▲園田競馬の新子雅司厩舎に所属するイグナイター。先日のJBCスプリントを制した(撮影:高橋正和)
不定期連載「クセ馬図鑑─愛すべき強者たち─」。このコラムでは、時にクスッと笑えるような、可愛くてどこか憎めない競走馬の個性にフィーチャーします。
第9回はJBCスプリントを制覇した地方馬・イグナイター。園田・姫路競馬から初のGI/JpnI勝ち馬となったのですが、王者の風格はどこへやら? という意外な素顔の持ち主です。柵が斜めになっているだけで驚いちゃったり、エサをめぐっておっちょこちょいだったり。
でも、やっぱりパワーは桁外れ。プレッシャーから「レースのたびにガリガリになっていく」という担当の武田裕次厩務員(新子雅司厩舎)に伺いました。
(取材・構成=大恵陽子)
並々ならぬパワーに、ジェットスキー状態!?
──JBCスプリント優勝、おめでとうございます。ゴール後の歓声や「笹川コール」はすごかったです。
武田 ありがとうございます。JBCのあの歓声は一生忘れないです。ゲートまで行っていて、帰りのバスに乗ったらレースはちょうど4コーナー。車内のモニターを見て「うぉー!」と声が出ました。興奮で、はしゃぎたおしました。
──レース後はいつ頃、イグナイターと園田競馬場に帰ってきたんですか?
武田 あんまり急いでもお客さんの帰る時間と重なるので、レース後数時間してから出発して、深夜3時前くらいに帰ってきました。
▲イグナイターが暮らす園田競馬場の新子雅司厩舎。1階が対面式の馬房で、2階には調教師や厩務員が住む(撮影:大恵陽子)
──普段は何て呼んでいますか?
武田 普通に「イグナイター」と呼んでいます。
──イグナイターは「点火装置」を意味する英語で、その性格が名前の由来だそうですね。
武田 育成牧場にいる頃、スイッチが入って走り出すと止まらなかったみたいで、それが馬名になったと聞きました。南関東からこちらに移籍してきたばかりの頃はずっとカリカリしていて、曳き運動でもジェットスキーでした。
──ジェットスキー? グイグイ進むイグナイターを、武田厩務員が体を後傾させながら抑えていた、ということですか?
武田 そうです。危ないから背筋を使って止めていて、踵でギューッと踏ん張っていたので、僕のわだちができていました(苦笑)。それくらい常歩から力が強かったです。
──たしかにそれは「点火装置」と名付けられますね。それは走る上でもいい原動力になっていそうです。
武田 実は初めて新子厩舎に来たのは3歳2月なんですけど、何も聞かされずに担当したので古馬のオープン馬かと思いました。まさか3歳になったばかりの馬だなんて思わないほど「すげーわ」と。ただ、その後に色々あって園田・姫路競馬では未出走のまま南関東に移籍することになったので、向こうで勝ちまくって、もう帰ってこないと思っていました。それが約半年後にまた戻ってきてくれました。
▲JBCスプリントをコンビで制した笹川翼騎手とイグナイター(撮影:大恵陽子)
壁に穴を開けたり、ごはんの上にボロをして自爆したり…?
──馬房にいる時はカメラを向けたらポーズを取ってくれて可愛いですね。
武田 慣れてきたんじゃないですかね。
▲「僕、イグナイターです」カメラを向けると鼻をすり寄せてきたイグナイター(提供:新子雅司調教師)
──新子調教師は「普段の落ち着きができてきたのと、スタッフも僕もスイッチの入れ方がある程度分かってきた」とJBC勝利後に話していました。馬房での様子は?