強気なレース運びが本番でもプラスを呼ぶ可能性
セントウルSを制したテイエムスパーダ(C)netkeiba.com
スプリンターズSに向けて、手ごたえのある内容を示したのはどの馬か。レース全体の流れは前後半「33秒5-33秒7」=1分07秒2。過去10年、良馬場で行われた9回の平均勝ち時計が阪神、中京を合わせて「1分07秒31」なので少しも遅くはない。レースレベルは標準的なものだったといえる。
勝ったテイエムスパーダ(父レッドスパーダ)は、2022年の小倉で驚異の快レコード「1分05秒8」で独走したあと、7戦も連続して掲示板にも載れないレースをつづけていたのでなんとか「ここで巻き返したい」。そのテーマはクリアした。
前半「33秒5」は馬場コンディションを考えると、GIIにしては平凡だが、後半の3ハロンは自己最速タイの「33秒7」。前半を楽に行けたのが最大の勝因ではあるが、ただ飛ばして勝ったのではなく、最後の1ハロンは「11秒7」。猛然と行って粘り込んだ内容ではないところに、成長と、パワーアップが認められた。
スプリンターズSが今回のような前半のペースになるかは懐疑的にならざるをえないが、富田暁騎手の今回と同じようなケレンなしの強気なレース運びがプラスを呼ぶ可能性はある。
同じ4歳アグリ(父カラヴァッジオ)が一気に突っ込んで2着。自身の前後半バランスは「35秒0-32秒4」=1分07秒4だった。
かつて、後方一気で2003年のスプンターズSを制したデュランダルは「34秒9-33秒1」=1分08秒0。2005年に2着した際は「34秒8-32秒7」=1分07秒5という独特の記録を残したが、アグリにはそれを上回る前後半「2秒6」もの差があった。高速の1200mを「1分07秒台-1分08秒0」で乗り切った記録とすると、きわめて特異(アンバランス)な記録になる。
ましてアグリはこれまで先行スピードを生かすタイプだったから驚く。どういう形になっても自分の時計で走れるのはトップスプリンターの証明になる。
横山典弘騎手は、土曜日の紫苑Sを勝ったモリアーナで同じように後方から乗って鮮やかに直線一気を決めたが、レース上がり33秒7のレースでどうしてこんなに切れたのだろう。スプリンターズSへの展望は大きく広がった。
3着スマートクラージュ(父ディープインパクト)は、中位追走から自身「34秒5-33秒0」=1分07秒5。上がり33秒0は、1200mにしては珍しい平均ペースになったので合格点。
1分07秒5も自己最高なので評価しなければならないが、昨年後半から1200m重賞で3着は3度目。すべて「1分07秒5-7」。安定性は文句なしだが、これ以上の高速決着は歓迎ではないかも…の印象は与えた。
1番人気のビッグシーザー(父ビッグアーサー)は楽に好位追走の形になったが、直線は伸びを欠き、逃げ馬の後半33秒7に見劣る33秒8。物足りなかった葵S3着から、巻き返すことができなかった。
父ビッグアーサーが本物になってGIIIにとどまらず、GI高松宮記念、GIIセントウルSを制したのは5歳時のこと。祖父サクラバクシンオーが完成されたのも4歳後半から5歳時だった。ビッグシーザーはまだ今回が8戦目の3歳馬。
秘めるスピード能力に、相手をねじ伏せるパンチが備わるのはこれからなのだろう。いきなりスプリンターズSで覚醒できるかには不安が生じた。
3番人気のジャングロ(父モアザンレディ)も好位追走から伸びを欠いて6着止まり。新潟の直線1000mの自身の後半600mは33秒3だったが、上がり32秒台も珍しくない直線競馬とするとあれは平凡。1200m以上では、あまり伸びなかったように映った今回の「33秒5」が自己最速のフィニッシュであり、追い比べでのパンチ不足を感じさせた。
復活を確かなものにしたかったピクシーナイト(父モーリス)は、追い切りは好時計で上がってきたが、最後は3歳牝馬ソーダズリング(今週のローズS予定)に見劣る動きだっただけに、まだ復調の途上だったか。ただ、スタートで不利があったわりにレース内容は悪くなかったので、このあとの完全復活に期待したい。
5着ロンドンプラン(父グレーターロンドン)はスタート互角。行き脚がついたあと、ここまで差す形が多かった差しタイプであり、寄られたこともあって控えたが、まだ今回がキャリア5戦目。試行で強気に先行する手があったかもしれない。