▲川田将雅騎手から見た津村明秀騎手の存在とは?(撮影:福井麻衣子)
先日行われたヴィクトリアマイルにて、川田騎手の同期である津村明秀騎手がGI初制覇を果たしました。競馬学校時代から圧倒的な技術を誇り、「もっと早くから活躍して然るべき才能」と評される津村騎手。
今回は川田騎手に、間近で感じてきた天才ぶりや人柄について改めて伺いました。学校生時代のエピソードや「これからもっともっと勝てる」と思う理由など、同期の絆が随所に感じられるインタビューに。最後には、津村騎手への力強いメッセージもいただきました──。
(取材・構成=不破由妃子)
津村明秀騎手は「馬に乗ることに関しては天才ですからね」
──先日のヴィクトリアマイルでは、同期の津村さんがついにGIジョッキーに。検量室では、お互い最高の笑顔でハグを交わされていましたね。
川田 時間が掛かりましたねぇ(笑)。僕からすれば、「やっとか」という思いですよ。遅すぎです(笑)。けどね、ホントに勝ててよかったです。津村は、もっと早くから活躍して然るべき才能を持っていましたから。安っぽくなるのが嫌なので、普段は簡単に使う言葉ではないですが、彼は馬に乗ることに関しては天才ですからね。
▲14番人気のテンハッピーローズを勝利に導いた津村明秀騎手(撮影:下野雄規)
──競馬学校時代、津村さんの技術が群を抜いていた…というのは有名な話。とはいえ、競馬学校に入るまでに、みなさんと違う特別な経歴があったわけではないんですよね。
川田 競馬関係者ではなく、一般家庭の出身ですから、とくに英才教育を受けていたということはないはずです。彼がもともと持っていた骨格や筋肉、関節の柔軟性などを含めた身体能力と、“馬に乗る”という部分での感覚、感性が、みんなとは違ったということ。競馬学校時代から、彼のその群を抜いた上手さを目の前で見てきましたからね。
──そういえば、ヴィクトリアマイルのあと、津村さんの技術を「同期たちがぽかんと見惚れていた腕前」と表現していた記事を読みました。
川田 ほかの人はわかりませんが、少なくとも僕はぽかんとなんて見ていない。表現するなら凝視です。
──ガン見的な(笑)。
川田 まさにそう。入学してすぐ、津村は褒められ続け、僕は怒られ続け…。津村に対しては、妬み嫉みの塊でしたよ。そんななかで僕は骨折して、しばらく馬に乗れなくなり、みんなが乗っているのを見学するしかなかった。そのときに「あいつのように乗れば怒られずに済むんだ」と思い、松葉杖を付きながら、それこそ穴が開くほど津村だけを凝視し続けましたからね。ぽかんとなんて温い感情で過ごしてません(笑)。
▲競馬学校時代は「ぽかんとなんて温い感情で過ごしてません(笑)」(撮影:福井麻衣子)
──その結果、骨折明けの最初の試験で、津村さんを抜いて1位になったんですよね。
川田 そうです。津村を凝視して、彼の技術を僕の体で再現するにはどうすればいいかをひたすら考えた結果、骨折前と骨折後で僕の乗り方は格段に変わりましたし、その結果が大きな自信にもなりました。その後、何度か僕が1位になったこともあったんですけど、それにしたって数回だし、津村が圧倒的だったことには変わりはない。同期たちは「常に津村が1位だった」という記憶しかないでしょうし、感覚的には僕もそうです。担当教官に、「津村に勝とうとするな、あきらめろ」と言われましたから(笑)。
──そうでしたか。(藤岡)佑介さんが、「20期生は“津村か、津村以外か”という期だった」とおっしゃっていたのを思い出しました。
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【津村明秀×藤岡佑介】第1回『学校時代は“津村か、津村以外か。” 同期の中で図抜けた存在』川田 ホントにそういう扱いでしたよ。ただ、逆に言えば、彼の才能が天性のものだったからこそ、それを競馬では上手く生かし切れなかった。その理由を僕なりに分析したんですけど、ひと言で言うと、彼は馬乗りが上手すぎた。どんな馬でも乗りこなせたし、さほど考えることなく、なんでもできちゃった。考える必要がなかった、というのが正しいかもしれませんね。その考えずともできてしまうという天賦の才が、ジョッキーとしての出世を妨げたんだと僕は思ってます。
僕は下手だったから、津村に追いつくためにはどうすればいいかを考え続けた。ある意味、津村のおかげで考えることの重要性を知ったんです。佑介にしたってそうですよ。下手な僕らは、馬を上手くコントロールするために考えないといけなかった。津村の上手さを見せつけられる毎日だったので、常に考え続ける必要があり、一部分でも津村に対抗できる自分の武器を見つける必要があったんです。そうやって考えることが身についた僕たちは、当然競馬においても下手だから、デビューしてからも常に考え続ける必要があった。結果的に、それが数を勝つことにつながったのは間違いありません。
いっぽうの津村は、とにかく上手すぎた。