先週日曜日の夕方、金沢競馬場でレース中に突然コースの照明が消え、騎手3人が落馬し、転倒した1頭が安楽死処分となる事故があった。3人の騎手のうち、2人は病院に救急搬送された。
主催者が3日後に発表した「お詫び」の文章に記されているように、「薄暮レース」という名称ではあるが、映像を見る限りでは、普通に「ナイター」と言うべき暗さだった。出走していた人馬は、さぞ驚いたことだろう。馬は人間より夜目が利くとはいえ、本来なら自身の前頭前野となって指示を出してくれる鞍上の視界が奪われるのだから、たまったものではない。
思い出したのは、北海道で冬場に何度か経験した運転中のホワイトアウトだ。道幅を示す標識や信号はもちろん、前の車のテールランプも追突寸前まで見えなくなる。自分の身ひとつで歩いているのならまだいいが、大きさもパワーも自分より遥かに大きい乗り物を操作しているときに視界がなくなる恐怖感と絶望感たるや、凄まじいものがある。それも、途中まで見えていたのに、あるときから見えなくなると、何となく道筋の想像がついてしまうだけに厄介なのだ。
亡くなった馬の冥福と、怪我をした騎手の一日も早い回復を祈りたい。そして、主催者には、再発防止と、人馬の安全確保に向けた努力をつづけてもらいたい。
追突事故に遭ってからもうすぐ1カ月になるのに、まだ首が痛い。事故直後、何人もの知り合いから、「追突された痛みはあとから来る」「体の深部に受けた衝撃は長引く」など、心配してのことだろうが、いろいろ怖いことを言われていたのだが、本当に、事故の1週間後ぐらいに症状が一番重くなり、その後、悪化こそしないが、なかなか良化しそうな感じがしない。
診察を受けてから最初の2週間は、患部の固定と痛み止めの服用、消炎剤の塗布が中心で、それからはリハビリとして、マイクロ波治療とマッサージを受けている。
事故当日、実況検分のあと、警察官に、今は物損事故として処理しているが、追突された3台に乗っていた4人のうちひとりでも病院に行くと人身事故に切り替わって、4人全員が警察に出向いて調書を取り直すことになり、追突したドライバーの処分が重くなる、と言われた。私を含め、ぶつかられた4人には、ぶつかってきたドライバーに対する処罰感情のようなものはなかったし、自分が病院に行くことによって、ほかの3人まで調書の取り直しになるのは申し訳ないと思って遠慮していたのだが、保険会社に問い合わせたところ、物損事故のままでも保険で治療が受けられるという。それで痛みを我慢するのをやめて、病院に行った。
ときおり、私のケース同様、追突してきて過失割合が10対0なのに、まったく反省せず、「お前の停まり方が悪いんだ」みたいに言う、態度の悪い加害者もいるらしい。そういうときは、頭に来た被害者が医師に診断書を出してもらって警察に提出し、人身事故に切り替えて、加害者に重い処分を科してもらうこともあるという。
話は金沢競馬場の事故に戻るが、あれも過失割合は間違いなく10対0である。主催者の対応と、関係した騎手や調教師、馬主の出方次第では、刑事事件になってもおかしくないほど重大な事故だった。
落馬した3人を含め、出走馬11頭に乗っていた騎手たちのうち何人が、あのレースの詳細を記憶しているだろう。きちんと覚えているほうがトラウマにならないのか、それともうろ覚えのほうがいいのだろうか。
私の追突事故の場合は、何週間もあとになってのことだが、ドラレコの映像を見て、ぶつかられた瞬間の様子がはっきりわかってよかったと思った。バックミラーとドアミラーが追突してきた車の色である真っ白になったことが強く印象に残っていたのだが、それは、ぶつかった瞬間、追突してきた車のボンネットが「くの字」に折り曲がって盛り上がり、エアバッグがふくらんだのが映ったからだということが、ドラレコを見てわかった。記憶にあった「不気味な白」が「理由の明らかな白」に変わり、嫌な感じがかなり薄れた。記憶のなかで、時間の前後関係が実際と違っていたことがあったこともわかり、それもよかった。
その騎手の性格にもよると思うが、ナイター(薄暮レース)に嫌なイメージが残るようなら、記憶に蓋をするか、周囲の証言で詳細を明らかにするか、自分にとってプラスになる対応をしてほしい。
金沢競馬場に関しては、お詫びの文にある「関係者の補償」についても、今後の動きを見守っていきたい。