▲須田鷹雄氏と矢作芳人調教師のスペシャル対談第3回(C)netkeiba
独自の手腕で国内外問わず数多くのビッグレースを勝利するなど日本競馬を牽引する矢作芳人調教師と、東大卒で唯一無二の存在感を放つ競馬評論家の須田鷹雄氏が、競馬界の課題に斬り込むスペシャル対談。
第3回のテーマは「競馬界における力関係」について。競馬を構成するJRA、騎手、調教師、馬主、メディア、ファン…etc. 近年、そのパワーバランスの変化に疑問を感じているというお二人。その変化がもたらした弊害と解決の糸口についてそれぞれの立場から熱い議論を繰り広げます。
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もっと血を流してでも…未来のために推し進めたい「地方と中央の一本化」(第2回)(構成=須田鷹雄)
「関係者を怒らせないように…」忖度が働く現状
須田 こうしてお話してみると、二人の意見は一致していないと思うんですけど、目指す原則論はそんなに違わないと思う。ただ、方法が全然見つからないですね。どこから手を付けるのかと。
矢作 さっきからのこと、全てね。
須田 馬主の飽和に関しては、馬主には申し訳ないけどむしろ手当等の条件を下げて、それでも残りたいという馬主が残って十分な出走機会を得るほうがいいんじゃないのかなとも思っています。
矢作 そこはどうかな。俺はあまり同意しないけれども。
須田 そうですか。私は個人的には何億払う人と付き合うわけじゃないから、ホビーオーナーみたいなほうが好きなわけですよ。でも、ホビーオーナーにも損してでも競馬を楽しみたいという人もいれば、経済的な合理性を求める人もいる。一番ダメなのは、手当メインみたいな人に先に退出してもらわないといけない。ただ業界はそれが言えない。何十年もやってきたことは変えづらいのかと。
矢作 それはさっきから語ってきたこと。厩舎システムもそうだし、競馬のシステム、馬主会との関係、ずっと引きずっているよ。
須田 「みんな困っていないんだからいいだろ」と言われたらそれまでなんだけど、それでも変えるのか変えないのかという話。これはどうなんですかね、変えるきっかけって、競馬が傾かないと…。
矢作 結局そこかい(笑)。にしても、結論は出ないよな。
須田 はい。ただ、この対談に結論はなくていいとも思っています。今日ここまでお話した制度的なことって、先生と僕とで思想がそう違わないから、逆にこの後の話につながりにくいというか。
本当はね、意見と立場が分かれるような話が出たらよかった。今は矢作先生クラスの方に対談をお願いしたら、ご高説を賜るだけになってしまうわけです。僕は今回お願いしたかったのが、先生に今の競馬マスコミとか競馬業界とかの状態とかが見えているのか見えていないのかというところを確認したかった。先生はマスコミとの付き合い方もうまいじゃないですか。
矢作 そうかな。
須田 本当は意見が合っていない人同士とかでも言い合えるような業界に、昭和40年代の優駿みたいなことができる業界にできればしたいんです。それがいまは、「本部に怒られないように」をすごく考えて誌面を作っているんでしょうし、「関係者を怒らせないように」とかもある。
もちろん、サラリーマンとしての立場を捨ててまでとは言えないんですけど、こういう状況は、先生みたいに結果を出している調教師やカースト上位から変えてもらわないと変わらないと思う。
矢作 そのカーストの上っていう自覚がないよ…。
(C)netkeiba
須田 そうなんでしょうけど、実際にはあります。皆が忖度しているのかもしれないし。取材拒否っていうカードを切る人もいるじゃないですか。あと、子飼いの人間にしか話さないとか。JRAは悪い意味で優しいから、指導もできない。
マスコミと厩舎、ジョッキーとの揉め事を、