グランアレグリアと渡部貴文厩務員※2019年4月撮影(撮影:佐々木祥恵)
日本に「楽しく、正しい」馬事文化を
筆者が美浦トレーニングセンターで取材をしていた頃、まだ現役競走馬だったグランアレグリアの担当厩務員の渡部貴文さんにインタビューをさせていただいた。グランアレグリアがラジオ好きで、ラジオによく耳を傾けている逸話など、それは楽しそうに話をしてくれたことをよく覚えている。
◆当時のインタビュー記事はこちら
【密着】桜花賞出走!グランアレグリア、実は政治に詳しい!? そんな渡部さんが「一般社団法人Happy Horse Creators」を立ち上げたのは、2023年4月。Youtubeチャンネル「おさむとなべ Next Challenge!!」やオンラインコミュニティでのディスカッション、イベントなどの活動をしている。
現役の厩務員である渡部さんが、なぜ厩務員以外の活動を始めたのだろうか? きっかけはJRAの元調教助手だったおさむさんと始めた「おさむとなべ」というYouTubeチャンネルだった。このチャンネルでは、おさむさんと、なべさんこと渡部さんの2人で様々な乗馬施設に赴き、乗馬や外乗をしている様子を配信していた。カメラを装着して馬に乗っているので、駈歩の時の馬の上下動や鬣がなびく様など、観ているこちらまで馬上にいるような臨場感溢れる動画に仕上がっている。だが2022年1月におさむさんが急逝し、渡部さんは1人になってしまった。
「9割5分はおさむさんが作っていましたが、チャンネルにはファンもいましたし、このままなくしてしまうのはもったいないと思いました」
幸いチャンネルのファンだった人が協力してくれることになり、装い新たに「おさむとなべ Next Challenge!!」という名称でYouTubeチャンネルを開設。そしてYouTubeチャンネルでの動画配信を中心に活動する「一般社団法人 Happy Horse Creators」を立ち上げるに至った。
渡部さんは、おさむさんと乗馬施設を回っている時に、施設の人自体がケアをはじめ馬についての正しい知識を持ち合わせていないのではないかと疑問に感じることがしばしばあった。馬が酷い裂蹄なのに外乗をさせようとしていた施設もあった。そのように疑問を持った施設での撮影は行わなかったが、馬についての正しい知識を馬のプロが伝えていく必要性を渡部さんは感じるようになっていた。
「人間側が馬に関しての正しい知識を知らないと、結局馬にそのつけが回るんですよね」
“馬についての正しい知識は、馬のプロが伝えなければ…”(撮影:佐々木祥恵)
競走馬はアスリートでもあるので、きめ細やかなケアが求められる。乗用馬や養老牧場の高齢馬は競走馬とは飼い葉や運動の内容は違う部分もあるが、馬の管理の基本は同じだ。
「現役で馬に触れているプロとしてそのあたりを伝えていきたいです」
そう話す渡部さんは、去る2月12日にJRAの馬事公苑で開催された「ホースメッセ」において、グルーミング講習で講師を務めたり、渡部さんの活動に賛同しているという藤沢和雄元調教師とトークショーを行うなど、自らの考えや思いを次々と形にしている。こうして正しい知識が広まっていけば、競走から引退した後のセカンド、サードキャリアを生きる馬たちが現状以上にハッピーに、快適に過ごせるのではないだろうか。
(つづく)
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