明暗分かれ、ジャックドールには課題が…
札幌記念を制したプログノーシス(撮影:高橋正和)
難しい芝コンディションだった。稍重発表以上にタフで重い馬場がコース選択と重なって、明暗を分けることになった。単勝230円の圧倒的1番人気に支持されたジャックドール(父モーリス)は好スタートを決めたが、スタートしてしばらくすると、馬場の内側を避けるように外に回った。
先手を主張するユニコーンライオン(父ノーネイネヴァー)、アフリカンゴールド(父ステイゴールド)、さらには先行策に出たウインマリリン(父スクリーンヒーロー)を先に行かせたのは読み通りだったろうが、途中からは前年の覇者らしい自信と余裕を持った4番手追走ではないように映った。
快勝することになるプログノーシス(父ディープインパクト)は、外枠から最初の1コーナー過ぎに馬群のインに潜り込んだ。2着するトップナイフ(父デクラレーションオブウォー)は最初からコースロスを嫌って内ラチ沿いをキープ。
勝負どころを迎える3コーナー手前では、内にトップナイフ、その外にプログノーシス、さらに外にジャックドール。3頭が同じ位置で並ぶシーンがあった。
外を行くジャックドールをマークしながら中団に押し上げたプログノーシスは、早くもジャックドールを交わす勢いで、内から馬体を併せて馬場の中央へ。ここでもジャックドールは先行集団の一番外へ回っている。手応えが悪すぎて外に振られた印象さえあった。
ジャックドールは渋ったタフな馬場を苦にしたのは確かだが、状態は悪くないように見えて実際には体調一歩だったのか、タフな芝に対応できる底力に乏しいのか、連勝が止まった昨年の大阪杯からこれで【2-0-0-5】。チャンピオン=イクイノックスなどと対決する秋のビッグレースを前に、もちろん巻き返してくれるはずで、成長力もあるはずだが、トップホースとしては再び大きな課題(カベ)を抱えることになった。
一方、同じ5歳のプログノーシスは、始動戦とはいえ複数のライバルを完封してみせた自信は大きい。「難しい馬なので…(川田騎手)」とはするが、これでコンビでの全成績は6戦すべて完勝。4敗はすべて別の騎手。早期から才能を全開させることが珍しくないディープインパクト産駒ながら、2重賞制覇は5歳になってから。まだ上昇がある。
半姉ヴォルダ(父 Orpen)は短距離タイプで、プログノーシスも見る角度によってはマイラー体型に近いが、毋方にはさまざまな距離適性をもつ馬が多く、まして万能ディープインパクト産駒。東京は初コースになるが、ビッグレースでも2000m級ならまったく心配はない。この後の目標は天皇賞(秋)と思える。
2着トップナイフは、これで重賞【0-4-0-2】。ここまで速い脚がそう長続きしない印象もあったが、インから一気にスパートする果敢なレース運びで激走。半兄ステラウインド(父ゼンノロブロイ)は6歳時の札幌記念を9番人気で14着だったが、この馬は中身たっぷりの2着。4コーナーではあわやのシーンさえあった。父は芝・ダートを問わず欧米のG1で快走(13戦7勝)したタフなタイプ。祖母ビクトリーマッハ(父バンブーアトラス)は、テイエムオペラオーの半姉。この馬場を苦にしなかったのだから、重巧者であると同時に底力のあるタイプ。菊花賞を展望することになった。
ソーヴァリアント(父オルフェーヴル)は、いきなり完全復活とはならなかったが、ハミを替えるなどで入念な立て直しに成功した。まだキャリア14戦5勝の5歳馬。不振を脱し、阪神2000mのチャレンジCの3連覇を狙う以上の活躍も望める。
11着に失速した2021年の日本ダービー馬5歳シャフリヤール(父ディープインパクト)には、喉頭蓋エントラップメント(喉鳴りに近い病気)の診断が下り、手術を受けることが発表された。残念ながら、視野に入れていたBCターフ(USA)への参戦は白紙になる公算が大きい。
4着ダノンベルーガ(父ハーツクライ)は懸命な追い切りで出走態勢に持ち込めたが、秋に向けてのあくまで始動戦だった。まだ今回が8戦目。秋のビッグレースで全能力発揮に期待したい。ウインマリリンも仕上がってはいたが、まだ完調ではなく本領発揮はこのあとになるだろう。