白毛の一族ハヤヤッコが3つめの重賞制覇 牝系が繋いだ「パワー」と「芝適性」
血統で振り返るアルゼンチン共和国杯
【Pick Up】ハヤヤッコ:1着
3歳時のレパードS、6歳時の函館記念に次ぐ3つめの重賞制覇です。芝とダート双方の重賞を勝つ馬は、たいてい芝→ダートの順ですが、その逆は例が少なく、エルコンドルパサー、アグネスデジタルなど数えるほど。ハヤヤッコがまずダートで頭角を現したのは、パワー型のシラユキヒメ牝系に属していることが大きいと思われます。
ハヤヤッコの母マシュマロはダート2勝馬。その全姉ユキチャン(アマンテビアンコの母、メイケイエールの2代母)は関東オークスなど3つのダート重賞を勝ちました。また、その半妹ブチコ(ソダシ、ママコチャの母)はダートで4勝を挙げています。
シラユキヒメを始祖とするこの白毛ファミリーは、アメリカ由来だけに根がダート向きで、総じてパワーに恵まれています。芝向きの種牡馬を配されて代を重ね、徐々に芝適性を獲得しました。
ハヤヤッコは「キングカメハメハ×クロフネ×サンデーサイレンス」。これは秋華賞を勝ったスタニングローズと同じで、両者は8分の7同血です。スタニングローズは“薔薇一族”と呼ばれる芝向きのローザネイ牝系に属しているので完全に芝向きですが、ハヤヤッコはパワー型のシラユキヒメ牝系に属しているため、タフでダート適性があり芝の道悪も得意です。両者の適性を分けているものはそれぞれの牝系の性質です。
血統で振り返る京王杯2歳S
【Pick Up】パンジャタワー:1着
今年産駒がデビューした新種牡馬はレベルが高く、11月第1週終了時点で、JRA2歳種牡馬ランキング(賞金順)の上位10頭のなかに5頭がランクインしています。
4位サートゥルナーリア、5位ナダル、6位アドマイヤマーズが三つ巴の激戦を繰り広げており、それを7位タワーオブロンドン、10位モズアスコットが追いかける展開です。
パンジャタワーの父タワーオブロンドンは、新種牡馬のなかでJRA重賞勝ち第一号となりました。ミスタープロスペクター系のレイヴンズパスを父に持つ持込馬(外国で種付けされて日本で生まれた馬)で、4代母マーガレセンにさかのぼるファミリーは世界屈指の名牝系です。現役時代にスプリンターズSを制覇したほか、セントウルSと京王杯スプリングCでコースレコードを樹立。サンデーサイレンスともキングカメハメハとも無縁なので、種牡馬としてはほぼどんな繁殖牝馬とも交配できるメリットがあります。
母クラークスデールは不出走馬ですが、ダービー馬ロジユニヴァースの4分の3妹(母が同じで父同士が親仔)で、マキャヴェリアンを3×3で持つというユニークな配合構成です。マキャヴェリアンはきわめて影響力の強い超良血馬で、ストリートクライ、ハルーワスウィート、ホワイトウォーターアフェア、ソニンクなどの父となっただけでなく、シャマーダル、ダークエンジェル、ゾファニーといった海外の名種牡馬の母の父でもあります。同じく“マキャヴェリアン3×3”を持つ馬には、仏二冠を制して種牡馬としても大成功しているロペデヴェガがいます。
タワーオブロンドン産駒は、芝では現時点で1200〜1400mのレンジでしか勝ったことがありません。距離延長に対応することができるかどうかが今後の課題でしょう。
知っておきたい! 血統表でよく見る名馬
【ダルシャーン】
現役時代にサドラーズウェルズ、レインボークエストを破って仏ダービーを勝ちました。種牡馬としても成功し、ダラカニ(凱旋門賞、仏ダービー、リュパン賞)、コタシャーン(BCターフなど米芝G1を5勝)、マークオブエスティーム(英2000ギニー、クイーンエリザベス2世S)といった大物を出しました。ダラカニはヨーロッパの、コタシャーンはアメリカの年度代表馬となっています。
カルティエ賞(ヨーロッパの年度代表表彰制度)が創設された1991年以降、双方の年度代表馬を出した種牡馬はダルシャーン以外にいません。
ミルリーフ→シャーリーハイツ→ダルシャーンと続いてきた底力あふれる2400m向きの血統。生産者であるアガ・カーン四世殿下は、アウトサイダー血統を重んじる哲学を持ち、それを体現したダルシャーンには現代における主流血統がほとんど含まれていません。それゆえにドイツ血統と同じように現代血統のなかで新たな活力源として重宝されています。
ジャスティンミラノ、プログノーシス、ファインニードル、タワーオブロンドンといった活躍馬に含まれており、現在2戦2勝の2歳馬エリキングもこの血を持っています。
血統に関する疑問にズバリ回答!
「ベイヤースピード指数で歴代1位を出したグルーヴィの血は残っていますか?」
ベイヤースピード指数は、アメリカ人の競馬評論家アンドリュー・ベイヤーが1970年代に考案したもので、スピード指数の元祖というべきものです。勝ちタイムから馬のパフォーマンスを数値化し、異なる日、異なる競馬場、異なる距離で走ったとしても、その数値をもとに各馬のおおよその能力比較ができます。アメリカの競馬新聞デイリーレーシングフォームに各馬1走ごとの数値が掲載されており、馬券検討の材料として利用されています。
その数値のなかで歴代ナンバーワンはグルーヴィの「133」。1987年6月21日、ニューヨーク州ベルモントパークで行われたトゥルーノースH(米G2・ダ6ハロン)で記録されました。名手アンヘル・コルデロ・ジュニアを背にスタートからハナに立つと、2着以下に5.3/4馬身差をつけて逃げ切り勝ち。勝ちタイム1分07秒4/5はトラックレコードでした。この年、同馬は米最優秀スプリンターに選出されています。
グルーヴィは引退後、種牡馬となりましたが、残念ながら期待ほどの成績は残せませんでした。わが国ではリトルゲルダ(セントウルS、北九州記念)、マイネアイル(京都牝馬S-2着、ダービー卿CT-2着)などにこの血が含まれています。前者は繁殖牝馬として成功しているので、グルーヴィの血はわずかながら着実に受け継がれていくでしょう。