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続・スマホか騎手免許か

  • 2024年10月17日(木) 12時00分
 先週の秋華賞をチェルヴィニアが完勝し、オークスとの牝馬二冠制覇をなし遂げた。翌日の府中牝馬ステークスではブレイディヴェーグがさすがGI馬という強さを見せ、今後がますます楽しみになった。

 イクイノックスが引退し、今年の古馬戦線は主役不在と言われてきたが、ジャパンカップでは、チェルヴィニア、リバティアイランド、そしてスターズオンアースという3世代のオークス馬が激突するかもしれない。「牝馬の時代」はつづいている。

 さて、10月9日に配信された「週刊文春」電子版で、藤田菜七子さんが、昨年4月ごろまでに調整ルームに入室している時間帯に通信機器で複数回外部の人間と通信していたと報じられた。JRAが調査したところ、それが事実と確認され、藤田さんに騎乗停止処分が科されることになったが、藤田さんは引退届を提出。11日付で騎手免許が取り消され、現役を引退した。

 今年がデビュー9年目、27歳。2018年にJRA女性騎手の最多勝記録を更新し、翌19年にはJRA女性騎手初のGI騎乗、平地重賞制覇(カペラステークス、コパノキッキング)を果たした。

 競馬界に爽やかな新風を吹き込み、明るいイメージを添え、他の競馬先進国同様、何人もの女性騎手が当たり前のように活躍する基盤をつくった功績は非常に大きい。

 引退は残念だが、本人が決めたことでもあり、仕方がないとしか言いようがない。

 報じられているところによると、昨春、若手騎手6人がスマホ使用で処分されたとき、藤田さんは自分もスマホを使っていたと自己申告したが、閲覧だけで双方向の通信はしなかったということなので、厳重注意にとどまったという。これは戒告や過怠金、騎乗停止などのような競馬施行規程上の処分とは異なる指導であり注意なので、公表されなかった。であるから、藤田さんは、昨春までの外部との通信で2回重複して処分されたわけではなく、通常どおり1回しか処分されていない。

 処分に至ったのは、当時の聴き取り調査では他者と通信していなかったと言っていたのだが、それが虚偽の申告だったことが大きかったという。

 私は先週、「スマホか騎手免許か」と題した本稿を、先述した「週刊文春」電子版が配信される前に入稿した。言わずもがなだとは思うが、そのタイトルは、「スマホか騎手免許かと言われて、スマホを選ぶ人はいないでしょう」という大前提に基づいたものである。

 それだけに藤田さんが引退届を出したことには驚いた。

 繰り返しになるが、引退の処分を下されたのではなく、自ら引退したのだ。辞める必要はなかったのに、と思っている人は私を含めて多くいるだろう。

 これからも、調整ルームにおける通信機器の使用に関しては、何らかの形で取り上げられることが少なからずあるはずだ。

 デジタルが苦手な世代の私でさえ、新幹線は「スマートEX」や「えきねっと」などのアプリで予約し、スマホの「モバイルSuica」を改札でタッチして乗っている。飛行機も同様にアプリですべてを済ませている。

 土日で別の競馬場で騎乗する場合など、交通手段の確保が絶対に必要な場合はJRA職員立ち会いのもとでアプリの使用を認めるなど、柔軟な対応が求められると思う。

 騎手としては、海外ではもちろん、国内でも、例えば地方交流競走に騎乗するJRAの騎手は2時間前までに当地の調整ルームにチェックインすればいいのに、なぜ、中央の競馬場で乗るときだけは、緊急の連絡さえも認められないのか、と矛盾を感じているだろう。いわゆる「私権」を制限された状態になるわけだが、騎乗を控えた騎手がはたして「私人」と言えるのか、という議論になるかもしれない。が、それが「人権」というところまで行くと、やはりやりすぎだろう。

 とはいえ、世間一般からすると、そういう仕事だと理解したうえで騎手になったのだから、ルールがあるのなら、それに従うのは当たり前だ、という感覚だろう。勤務中に職場から私用電話をしたらダメだ、ということに等しいのではないか、と。

 だが、騎手サイドからは、「そもそも論」として、この時代に調整ルームは不要なのではないか、という声が上がるかもしれない。

 しかし、特にスマホの使用で違反が続出している今は、先週ここに書いた高速道路の制限速度引き上げのように、規制を緩める方向に進む議論は理解を得づらいと思われる。

 調整ルームから騎手が通信する相手が厩舎関係者だとしたら、競馬サークル全体への管理の徹底も必要だろう。さらに、馬主や生産者、マスコミ関係者は──とやっていくとキリがない。

 今後に関しては、JRAと騎手サイドで話を詰めて、これからも公正確保がファンの目にも見える形に落ち着かせてもらうのを待つしかない。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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