▲認定NPO法人引退馬協会のフォスターホースであるメイショウドトウ(提供:ノーザンレイク)
ドトウの力強い生命力
春の柔らかい日差しのもと、放牧地の青草をブチッブチッと音を立てて千切りながら、メイショウドトウが夢中で草を食んでいる。食欲旺盛なドトウを眺めるたびに、あの手術からよくぞここまで元気になってくれたと感慨深いものがある。
2月23日の早朝、厩舎の様子を見に行くとメイショウドトウが横たわっていた。この時間、眠たくて寝ている姿は見たことはなかったので、慌てて「ドトウ、ドトウ」と呼びかけた。その声に反応して起き上がったが、またすぐに脚を折りたたんで座るような姿勢で寝たので疝痛と判断し、かかりつけの獣医に連絡。必要な処置をしてもらった。
しかしその後もボロ(馬糞)がなかなか出ず、前述したような座るような姿勢で寝ている時間が長かったため、また獣医師に往診してもらい、最終的には腸捻転の可能性もあるとの診断に至った。腸捻転となれば手術が必要だが、明け28歳(3月25日で満28歳)と高齢で、全身麻酔などのリスクが大きいため受け入れてもらえるかはわからないとしながらも、診察してくれた獣医師は手術設備のある家畜高度医療センター(新ひだか町三石)に打診。診察可能の回答を得て、ノーザンレイクが開場以来お世話になっている牧場に頼んで馬運車を出してもらってセンターに運んだ。
腸捻転だと七転八倒するような痛みに襲われるケースがあると聞くが、ドトウはまだそこまでではなかった。
ドトウは状況を理解しているのか、馬運車の中や医療センターに到着して血液検査及びエコー検査を行う間も、じっと大人しく立っていた。医療センターの獣医師からは手術になった場合のリスク説明が行われ、ドトウの馬主である認定NPO法人引退馬協会からはリスクがあっても手術をするという返事を得ていたが、どちらの検査も捻転が起こっていたり即手術をするという結果ではなかった。とりあえず入院して経過観察ということになり、ドトウは入院馬房に移動した。
ノーザンレイクの代表(川越靖幸)が入院馬房横の部屋に泊まり込み、私は牧場に戻った。何とかこのまま収まってほしいと願ったが、23時40分頃、川越からドトウが寝たり起きたりを繰り返す(お腹の痛みが増してきた時によく見せる仕草)ようになったので獣医の診察の結果、手術をすることになったとラインが来た。私はすぐに引退馬協会に事の次第を伝えた。手術開始は午前0時前後。麻酔から覚醒して起立させる時に人手がいるので、手術開始から2時間後を目処に来るよう川越からの指示を受け、午前2時前に医療センター入りして微力ながら手伝いをした。麻酔から覚め、起立時も怪我をするリスクがあると説明されていたが、ドトウは全身麻酔、起立とすべてを乗り越えてくれた。
▲手術を乗り越え麻酔から覚めて立ち上がる(提供:ノーザンレイク)
手術してわかったのは、結腸付近に未消化の繊維質が詰まっていてその重みで腸の位置が変位していたことだった。捻転していて腸の壊死が始まっていれば、腸を何メートルも切る可能性もある。だがドトウの場合は腸に詰まった繊維質を取り出すのが手術の主な内容だった。
麻酔から覚め、ふらつきながらも入院馬房に戻ったドトウの姿を目にしてひとまずホッとはしたが、明け28歳での全身麻酔の開腹手術は医療センターでも初めてだったようだし、この年齢の馬が手術後どのような経過を辿るか未知の世界といっても過言ではない。それだけに退院してからのケアについて正直不安を感じていた。その一方で、開腹手術を乗り切ってくれたドトウの生命力なら大丈夫ではないかという気持ちもあったのだった。
▲入院馬房で過ごすメイショウドトウ(提供:ノーザンレイク)
(つづく)
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