▲可愛いシャドーロールが話題を集めたイチャキナと若林佳樹氏(撮影:大恵陽子)
アザラシのぬいぐるみをシャドーロール代わりに、金沢競馬場で奮闘していた牝馬がいたことをご存知でしょうか。イチャキナという名の400kgに満たない小柄な馬がファンに愛されるようにと、加藤和義厩舎で当時厩務員をしていた若林佳樹氏が用意したものでした。
しかし若林氏は2019年、事故により下半身不随となりました。そうした日々で頭に浮かんだのは「馬と暮らしたい。もう一度馬に乗りたい」という思いでした。それを実現すべく栃木県に土地を取得。株式会社ちびうま団という会社を設立して牧場に整備し、将来的には「ホースセラピーや障がい者乗馬にも取り組めたら」と夢を話します。
(取材・構成:大恵陽子)
JRAジョッキーも参加したポニー競馬を主宰
──2019年に事故に遭い、現在は車椅子生活と聞きました。経緯を教えてください。
若林 事故による脊髄損傷で下半身が動かなくなりました。でも、意外とそこまで大げさではないというか、最初の頃は「しょうがないのかな」くらいでした。リハビリを含めた入院を半年ほどしていたんですけど、その間に「やっぱりまた馬の仕事がしたい」という思いと、「もう一度馬に乗りたい」と思うようになりました。
──元々はオーストラリアで馬乗りを始めて、帰国後は金沢競馬場で厩務員をしていたんでしたよね。
若林 金沢競馬場で働いていた頃から仲間と「金沢ちびうま団」というのをやっていて、幼稚園や小学校でポニーとのふれあい活動を行ったり、金沢競馬場のコースを借りてポニーレースをしていました。そのレースに騎乗した子どもたちの中には北米で活躍する木村和士騎手、JRAの松本大輝騎手、小林勝太騎手、佐藤翔馬騎手などがいて、長期休みの合宿では吉原寛人騎手や藤田弘治騎手(現調教師)に馬乗りを教えてもらう機会もありました。
その時から飼っているポニー2頭は入院中、知り合いの乗馬クラブや弟が面倒を見てくれていたんですけど、そのことも気になっていました。
▲若林さんと「金沢ちびうま団」設立時から飼っているポニーのてんてん。金沢ちびうま団のメンバーは今も応援してくれているそう。(提供:若林佳樹氏)
──早く会いたかったですか?
若林 寂しいなと思っていました。15〜16年飼っているポニーで、半年の入院・リハビリ、その後はコロナ禍で出歩けず、1年半ぶりに会った時には馬も神妙な顔をしていました。普段はやんちゃな子なんですけど、それなりに何かを感じていたのかな、と思います。