外出中にちょっと時間ができて、小腹がすいたとする。すぐそこに行ったことのないラーメン屋が2軒あって、片方は行列ができていて、もう片方は空席だらけだったら、あなたはどちらの店に入るだろうか。
ほとんどの人が、行列ができている店を選ぶはずだ。以前、ビジネスの鉄則に「仕事は忙しいヤツにふれ」というのがあると聞いたが、それに通じる心理だろう。が、今の時代はつづきがあって、多くの人が、列に並びながらスマホで2軒のラーメン屋の情報をグルメサイトなどでチェックする。で、口コミを見るとガラガラの店が結構褒められていたり、星の数も多かったりすると、腹の減り具合によっては行列から離れて、空いている店に入るのではないか。
さらに、空いている店に移った人のなかに綺麗なお姉さんがいると、それに引きずられたお兄さんがひとり、またひとりと移って、今度はこちらの店に行列ができてしまうこともあり得る。
このタイミングで初めてここに来た人の目には、最初は空いていた店が、いわゆる人気店に映るだろう。
「人気」というのは、そういうあやふやな側面を持っている。が、人気は「力」そのものであり、人気があるからこそできること、許されることというのは、世の中に数え切れないほどたくさんある。
日本馬がアメリカのダートでも勝負になることを、マルシュロレーヌやデルマソトガケ、ウシュバテソーロ、フォーエバーヤングらが証明したり、指定競走優勝馬に輸送助成金が出るようになったりと、合理的に納得できる部分は多いとしても、今週末のブリーダーズカップに19頭もの日本馬が出走するという人気ぶりには、さすがにびっくりした。昨年9頭の日本馬が出走したときも「時代は変わったなあ」と感じていたのに、一気に倍以上になった。
昨年はサンタアニタパーク、今年はデルマーと、日本から比較的アクセスのいい西海岸とはいえ、招待競走ではないレースにこれだけ出走するのは、各陣営が勝算なり手応えを感じているからだろう。
ドバイや香港に遠征する場合同様、勝てそうだし、みんなも行くからという、(適切な表現ではないかもしれないが)気楽さが手伝っているように思われる。もちろん、どんな遠征でも大変だし、リスクがあることは重々承知している。
一方、毎年のように日本馬が参戦する凱旋門賞の場合はかなり趣が異なる。こちらは日本のホースマンの「悲願」で、参加することそのものにも意義がある、とみなされている。
最近のブリーダーズカップの「人気」の背景と、日本のホースマンを凱旋門賞制覇へと駆り立てるものはまったく別物である。凱旋門賞の頂点に日本馬が近づきつつあることは結果が示すとおりだ。が、ドバイや香港、そしてブリーダーズカップのように、「勝てそうだから」ということが参戦の動機にはなっていないはずだ。
誤解のないよう申し添えるが、だからといって、凱旋門賞のほうがブリーダーズカップより上だとか、価値があるなどと言うつもりはない。
それどころか、前述した意味での「人気」で、この勢いならブリーダーズカップは、凱旋門賞のそれを圧倒してしまいそうだ。しかも、BCクラシックやBCターフといった、賞金額にも表れている、「世界の主要レースのひとつ」とみなされるレース以外でも、日本のホースマンにとって「人気のレース」「勝ちたいレース」になっている。回を重ねるうちに、それが自然と「最も勝ちたいレース」になっても不思議ではない。
人気というのは恐ろしいものだ。
ここまで日本のホースマンの話をしてきたが、ブリーダーズカップの場合、その人気は世界的なものだ。「スポーツ報知」の吉田直哉さんのコラムによると、今年のブリーダーズカップには212頭が初回出走登録を行い、うち外国馬は80頭だったという。これまでは昨年の60頭が最高で、こちらも大きく増えている。西海岸は、日本からアクセスがよくなるぶん、ヨーロッパからは遠くなるので、この数は減ってもおかしくないのだが、逆にこれだけ増えたのだ。
今、日本の競馬メディアは、「凱旋門賞」の前に当たり前のように「世界最高峰の」とつけているが、ブリーダーズカップの人気が、その枕詞を奪い取るかもしれない。
人気がなぜ恐ろしいかというと、あやふやなところがあり、ちょっとしたムードで大きく上下する不安定なものでありながら、非常に強い影響力を持ってしまうからだ。
実は、こうした話を衆議院選挙の前にしようと思っていたのだが、このタイミングになってしまった。
自民党大敗の理由はいくつもあるが、小泉進次郎さんの人気低下がそのひとつだったことは間違いない。
政治は娯楽ではないのでそうしたものに左右されてほしくないのだが、これが現実なのだから仕方がない。
今回もまた、まとまりのない話になってしまった。