん。今年の2月頃だったかな、嫁さんと一緒に長年お世話になったnetkeibaさんの本社に行って、社長さんにもその旨を伝えて。
──それはもう「辞める辞める詐欺」じゃない…。
小牧 そう。新たな道に進もうと、一度は決断したんやわ。でもね、僕のパーソナルトレーナーをしてくれている人が、僕のエージェントをやりたいって言ってくれて…。
以前、『太論』に出てもらったことがあるから、覚えている方もいると思うんやけど、京都で加圧トレーニングスタジオを経営している淨閑延浩(じょうかん のぶひろ)さんね。実は2〜3年前から「やらせてください」って言われていたんやけど、エージェントという仕事は大変やし、子供が生まれたばっかりだったから、苦しい生活を送らせるわけにはいかないでしょう。だから、ずっと断ってたんやわ。そんなに甘いもんじゃないのは、僕もよう知っているからね。
──しかも、現在活躍されているエージェントのみなさんは、競馬新聞の現役記者か、元記者という経歴の方ばかり。まったく別の世界から入ってきた方なんて、私が知る限りおひとりだけです。淨閑さんは、確かに小牧さんのほか、何人かのジョッキーのトレーナーをされていますが、いわゆる“競馬界”とは無縁ですものね。
小牧 そうやねん。ただでさえ厳しい仕事なのに、淨閑さんの場合、外の世界から入ってくることになるわけで。僕が断ったあとは、しばらくその話は出なかったんやけど、今年に入って僕のほうから「今年いっぱいで辞めるわ」っていう話をしたら、また「最後にエージェントをやらせてくれへんかな」という話になってね。
「何度も言うけど、大変な仕事やで。甘い世界じゃないよ」って強く強く言うたんやけどね。「大丈夫です。何を言われようが、どんなに嫌な目に遭おうが、僕はへこたれない」と。さすがに僕も心を動かされたわ。そこまで言ってくれるのであれば、最後に淨閑さんと一緒に頑張ってみようかなって。それで、ずっとエージェントをしてくれていた荒木敏宏さん(競馬ニホン)にも会ってもらって、いろいろと話を聞いたりして。
──そうでしたか。エージェントをやるとなったら、JRAにも申請するんですよね?
小牧 もちろん。申請して、面接をして、ここにきてやっと許可が下りた。で、今月の22日から営業を開始していいということになったので、今日ここで報告したんやけどね。
──淨閑さんは、京都でトレーニングスタジオを経営されているわけですが、エージェントとしてはどういう動きになるんですか?
小牧 火曜日から金曜日の朝は、毎日トレセンに通うことになるんちゃうかな。で、エージェント業務が終わったら、京都に戻ってスタジオを開けて。電話だけはいつでも出られるようにってお願いしてあります。
とりあえず、今週の木曜日にトレセンにくるよ。まずは笹田厩舎に挨拶に行って、そのあとはスタンドでほかの調教師さんにも挨拶したり。荒木さんには、一緒に行ってくれるように頼んであるし、笹田さんも連れて行ってくれるやろうしね。
──そう簡単ではないことは私もわかっていますが、淨閑さんなら風穴を開けてくれそうでワクワクします。とりあえず、年内引退は撤回ということでいいんですよね?
小牧 うん。淨閑さんも慣れるまで時間が掛かるやろうし、少なくとも来年いっぱいは頑張ってみようかなと思ってる。僕もしんどいしんどい言わんとね、淨閑さんと一緒に頭を下げて回らなアカンね。
──“ジョッキー・小牧太”の最後の挑戦が始まるわけですね。
小牧 そうやね。もう失うものはなにもないからね、僕は。まぁやれるだけやってみて、それでもアカンようなら仕方がない。ただ、やり切ったという気持ちにはなれるかなと思ってる。いずれは辞めなアカンねんから、今はやれるところまでやり切ってみようっていう気持ちです。
(文中敬称略)