退院し、慣れ親しんだ馬房に戻ってきたメイショウドトウ(提供:ノーザンレイク)
「おかえりドットさん!」仲良しのメトもお出迎え
高齢馬にとってリスクの高い全身麻酔の開腹手術を終えたメイショウドトウは、入院馬房でおよそ1日半過ごしたのち、入院時と同様にお世話になっている近隣の牧場の馬運車で退院した。
牧場で待ち受けていた私は、ドトウを乗せた馬運車が姿を現した時、家畜高度医療センターに運ぶことが決まり、恐れや不安に押しつぶされそうになっていたあの時間がふと甦ってきた。腸捻転の可能性があるかもしれないとの獣医の言葉に、正直ここへは生きて帰ってこれないのではないかと漠然とした不安もあった。だがドトウは再びノーザンレイクに戻って来てくれた。
牧場内に馬運車が停車すると、何かを感じたのかドトウと仲良しの猫のメトもやってきて、馬運車の後ろ扉が開くのをちょこんと座って見つめている。扉が開き、ドトウがゆっくりと降りてきた。お腹の包帯は痛々しかったが、足取りはしっかりしていた。
仲良しのメイショウドトウを迎えるメト(提供:ノーザンレイク)
生きて帰ってきたという喜びはもちろんあったが、ドトウを支えてくれている引退馬協会の会員様やたくさんのファン、ドトウに関わってきた多くの方々が何よりホッとしているだろうと想像すると、本当に良かったという気持ちが大きかった。
ただドトウの今後を考えると、喜びや安堵感に浸ってばかりはいられなかった。まず高齢の手術明けのドトウがどのような経過を辿るのかが未知数だったし、未消化の硬い繊維質が結腸付近に詰まったのが今回の疝痛の原因だっため、これまで食べていた乾草(硬い茎が含まれている)は与えられないので、食事自体を見直さなければならない。医療センターから引き継いでかかりつけの獣医が術後のケアをするのだが、前述したように明け28歳での開腹手術の例は珍しく、獣医にとっても飼養管理するこちら側としても手探りで進めていく状況となった。
かかりつけのT獣医による往診(提供:ノーザンレイク)
かかりつけのT獣医が朝、夕2回往診し、術後のケアを行った。ケアの内容は抗生剤の注射や開腹して縫合した箇所の確認、聴診器を当てて心音や腸の動きのチェックだった。
飼い葉は最初は草中心だったが、体の回復にはエネルギーが必要だと時折様子を見に来ていたT獣医の上司のS獣医のアドバイスにより、ビートパルプ(甜菜糖の絞りかすをペレット状にしたもの)や配合飼料、乾草を粉状にしたものなどをふやかし、それにリンシールドオイル(亜麻仁油)、米油を混ぜた飼い葉を1日6回に分けて与えた。
心配なのか、メトはよく馬房にお見舞いにきていたそう(提供:ノーザンレイク)
退院日の朝に採血検査をした結果、ヘマトクリット値が高く、脱水傾向にあることがわかった。冬の朝の放牧地で白湯を美味しそうに飲むドトウをよくSNSに投稿していたが、乾燥しやすい冬場だけに水分を摂取しているようで足りてなかったのかもしれず、これも未消化の繊維質が詰まった要因の1つとも考えられた。だが退院してからは1日を通して水分の摂取量が少なく、ボロ(馬糞)が硬くなったり出が悪かったりもしたので、朝夕補液(点滴)も行った。補液は多い時で朝10本、夕7本にのぼった。
なるべく口から水分を摂れるよう、飼い葉にはたっぷり水分を含ませるようにした。徐々にボロは柔らかくなって回数も増え、補液の本数も減ってきた。
開腹部位の縫合箇所の修復は順調で、3月4日から曳き運動を開始した。久しぶりに外に出たドトウは心なしか嬉しそうに見えた。
曳き運動をするメイショウドトウ(提供:ノーザンレイク)
(つづく)
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