▲リハビリに励む2人の対談(撮影:大恵陽子)
昨春、痛ましい落馬事故が続きました。3月に高知競馬場で妹尾将充(まさちか)騎手が、4月には福島競馬場で藤井勘一郎騎手がレース中に落馬。脊髄損傷を負い、現在は車椅子生活を続けます。
アスリートにとって、体に麻痺が残る苦しみはどれほどか、計り知れません。きっと二人も様々な苦悩があったことでしょうが、共通の知人を介して知り合い、入院中からお互いに支え合ってきました。時に、リハビリを頑張るモチベーションになったという二人が、9月6日に栗東トレーニングセンターで念願の初対面を果たしました。
さらに、藤井騎手の粋な計らいで、サプライズゲストも登場します。
(取材・構成:大恵陽子)
「藤井さんがいなかったら、もっと孤独を感じていた」絶望の淵での支え合い
──リハビリ中、X(旧Twitter)でお互いに励まし合っていた藤井勘一郎騎手(JRA)と妹尾将充騎手(高知)。昨夜、念願の初対面を果たし、今朝は栗東トレセンにいらっしゃいました。初対面の感想は?
妹尾 電話で話していた通りの方で、優しかったです。最初はちょっと緊張したんですけど、すぐに解れました。
藤井 マサくん(妹尾騎手)が栗東トレセンに来るタイミングを僕も色々と考えていました。僕は韓国で騎乗していた時期があるんですけど、韓国で長く乗っていたのが倉兼育康騎手(高知)。倉兼騎手の後ろ姿を見て騎乗していたんですけど、倉兼さんが8月に調教師に転身して、今回トレセン見学に来るとなった時にマサくんも「僕もいいですか?」と。腰が軽くて、すごく行動力があるなって感じました。
──倉兼騎手といえば、2014年にソウル競馬場のMVPを受賞し、帰国後は高知の王者・スペルマロンの主戦騎手でしたね。
妹尾 倉兼さんには僕もとても可愛がっていただいていました。
藤井 倉兼さん、すごく優しいんですよ。今回も僕たちをサポートしてくれて、車に乗る時に車椅子をちゃんと折りたたんで後ろのシートに載せてくれたりしました。
妹尾 病院で働いていたのかと思うくらい介護が上手です(笑)。
藤井 昨日は我が家に二人で来てくれて、僕の部屋にあるトレーニング器具でマサくんは早速トレーニングをしていました。その間、倉兼さんはマサくんの車椅子に乗っていたんですよ。お茶目(笑)。
▲藤井騎手宅にある最新鋭のトレーニングマシンを満喫する妹尾将充騎手(左)と、その間に車椅子に乗る倉兼育康調教師(写真提供:藤井勘一郎騎手)
妹尾 トレーニング器具を見るとやりたくなりました。高知の病院にもない器具だったので、テンションが上がりましたね。バリアフリーの家で、快適でした。
──二人が連絡を取り合うようになったのは入院中ですか?
藤井 そうですね。落馬後、いろんな関係者から連絡をいただいて、その内の1人が高知の嬉勝則騎手でした。「高知にも少し前に落馬した子がいるんだ」と伝えていただきました。落馬後、自分の症状について右も左も全く分からなかったので、マサくんからアドバイスを聞きました。
妹尾 僕もすごく助けられました。脊椎損傷とひと言に言っても、症状や体の反応・特徴が違うので、そういう部分を自分と照らし合わせたりしました。
──ジョッキーというアスリートが脊髄損傷になられて、その立場ならではの苦悩もあったと思います。似た状況に置かれたお二人だからこそ理解し合えることや支えになったことがあるのでは? と想像します。
藤井 そうですね。アスリートなので、マサくんを見て「体の使い方がすごく上手だな」と思いました。彼が先に受傷した分、リハビリが進んでいて、「こんなことできるんだ!」っていうのを彼のX(旧Twitter)動画で感じていました。先生に「こんなことできるんですか?」って聞いてみたり(笑)。マサくんは車椅子を巧みに操るんですよね。バランス感覚はさすがだな、と思いましたし、自分のリハビリのモチベーションにもなりました。
加えて、退院したのもマサくんが結構先だったので、退院してからの生活のことを「どうなの?」と聞いたり。退院してからカヌーや馬に乗ったり、車椅子バスケやラグビーに挑戦していたよね? スポーツマンらしいなと感じました。
妹尾 カヌーはめっちゃ怖くて、死ぬかと思いました(苦笑)。
僕は藤井さんがいなかったら、もっと孤独を感じていたと思います。脊髄損傷をしたジョッキーとして連絡を取り合えることはなかなかないことで、リハビリの励みになりました。
──そうした中、藤井騎手が前向きにリハビリや日常生活に取り組む姿は我々の方が勇気づけられます。「前を向こう」と思えるようになったきっかけは?
藤井 正直、僕自身はあんまり変わっていないんですよね。これまで落ち込んだことはほとんどなくて、落馬前から常に「その時、その時を頑張ろう!」とやってきました。そういう考え方が根底にあるかもしれないです。
妹尾 藤井さんはずっと前向きですごいですよね。僕は感情の起伏が激しくて、今もたまにそうです。結構、落ち込んでしまいました。
▲退院後、明日香村の古墳へ行った藤井勘一郎騎手。「FUJII CHALLENGE」は続きます(写真提供:藤井勘一郎騎手)
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──妹尾騎手は初めての栗東トレセンです。どうですか?