上がりタイムはメンバー最速の“32秒7”
ジャパンCを制したドウデュース(撮影:下野雄規)
欧州のGI馬が3頭も参戦した今年の「ジャパンC」。伏兵が行くにしても、近年、時おり生じるスローな流れになることが推測された。しかし、本来の形を崩して先行して鈍った伏兵ソールオリエンス(父キタサンブラック)以外の13頭が、みんな上がり「34秒0未満」の高速上がりになる展開までは予測できなかった。
なかなかペースが上がらない展開なので、馬群は4コーナー手前でほとんど一団。今回は天皇賞(秋)より一歩早く進撃を開始したドウデュース(父ハーツクライ)の上がりは再び33秒を突破して最速の「32秒7」。以下は13着のカラテ(父トゥザグローリー)まで、みんな33秒台だった。
天皇賞(秋)でもただ1頭だけ上がり33秒台を突破の32秒5だったドウデュースにとっても、ライバルがみんな33台で鋭くフィニッシュしているので、決定的な差はつかなかったが、それでも頂点のGIを連続して「爆発力」で連覇してみせたドウデュース。
コンビの武豊騎手が「不思議な馬」と評したことがあるように、決して無敗のチャンピオンではないが、ディープインパクト、さらにはイクイノックス、アーモンドアイと同じように、比類ない特別な才能に満ちた天才ホースなのだろう。
著しいスローなので、鞍上の武豊騎手は最初から4コーナーを回るまでずっとドウデュースをなだめ通し。それでも行きたがるドウデュースに、実際にはスタミナをロスするような負担はかけていない。これが展開の読みにくいジャパンCを5勝目の奥義だった。
では、2004年のゼンノロブロイ(父サンデーサイレンス)と同じように「天皇賞(秋)→ジャパンカップ→有馬記念」の3連覇達成なるか、となると、そのとき別の意味の「不思議な馬」になって、ファンを戸惑わせるかもしれないが、頂点のGIを特異な才能で連覇した反動や疲れもなく、ぜひ、連覇のかかる有馬記念に出走して欲しい。
2着した3歳シンエンペラー(父Siyouniシユーニ)、同着2着の4歳ドゥレッツァ(父ドゥラメンテ)は、そのレース運びも、中身も素晴らしかった。差のつきにくいはずのこの流れで、4着以下には2馬身半差なので惜しい(残念な)敗戦ではあるが、十分に誇れる。ともに海外遠征を経験しタフなたくましさを身につけ、これからさらにスケールアップできるはずだ。
坂井瑠星騎手(27)の果敢なレース運びで差し返すように伸びたシンエンペラーは、確実に次代のチャンピオンの1頭が約束された。
ドゥレッツァのW.ビュイック騎手のペースを読み切った途中から先頭を奪ったスパートも、さすがチャンピオンジョッキーだった。
2番人気で4着のチェルヴィニア(父ハービンジャー)は、好位で巧みにスローの流れに乗ったが、4コーナー手前から「12秒5→11秒5→10秒8→」と急転したペース変化に戸惑っていた。これは強敵相手との対戦経験が少なかったためではないかと思えた。
3番人気で5着だったジャスティンパレス(父ディープインパクト)も、4コーナーまでのスローから一転したペースアップに対応できなかったのが主な敗因か。上がりの数字はメンバー中3位の33秒3。最後までしっかり伸びたように速い脚が長続きするタイプだが、一気のペースアップに少し置かれるシーンがあった。
底力に加え、後半のスパートに自信のある外国馬3頭も、今年は決して凡走したわけではなかった。3頭ともにそろって上がり3ハロンは「33秒5」。鋭さ負けというより、レース上がりが「11秒5-10秒8-11秒1」=33秒4。高速ラップの連続に対応できなかった。
レース内容とは関係ないが、これだけ注目されたジャパンCの売り上げは大幅に6.5パーセント減。社会の景気の動向が主な原因だろうが、この日、競馬場に訪れたファンはほとんどが元気な若者ばかり。これは未来に向けてうれしいことではあるが、長年ジャパンCを見続けてきた年配のファンが驚くほど少なかった。ほとんどいなかった。行きたいけど入れない。これには混雑を嫌っただけでなく、入場券や指定席券の限定した近年の発売方法に一因があるのではないか。そんな声が聞こえた。