バランスを欠いた流れは「45秒6-50秒1」
フェブラリーSを制したペプチドナイル(撮影:下野雄規)
戦う前から難しい結果が予測されたが、有力視された1-3番人気馬が「14、8、12」着に沈む大波乱。普通はめったに荒れないが、波乱が生じる時はいきなり「大波乱」に結びつくフェブラリーSらしい結果だった。
1997年からGIに昇格して28回目。二ケタ人気馬が2頭も上位3着までに飛び込んだのはさすがに初めてのこと。実力勝負の東京ダート1600mはレースの流れ(ペース)にあまり左右されないが、今年のレース前半のペースは厳しかった。中でも前半3ハロン33秒9を追走してしまった馬はリズムが崩れたにちがいない。
前後半に2分すると「45秒6-(1000m通過57秒9)-50秒1」=1分35秒7。東京9レースの3歳戦「ヒヤシンスS」が「46秒7-(1000m59秒1)-49秒6」=1分36秒3だった。
前半の流れが1秒前後は異なるとはいえ、古馬のGIと3歳戦の勝ちタイムがわずか「0秒6」差だったのも、バランスを欠いたからという不思議な内容だった。
とはいえ、先行集団に位置しながら早めに抜け出して快勝した6歳牡馬ペプチドナイル(父キングカメハメハ)の勝利は時計以上にすばらしい内容だった。ほぼ同じような位置でレースを進めた1番人気のオメガギネス(父ロゴタイプ)は14着に、2番人気のウィルソンテソーロ(父キタサンブラック)は8着に、3番人気のドゥラエレーデ(父ドゥラメンテ)は12着に沈んだが、その敗因のひとつは「この3頭の前半1000m通過は58秒1-58秒5」。いつもよりずっときつかったことだ。
ペプチドナイルのダート戦はここまで「1700m(小回り)から2100m」。距離1600mは初めてだったが、再三上がり36秒台(最速は35秒5)でまとめていたように、本当はスピード能力あふれるタイプが本質だった。半弟5歳ハセドン(父モーリス)は、ダート1600mで3回も1分35秒台を記録し、ダート1400mには1分22秒0がある。また、ファミリーの近親馬には安田記念馬のハートレイク、宝塚記念を当時のレコード2分10秒2で制したダンツシアトルがいる。
ペプチドナイルは6歳馬ながら20戦【8-1-1-10】。オープンで活躍し始めたのは5歳以降なので、秋に向けてまだパワーアップする可能性がある。
しぶとく伸びて2着したのは、評価が難しかったガイアフォース(父キタサンブラック)。初ダートでフェブラリーSを2着したのは、GIになった1997年以降この馬が初めて。今年に入り先週まで1勝だった長岡禎仁騎手は、今週、土曜に京都で勝って、日曜の東京で最終Rを勝った。ハデな騎手ではないが、これでフェブラリーS【0-2-0-0】。ハイペースの中、落ち着いて離れた好位追走のレース運びは、2着にとどまったとはいえ満点騎乗だった。ガイアフォースは芝の1600-2000m中心だったが、初ダートのフェブラリーSを2着したことにより、出走できるレースが一気に増えることになった。実はダート巧者だった。
上がり最速の36秒4で3着に突っ込んだセキフウ(父ヘニーヒューズ)は、流れを読んで後方一気に徹した武豊騎手のウデによるところ大だが、短距離界の名種牡馬になりつつあるビッグアーサー(父サクラバクシンオー)の半弟。今回は13番人気だったが、マイル前後の重賞なら再び有力馬の評価になる。
微差の4着タガノビューティー(父ヘニーヒューズ)は、今回の組み合わせでちょうど取捨の能力基準と考えられる馬だった。寸前の競り合いで一歩譲ってしまったが、ほぼ力は出し切っている。
凡走したオメガギネスは、陣営が振り返ったように、キャリアというよりは「初の中3週がきびしかった」のも大きな原因か。立て直したい。
ドゥラエレーデは、B.ムルザバエフ騎手が「距離が短すぎた」と感じたのが大きな敗因だろうが、直前に猛然と坂路49秒1を出した追い切りが強すぎたとする見方もあった。
2番人気で8着だったウィルソンテソーロは、パドックでは落ち着いていたように映ったが、久しぶりのマイル戦で厳しい流れに巻き込まれたのが痛い。また久々の東京で、発汗気味だったのもこたえたか。
公営馬最先着の7着ミックファイア(父シニスターミニスター)は、1分36秒5で勝ち馬から0秒8差。本質はスピードを要求されても大丈夫な素質馬だが、ダートの質が異なるとはいえ、1600mの自身の最高タイムは1分40秒7。いきなり4秒以上も時計を更新したのだから、実際は見事な善戦だった。高速ダートの経験のなさが痛すぎた。まだ4歳。これからの交流レースでどんどん成長するはずだ。