▲札幌記念を制したプログノーシス(撮影:高橋正和)
GI馬3頭を含む豪華メンバーで行われた先週の札幌記念。4馬身差で圧勝したのは川田将雅騎手が騎乗したプログノーシスでした。
レース序盤は後方から進め、向正面でインからポジションを押し上げて行く競馬になりましたが、川田騎手いわく「競馬は減点ゲーム」「進路取りは椅子取りゲーム」。減点(マイナス)にならないための瞬時の選択、4角を見越して椅子を取るための準備など、約2分間の競馬には川田騎手&プログノーシスのコンビならではの究極の思考がありました。濃密な札幌記念回顧をお楽しみください。
(取材・構成=不破由妃子)
コンビで6戦6勝も──「相性がいい」と表現されるのは本意ではない
──先週の札幌記念は、いろんな意味で衝撃的でした。もちろん、ポテンシャル的に勝つ可能性は十分にあると思っていましたが、あの内容とあの着差ですからね。久しぶりに競馬を見て鳥肌が立ちました。
川田 ポテンシャルの高い馬なので、あのメンバーに入っても、いい走りができれば勝負できるレベルにありますからね。加えて、あの日の札幌は特殊な馬場で、得意不得意が大きく出た結果でもあると思います。
──特殊な馬場とは具体的に?
川田 そもそも札幌は洋芝であり、先週はCコース替わりでありながら、土曜日の時点でだいぶ緩かったんです。で、日曜日の朝、さらに雨が降って。含水量としては稍重だったんでしょうけど、だいぶ緩くて荒れてもいて、適性が問われる特殊な馬場でした。
──そういう馬場に適性があるのは、最初からわかっていた?
川田 洋芝でも走れることは、洋芝の香港であれだけの走りができているので、心配するところではなかったです。ただ、あの緩くて荒れた馬場で走れるかどうかは、実際に走ってみなければわかりませんでしたけどね。
──ああ、なるほど。レース後のコメントを見て、そうだったんだ…と少々驚いたのですが、返し馬の感触はあまりよくなかったそうですね。
▲返し馬の感触は?(撮影:高橋正和)
川田 スタッフから「具合がいいというわけではない」と聞いていて、返し馬で「なるほどな」と感じる動けなさがあり、走りの苦しさが伝わってきました。僕からすると、映像で見た追い切りもこの馬本来の動きではなかったし、そういった状態も踏まえてレースを組み立てました。
──引き当てたのは、7枠13番。頭のなかでは、どんなシミュレーションをしていたんですか? あの展開をどこまでイメージしていたのか、どこまで読んでいたのか、それがすごく知りたくて。
川田 今回、シミュレーションと言えるほどのことはしてないです。
──えっ? ゲートが開いてから、あの競馬を組み立てたということですか?
川田 馬場を思うと、全体的にああいう形になるだろうというのは、改めて考えるまでもなくわかるので。流れのなかで選択した競馬です。
──“ああいう形”というのは、大半の馬が馬場の悪い内を避けて走るだろうということ?
川田 そうですね。この馬とすると、そもそもゲートが大嫌いなのに、今回は自分本来の動きができない苦しさも相まって、いつも以上にうるさかったんです。それを誤魔化して誤魔化して、たまたま出たというだけで。そういうゲートの出方をして、なおかつ具合がいいわけでもない。だから、1コーナーに入るまで、いつも以上に丁寧にバランスを作りにいって。
──そうか。位置取り云々より、まずはプログノーシスのバランスを作って。
川田 金鯱賞の1コーナーが、周りの影響もあって、あまり上手に入ることができなかった。そこへきて札幌記念は、メンバーも強いし、何よりプログノーシス自身が素晴らしいとは言えない状態。だから、ちゃんと走れる状態を作るために、より丁寧にバランスを作りにいっての最初の走りですね。
バランスを作りながら1コーナーに入って行ったとき、馬場がよくないから、みんなの意識が強く外に向いていた。その後も荒れた内には入れたくないから、外に進路が作れるような進路取りをしたい、という並びになっていた。加えて、前に行っている馬たちが力関係的に下がってくるので、もっと内側が空く形になっていくであろうことが見えていました。内にいたのは、一発狙った(横山)和生だけだったでしょ?
──そうですね。
川田 人気している力のある馬は、普通に考えてリスクの低い競馬を組み立てたいですから、当然の考え、動き、組み立てです。でも、プログノーシスの状態と馬場状態からして、いつも通り勝負どころまでリズムを作って、直線は外から動かしていくような競馬をしたとして、いつも通りのいい走りができる保証はなかった。
しかも、後ろから行った場合、みんな外への意識が強いから、ものすごく外を回らなければいけなくなる。その競馬をして勝てる可能性があるかとなると、それは極めて低いと判断したんです。
──その判断はいつ?